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道程クライシス
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「なぁなぁみっちゃん。俺、ヤバイかも」
ある日の出会い頭。
友人、ノリの開口一番はそんな言葉だった。
ここまではいい。
問題はその後だ。
「道ばたで勃起が止まんないんだけど!」
「ぶっ」
唐突すぎる発言に、俺は飲んでいたシェイクを吹き出した。
「…なんの話?」
水じゃないし、袖…で口を拭うのは流石に抵抗があって、普段滅多に使わない鞄の奥底のティッシュをわざわざ出して使う。
母さんに落ち歩けと半ば無理矢理押し込まれていたが…いや、母さんの言うことはちゃんと聞いておくべきだな。
「それがさぁ。みっちゃんと行くために、俺も最近この時間に登校するようになったベ?」
俺の惨状は「ティッシュ使う?」の一言だけで片付けられ、ノリはさっさと本題に入ってしまう。
人様の変態勃起事情とか興味ねぇよ。半分、なぜそうなった?な興味半分。
人通りはあまり無いし、この話題をぶった切って話したい話題もないから、俺も暫くは大人しくノリの話を聞くことにした。
因みにノリとは元々友達の友達である。
ずっと共通の友人を挟まないとつるまなかったから、親友!と呼べる程は別に仲が良かったわけではないのだが。
俺らの通学路が同じ方向だと知り、ついでにノリが遅刻魔だと分かっていたこともあり、登下校を共にするようになった。
流石に人を待たせて呑気に寝こけるのは気が引けるらしく、最初こそ寝坊癖の抜けなかったノリだが、今は待ち合わせに使っているY字路まで先に来ているくらいだ。
健全な生活を手に入れたのは良いが、それで何故勃起。
時間が無いから朝起ち放置してきてます。とかそんな凶行に及んでたりしないよな?
つーか、別に今起ってなくね?
隣に変態連れて登校した記憶もないんだけど。
「ああ、そりゃ流石に途中の公園にある公衆便所で抜いてるもん」
「…あそう」
さらっと言われても俺にはろくな返事ができない。
元から俺はこいつらと違って、弾丸トークを繰り広げるのは苦手なタイプなのだ。
三人集まれば、基本的に聞く側。
嫌じゃないし話したいことは話すから苦じゃないんだけど。
気の効いたことを咄嗟に言うスペックは持ち合わせていない。
強いて言うなら、さっきこいつからティッシュを借りないで良かった。
絶対処理に使ってんじゃん。
ナニ触った手で出してんじゃん。
なんかイカ臭くなってそう。
口には出さないけど。
「…で?なんで起ってんの?欲求不満?」
俺のどうでもいい疑問で腰を折ってしまったので、話の軌道修正をする。
朝っぱらからなんつー話をしてんだろう。
女子みたいにキャーとかヤダーとか言う気はないけど。
「いやさ、この時間に決まってジョギングしてる人がいるんよ」
腕を振る仕種をしながら話を続けるノリ。
「タイプなん?」
「いや、そいつ男」
直球に聞いたら冷静な返答が帰ってきた。
お前ソッチ系?とは聞かない。
反応が既に違うと体現している。
「その人が聞いてる音楽っ!イヤホンはしてんだけど漏れ聞こえてくるんだよ。しかも毎回おんなじ声のやつ」
「それで起つ、と」
流石にここまで絞っておいて、イヤホンの声が無関係ではあるまい。
ノリからも無言で首を縦に振られた。
てかなんでジェスチャー?
と思ったらなんか顔が赤いし。
話してて恥ずかしくなったのか、その声とやらを思い出して興奮してきたのか。
「つか歌声でとかヤバいじゃん。何。店ん中でかかってたら終わるんじゃない?」
道ばたでもそこそこ終わってる感はあるんだけど。
まぁ、人がいない朝だしセーフじゃない?
