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そのご13。sideーk
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「外いたんだ。…気づいて良かったー!」
なるべくいつも通りの会話を心がけた。
本当は、痛くて顔を歪められるくらい強く手を引いて
離れらんないくらい抱き締めて
行かないで、ずっとここに居て欲しいって
わがままを言ってしまいたい。
「…迎え行こうとしたけど辞めた。」
「えー?店来てくれたらコーヒー出したのに。」
一緒に過ごす最後の日くらいは、片時も離れずにそばに居たかったけど
菅沼さんに片付けとか色々あるから昼からしか会えないって言い切られてしまった俺は
渋々さっきまで家の手伝いをしていた。
店の制服の上にパーカーを羽織っただけの
オシャレとは程遠い格好の俺と
相変わらず見た目はめちゃくちゃ清楚系の超絶美人なこの人が並ぶと
……周りから見れば多分、すげえ不格好なんだと思う。
でも、俺はそれでいいし
ここが誰に見られるかも分からない外だと言うのに構わず抱き寄せてくれる菅沼さんも、
まぁ悪くは無い、くらいには思ってくれてんじゃないかな。
「…んー、今日匂い甘いな。お前。」
「あー、うん。…親父にケーキの焼き方教えて貰ってたからかな。」
菅沼さんはビー玉みたいな澄んだ瞳に俺を映して
こてんと首を傾げた。
「なにお前、継ぐの?」
「どーだろ?そこはまだ全然考えてねえ。」
「は?なんだそれ。」
この先の進路なんて考えたこともない。
大方、調理や製菓系の専門に行くのが一番現実的なのかなって
そんくらい。
でも、今はそんなことを考えたいんじゃなくて、
菅沼さんのことだけを考えていたくて、だから思い付いた。
「菅沼さんでもうまいっつって食ってくれる甘くないケーキ、そっち会いに行ったとき持っていくからさ。」
「………ん、だよ…それ…。」
必ずまた会いに行くっていう約束をこじつけるための
たんなる口実でしかないけど
それが今の俺の精一杯で。
「まずは俺から会いに行くね?だから少しだけ…待っててくれる?」
黙ってうつむく菅沼さんの瞳は
零れ落ちそうなほど涙をため込んで、揺れる。
菅沼さんは素直になった。
言葉ではあまり教えてくれないけど、それがなくても簡単にわかるくらい、態度で示してくれるようになった。
「…っ、別にそんな理由作んなくても
お前が来たいとき来たらいいんだよ…。」
胸に縋って、小さく震える菅沼さんに
俺まで込み上げるものがあって
強くて、意地っ張りなこの人の泣き顔を
ここ最近よく見るようになったなんて思えて
俺のこと考えて泣いてくれるというのは
申し訳ないと思いながらも、“泣かないで”とは言えない。
「…菅沼さんち行きたい。あんまり、あんたの泣き顔誰かに見られたくない。」
菅沼さんの柔らかな髪を指に絡めてそう言えば
その手に菅沼さんの手が添えられて
恋人繋ぎしながらすぐ前に見えるアパートに向かう。
こんなに、今日が終わらなければいいのにと思ったことはなかった。
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