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171.真剣な瞳
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透さんがいなくなって6日目の朝。
僕はいつも通り起床し、タマに餌をやり、朝食を作った。
うじうじなんてしてられない。透さんはいないかもしれないけど、気をしっかり持たなきゃ。もう事故だって、二度と起こしたくないし。
「タマ、買い物に行ってくるよ、すぐ帰るからね」
午後、僕は食材の買い出しにスーパーへ向かった。家に唯一いる猫に僕は笑ってそう言うと、颯爽と店まで歩き出した。
どうやら今日も快晴みたいだ。
青い空を見上げて、僕は思った。
(えーと…ブロッコリーと、サニーレタスと…)
ぼうっとしながら僕は野菜コーナーでレタスを手にする。暑いからサラダと素麺でいいか…。
そのままカートを押し進めていると、
「なんだこの野菜の山。お前はうさぎか何かか?」
突然後ろからカートを覗き込まれてそう言われ、僕はビクッと肩を跳ねさせるほど驚いた。
うさぎ…?
僕は少々不機嫌げに後ろを振り返りながら言った。
「…別に違いますけど」
普段着を着た神崎さんは、傍にあったカットフルーツのスイカを手にして素知らぬ顔で僕のカートに置かれたカゴに乗っけた。
「っあの、勝手に」
「栄養付けろよ、野菜だけ食ってたって栄養が偏るだけだ。」
そして、ぱっと僕のカートを取って勝手に歩き出す神崎さんに僕は一瞬呆気に取られて立ち尽くし、後にすぐに我に返って慌てて追いかけた。
神崎さんは肉のコーナーで何やら肉を手に取って物色している。
「…あの…!何なんですかっっ?」
「俺が簡単な料理を作ってやる。暑い夏こそ肉とか魚とか食わねーと。特にお前みたいな貧弱な奴は」
カッチーン…
「僕、別に貧弱じゃないですけどっ」
「馬鹿、スーパーで騒ぐな。ほら、後ろのお婆さん、お前が邪魔になってるみたいだぞ」
「えっっ」
慌ててごめんなさい、と謝って渋々神崎さんの隣に行くことにする。ていうか…何で僕が注意受けてるんだよッッ。
「お前、こうしてると本当に子どもみたいだな。」
な…っっ…。
「ど、どういう意味ですかっ?」
「ちょうど、頭の高さが手の置き位置に丁度いいくらいの高さだ」
……。
ておいっ、何だよそれ…っ!!?
ぽんぽん、と僕の頭に手を乗せ軽く笑んでくる神崎さんを見て僕は唇と眉をむっと寄せて曲げる。
僕を完全に子ども扱いしている…っ!
それから、いいと言ったのに支払いを済まされてしまった僕は、僕の家まで食材を持って当然のように歩き出す神崎さんに駆け寄って言う。
「あ、あの、神崎さん…っ!」
「うん?」
うん?じゃなくて…。
「……僕、1人でも平気です。」
「…」
「そんなに心配されなくても僕だって一応大人です、もう事故だって起こさない」
しかし、神崎さんは僕の方は見ずに無視をしてくる。……もう…。
「大体、今日だって仕事だったんじゃ…」
「昼から休みとったに決まってんだろ。」
「…えっ」
「大切に思ってるやつが元気ないと思うと、気になって心配で仕事に集中できないんだよ。」
マンション前まで来ていた神崎さんが、ふとそう言い僕の方へと振り返る。
真剣な瞳が僕を捉え、見つめ、僕は足を立ち止まらせ、目を泳がせる。
思わず後ずさる僕の片腕を、神崎さんが掴む。
「神崎さん…あの…」
力強い手に腕を掴まれた僕は逃げられない。僕は、神崎さんの目に金縛りにあったように動けない。
…違う、彼から冗談ではない、真っ直ぐな強い思いを感じるからだ。
そのとき、
「あれ?凛人君?」
はっ…
聞き覚えのある声に振り向いた。そこにいたのは、
「朔夜さん…?」
スーツ姿で佇みこちらを見る朔夜さんの姿があった。
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