でも町中とか、学校ん中で起ったらハブルートまっしぐらだと思う。
少くとも女子からは汚物を見る目を向けられるに違いない。
「彼女作りは大学までお預けか。乙」
「いやいや、勝手に変態バレして高校の青春終了のお知らせしないでくんない?まだ望みは捨ててないからね?」
つるむ三人が三人、女っ気の無い楽しい楽しい野郎オンリー生活を送っている。
誰が一抜けるか心無し牽制し合っている感は否めない。
その中で脱落かぁ。可哀想に(棒)
「それがさぁ、色んな曲歌ってるっぽいから歌詞検索かけたんよ。で、聞いてみたんだけどどれも平気なの。てかそもそも違う声なんだよね」
「カバー曲とか?」
「それも思ったけどからぶった」
まだ続くお悩み相談。
それはいいんだけどさ、そろそろ学校が近付いてきたから人がいるわけよ。
こんな話、女子に聞かれたらマジで引かれるぞ。
「検索できない歌手ねー。それ、自撮りの曲聞いて走ってんじゃないの?」
もう電波に乗ってないなら個人の趣味説しか思い付かない俺は、半ば適当な事を言ってみる。
だとしたらそいつすっげーナル。
まぁ走ってたの男だし、絶対違うよな。
「あー、なる…」
「え、ちょ。なんでそんな悩んでんの?」
一番適当な回答に食い付かれて困惑したのは俺の方だった。
でも内輪って考え方は悪くないか?とか自画自賛して、ノリが考えている間の時間を潰してみる。
無名のバンドマンとかさ、どうよ。
「ちょっと見た目のイメージより高い声だけど…歌声って変わるもんな…」
「え?何?走ってた奴って男なんしょ?」
「ん?そうだよ。歌声も男だし」
やっぱソッチ系じゃん。
とは突っ込まないでおいた。
…………
……………………
「も、俺ムリかもしんない…」
「果てんなら一人で果てとけ。俺に見せんな」
初めての相談から早数日。
そのジョギングしてる人と時間をずらそうと待ち合わせの時間を変えてみたりもしたが、駄目だった。
正確に言うならば多少時間をズラすだけじゃ、回避ができなかったのだ。
ノリの家からY字路までは住宅街で一本道だから、すれ違うのが早いか遅いかの差でしかないらしい。
その人が見えたらこそこそ隠れるってのも最終手段だけど、そんな露骨に不審者的な行動はできたら避けたいしなぁ。
一回はすれ違うのが遅くて、いつもお世話になってる公園を通り過ぎてから、噂の声を聞いてしまったと言ってそのまま来やがった。
いやもう遅刻していいから抜いてこい。
結局俺は変態とビクビクしながら登校して、即行トイレに送り込んだけど。
見付かってたら俺まで変な噂たてられんぞ。
「なーどーしよー」
「彼女つくって耐性付ければ?」
共通の友人は交遊関係が広い上に口がゆるっゆるなので、こんな話はできない!と羞恥を堪えて力説されれば、あいつに相談を回せ。とは言いづらい。
俺も話されてもなんの助言もできないが、話して少しは気が楽になるのならば断固拒否する必要性もないかな、とか。
「そんなあっさり付き合えんなら、もうとっくにハーレム築けるよー」
「…」
何股する気だ。とは突っ込まない。
けど一人の女子と付き合うのすらハードルが高いことは身をもって知っている。
まず俺ら女子とまともに喋ったことすら無いしな。
でも声の主って男なんだっけ?
本人は起つことばっか気にしていてその相手について自覚無いみたいなんだけど、どうなん?
言った方がいい?
言ってもなんの解決にもならないよな。
寧ろ悩みの種が増えそう。
俺は俺で暫く葛藤を続けた末に、本人が気付くまでは黙っていよう。と結論付けた。
「なー!もうさ、家まで迎えに来てくんない?」
「なんでそうなる」
相談の都合上、最近はヒト気の無い校舎裏辺りで二人で昼食をする日も増えた今日この頃。
元々つるんでいた共通の友人も、タイミングよく最近絡んでいる相手がいるようなので、二人でいることに後ろめたさとかは無い。
無いのだが。
食事しながら話す内容でもないなぁ。
まぁ気にしないんだけど。
で?
なんだって?
