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167.再会
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ーー
「…まて」
現れたその人は、スーツ姿で、且つ険しい表情でこちらまで歩み寄ってくると、ぐいっと捕まえられていた僕の体を男たちから引き離すように引っ張った。
「お、おいっ何すんだよ!」
男の手から解放された僕は、隣に立つ久方ぶりに見る黒髪の彼を見上げる。
「こいつは俺の連れだ。何か用か?」
男たちは彼を見、しばらく睨み合った後、ちっと舌打ちをして踵を返した。
すごすごと去っていく彼らを見て、僕はほっと安堵の息をつく。
「大丈夫か?」
すぐに隣からかけられたそんな声に、僕は顔を上げた。
僕は彼を見て言った。
「ありがとうございます。久しぶりですね、…神崎さん。」
すると、こちらを向いた彼は僕を見て、仄かに口元を緩めたように見えた。
「ああ、久しぶりだな。」
そうして、そっとごく自然に僕の頭に触れてくる神崎さんを僕はきょとんとして見上げる。神崎さんは僕を見て言った。
「まさかこんなところで会うとは思ってなかったがな」
神崎さんはそして、周囲を見るように僕に促した。
「ここは近くに風俗店もあるし、危ない。1人でこんなところ、うろうろしない方がいい」
神崎さんに注意を受け、僕は素直に頭を縦に頷いた。
「ところで…、神崎さん元気そうですね。」
「は」
「スーツ、てことは仕事の帰りですか?」
神崎さんは右手で首裏をかきながら、視線を逸らした。
「そりゃあまあ…」
勤めてやっと半年経ったってとこだけど。
そう話す神崎さんを見て僕は口元を緩めた。
「へえ、…良かった。」
すると、ふとじっと僕を見てくる神崎さんの視線に気づき、僕は上げていた口角をそっと下げる。
…なんだろ?
「それより、お前はどうなんだよ」
「え?」
「あの男と、未だに仲良くしてんのか?」
神崎さんはまた視線を逸らしながら言う。
僕は、着ていたシャツをぎゅっと握った。
「はい、もちろん」
神崎さんは笑って答える僕を見つめて言った。
「…そう、か」
それから近くのバス停まで歩くと、僕は振り返り神崎さんの方を見て言った。
「じゃあ、そろそろ…僕」
そしてそのまま踵を返そうとすると、後ろから突然右腕を掴まれた。
驚いて振り返ると、神崎さんが僕をじっと真っ直ぐな目で見てきていた。
「…また今度、会いたいんだけど」
……え?
僕は聞こえた彼の言葉に目を大きくした。
神崎さんは依然として僕の腕を離さずに言った。
「ダメ、か?」
僕は神崎さんを見つめ、ゆっくりと腕を掴む神崎さんの手を振り解いた。
「駄目です、ごめんなさい。透さん…きっとすごく怒るだろうから」
「1度会うくらい、いいだろ。何もホテルに行くわけでもないんだし、久しぶりに会って話したいって思うことくらい、普通だろ」
でも…、僕はそう言い目線を伏せる。
「お前が金輪際二度と俺と会わないって言うなら、俺、今の仕事辞めて元のチンピラ時代に戻ろうかな」
「…、え…っ?」
僕は揺れた瞳で神崎さんを見る。
「お前に言われたから、前向きに色々やろうと思えたんだぜ。」
「…神崎さ…」
「それなのに、これっきりなんて納得できない」
力強い目を向けてくる神崎さんに、僕は瞳を泳がせる。僕は顔を俯かせた。
「……どうして、…そんなこと言うんですか…」
困り果てたようにそう言うと、神崎さんが突然自分の頭をぐしゃぐしゃと触った。
「あーーったく!冗談だよッ!」
「……え…」
「ただ、こうでも言わないとお前本当に二度と会ってくれなさそうだったから、だから」
そうして、神崎さんはスマホをズボンのポケットから取りだした。
「…もう会えとか言わないから、せめて連絡先くらい交換してくれ。」
神崎さんにそう言われ、僕は断りきれず神崎さんと連絡先を交換した。
その後、神崎さんはスマホをしまうと僕を見て言った。
「じゃあな。気をつけて帰れよ」
バスに乗る僕を、バス停にまだ立つ神崎さんが見ているのがわかった。
僕はバスの中から軽くぺこ、とお辞儀をすると、発進するバスに1人ふう、と息を吐いた。
神崎さん、元気そうでよかったな…。
僕は窓から見える夜の街を見ながら思った。
「……」
……透さん……。
僕は後に瞳に浮かぶ涙に気づかないフリをして、バスに揺られながら家までの帰路に着いた。
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