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169.腕の中で
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「……と、……りんと」
あれ…。
僕は目を瞑りながら、かけられる声にぴくりと眉を寄せながら反応した。
僕を、呼ぶ声……?
ゆっくりと目を覚ますと、目の前に白い天井が映った。もしかしてここ、病院か?
そう思った矢先僕は横から視界に入ってきた人物に目を大きくした。
「…神崎さん」
昨日と同じくスーツを着た神崎さんが、何故かベッドに横になる僕の傍にいた。
…どうして?
「気がついたか。心配したんだぞ」
「…神崎さん、あの」
どうしてここに?
そう、そのまま言葉を続けようとして、僕はふと額にツキン、と走る痛みに顔を歪めた。
「いったたっ」
忘れてた、そう言えば僕、さっき車と衝突して…。それで多分病院まで運ばれたのか。相手の人に随分迷惑をかけたな…。……そうだ、タマは?
「タマ…!」
僕は布団をはいでベッドから降りようとする。
探しに行かなきゃ、1人でどこかで迷子になってるかも。行かなきゃ、僕が探しに行かなきゃ……っっ。
「おいっ、何やってんだ馬鹿!」
「タマが、…猫がいなくなったんですっ!」
「病院に動物は入れられない、安心しろよ、ちゃんとお前の猫は無事だ」
ベッドから降りようとする僕の体を抑え、神崎さんが言う。
僕はその話を聞いて、体に入れていた力が抜ける。
神崎さんはぼうっと放心状態になる僕をベッドに座らせると、眉を吊り上げて言った。
「猫じゃなくて、少しは自分の心配しろよ!」
…え?
神崎さんの大きな声に僕はようやく目を覚ますように、瞳を彼へと向けた。
「怪我してるんだぞ、お前。ちょうどお前に電話かけてたら、突然お前が事故に遭ったって言われて、そのとき俺がどれだけ心配したかっ!!」
彼の膝の上に置かれた手は強く握られ、震えていた。僕は下を向いて、ポツリと言った。
「…ごめんなさい」
すると、体を引き寄せられ、僕はいつの間にか神崎さんの胸の中にいた。
「あ、あの…っ」
「本当に心配した」
聞こえた神崎さんの声は少し震えていた。
僕はぎゅっと抱き寄せられる彼の腕の中から抜け出すことができなかった。
神崎さんは言った。
「何があったのか知らないが…無茶なことするな」
「…」
「もう俺は、…大事な奴を二度と失いたくない。」
彼の感情的な声を聞いていたからだろうか、僕は瞳に涙が浮かぶのが分かった。
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