「いやさ、みっちゃん曲とかよく聞いてんじゃん。だから直接聞いたら分かるなかって」
「…」
俺の疑問には、筋が通っているようなそうでもないような返答が返ってきた。
本人はどや顔である。
そう言えば以前、スマホで録音しようとしたけど上手くいかなかった。とか言ってたな。
流石に漏れ聞こえる程度の音じゃ拾えないか。みたいな話をしたのを覚えている。
あれは自分がマスかく用だと思っていたが、俺に聞かせる意味もあったのか。
それにしても正直めんどくさいぞ。
分岐で落ち合っている通り、道、逆だし。
「頼むよぉー。俺、このままだと腰が砕けて登校できなくなる…」
「どんだけだよ」
確かに音楽を聴くのは好きだし、その分色々漁っている自覚はある。
でも好きと言ってもたまにカラオケで歌いたくなる程度の一般的好きの範囲だ。
特別詳しいわけではない。
検索しても出てこない程マイナーな歌手にアタリをつける自信は無いぞ。
声一つでそこまで支障をきたすくらいなら、いっそ遅刻でいいんじゃない?とも一瞬過ったが、こいつ、遅刻のし過ぎで先生に目を付けられてるんだった。
まさか通りすがりに耳を犯されてます何て言えないし、じゃあ更に早起きを、と言うのはキツいみたいだし。
「はぁ。わかったよ」
最初は、ノリと二人きりだと何を話せばいいのか妙な緊張をして気が気ではなかったが、慣れてみると居心地は悪くない。
なんなら今一番つるんでいる相手だ。
相談の延長で他の話もするようになったし、帰りに一緒に寄り道することも増えた。
親友、と呼んでも許されるのではないだろうか。
そんな親友が困っているならば、一肌脱ぐのも吝かではないというもの。
「やった!じゃあ明日、早く起こして悪いんだけど、」
「いいよ。俺は朝に弱いとかあんま無いし」
なんて。
単純に、童貞を殺す歌声がどんなエロボイスなのか気になっただけだったり。
…………
……………………
「てことで、今日は俺が先に出るわ」
「早いな、部活か?」
「いや帰宅部なん知ってるでしょ」
ノリの家に向かうことになった朝、普段は先に出掛けている兄貴がまだ支度をしている中、俺は玄関に向かおうとしていた。
朝食のことがあるから母さんには前以て今日は早いことを伝えていたが、兄貴には言ってなかったな。
無駄に早く登校しようとしていれば怪訝な顔をされても仕方がないか。
「お友だちのお家に寄るのよね」
「そー」
早出の理由は台所の母さんがわざわざ顔を出して話してくれた。
何処か楽しそうなのは俺が普段、人ん家に行くってことがないからか。
そう言え放課後にゲーセンに寄ったりはするが、お互いの家に行ったことってないな。
なんて考えてみたりする。
よそはベッドの下にエロ本、とか本当にやってるのだろうか。
ノリとかやってそうなんだけど。
あ、でもそれより謎の声がイイのか。
俺と別れて帰った後、朝聞いた声を思い出してシコったりしているのか…?
「…」
「どした?」
いやいやいや。
今なんか俺、ダメな想像してた。
散々変な相談受けて、欲情した顔とかズボン越しとはいえ勃起してる姿とか見せられてるから。
ノリはともかく、俺はヘテロ。
ちゃんと彼女欲しいし。
女子に目ぇ行くし。
…ノリもそうだけど。
てか男の声に腰砕けんなるノリって、自分をどっちに据えてんだろ。
ジョギングしてた男って俺らより年上らしいし、その人の声かもって悩めるってことは声の主も年上説濃厚だよな。
そんな相手ならノリが下って方が自然じゃ?
あんな顔自分がさせてるって思ったら、男なら尚更征服したくなりそう…。
いやいやいや。
もうマジヤバいから。
俺なに考えてんの。
「なんでもないっ。と、とにかく!行ってくる」
「?ほいほい、いってら」
こんなヤバい思考見透かされる筈はないが後ろめたくなった俺は、はてなを浮かべる兄貴に早口で別れを告げると外へ出た。
このままじゃ、俺もノリのこと言えない変態になりそう。
「あ!おーいみっちゃん!」
「はよー」
不埒な妄想に悶々としていても、Y字路をいつも行かない方向に曲がったら、迷うことなくノリの家までたどり着いてしまった。
幸いにも本人の顔を見たら、俺の妄想の中で蕩け顔晒していた誰おまなノリとのギャップにより、俺の頭は冷静さを取り戻すことができた。
うんうん。
やっぱり妄想はあてにならない。
この色気無い友人に靡きかけるとか、俺も大分こじらせてんな。
「今日はどの辺で来るかなー」
「そろそろじゃね?」
緩やかなカーブを描く道のせいで、一本道とはいえ案外遠くまでは見通せない。
それでも公園がそろそろ見えてくるはずなので、噂の人物が現れるのもそう遠くはない筈だ。
と言うかなんか軽快に走っていそうな足音が聞こえて来るから、多分それがそいつだろう。
「てあれ?」
「ん?ミチじゃん」
遂に噂の人物と対面。と思ったら、そこにはよく見知った相手がいて、立ち止まる代わりにその場で足踏みをしだした。
今朝も会った、兄貴だ。
大学生だから私服で、言われてみるとちょっとスポーティー。
それに走るのに邪魔じゃなさそうな斜め掛けの鞄。
そこからイヤホンが延びている。
「何やってんの?」
「そっちこそ」
言われてみればなんか音漏れしている、はた迷惑なジョギンガーの正体は我が家の兄上だった。
「俺は最近毎朝バス停まで遠回りして軽く走ってんの。ほら、我が家の姫が料理にハマって太ってきたっつったじゃん?」
「あー」
兄貴の主張に、そう言えば妹が女子力アップとか言って料理に目覚めていたな。とか思い出す。
家族大好き兄バカの兄貴は、その度に試食に付き合わされていたんだっけ。
こっちは友人との待ち合わせだ。と簡単に済ませて、兄貴とノリも挨拶を交わした。
ノリの頬が赤いのや挙動不審なのは、緊張からだと受け取られたようだ。
イヤホンを凝視していたノリがそっぽを向いた辺りで、俺は本題を切り出した。
「なに聞いてんの?」
「ん?この間ミチとカラオケ行ったじゃん?あん時の録音」
「は?」
姫のもあんぞ。と意気揚々と告げる兄貴。
ちょっと意味がわからない俺。
「バスの時間ヤバっ!お前らもっ、遅刻すんなよ!」
「あ、うん」
スマホを覗いて時間を確認した兄貴は、ジョギングと言うより全速力で、俺らの来た道へと消えてしまった。
漏れてた声、俺?
なにそれハズい。
帰ったら兄貴には物申す必要があるな。と心に刻んだ。
それはそうと。
「おま、大丈夫かよ」
「…そうみえる?」
どんどん前のめりになっていたノリに声をかけたら、俯いていたノリが顔を上げた。
耳まで真っ赤にして目尻に涙を浮かべているその顔は、ついさっき妄想した顔に似ている。
ズボンは無事かね。染みてない?
なんかこっちの方が妄想より息遣いもリアルでエロいかも。
「こんな…長く聞くの、はじめてだし…。てか何、兄ちゃん…?」
「うんそう」
余裕はないけど疑問は尽きないようで、上目使いのまま会話は続く。
今まですれ違う一瞬しか聞かないでヌけてたんだもんな。
こんな長時間聞いてちゃ、一回や二回イっててもおかしくないんじゃないの。
なんて想像をしただけで、こっちもなんかヤバいんですけど。
「あの声っ、て…」
「あー、な」
一応俺らの会話も聞こえていたようで、マジ?と瞳で訴えかけてくるけど確かに。
言われてみれば聞き覚えのある歌ではあった。
ちょっと隠ってんのか、声質違う気はすんたけど。
そのせいかな?
こうして会話してる分には、ノリが俺に欲情する様子は無いんだよな。
んー。
「…この声、腰にクるってマジ?」
「っ!」
人通りが無いのを良いことに、ノリの耳元に唇を寄せてわざとらしく声のトーンを落として囁いたら、明らかにさっきまでとは違う反応をもらった。
「ばっ、」
「ノリ」
悪態を吐こうにも、その余裕すら奪える。
生まれたての小鹿状態で俺にすがり付くノリ。
これは、良いな。
このままイかせてみたい、なんて征服欲が産まれそう。
「マジで、ヤメ…ろ。しゃれん、ならね…」
「俺も洒落んなんねー」
耳だけで今にもイキそうな野郎を見て起つとか、俺も充分どうかしてる。
「なぁ、向こうに公園があんじゃん?寄ってかね?二人で」
ノリの余裕を奪うように低トーンのまま囁くことは忘れない。
思わせ振りに腰を抱いてる辺り、ただ体調の悪い友人を公衆便所まで連れていこうとしている。わけではないことは分かっているだろう。
見開いた目でノリが見詰めてくる。その俺しか映ってない瞳、好きだなぁ。
「…変なこと、すんなよ」
力無く潤んだ瞳で睨んできたノリに、俺は笑みを深めた。
「勿論。触りゃあしないよ。こうして声をかけるだけ」
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