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遠距離恋愛11。sideーa
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啓斗くんは時折奇妙な寝言を漏らす菅沼をちらちらと眺めながらも、
俺のつまらない昔話を真剣に聞いていてくれた。
が、俺が話し終えると
どうにも何か言いたい事があるらしく
拳を強く握ると、固く閉じていた唇を開いて
大きく息を吸って。
「べ…別に一回くらい連絡してみたら――っ。」
「だからさぁっ。…あはは、それが俺と啓斗くんの違いなわけ。」
どうせそんなことを言ってくるんだろうと
大体予想はついていた。
でも、俺はそんな風に前だけを見て突き進む強さはないんだよ。
啓斗くんみたいに綺麗な心は持っていないんだ。
「……ごめん。やっぱ酒ダメだわ俺。ちょっと外で頭冷やしてくる。」
「え、ちょ…芦屋さん!」
背中にぶつかる啓斗くんの声を無視して
壁伝いに玄関を目指す。
「昼過ぎまで帰んねーから、安心してやることやっとけ~。」
なんか煩い声がしたのは気付かないふり。
そもそも予定もなにも無いのに
なーにが昼過ぎだ。
夜は冷えるこの季節だ。
酔ってても寒いもんは寒いし凍えるもんは凍えるんだよ。
何考えてんだ、俺の脳みそ。
…ほんとつっかえね。
おぼつかない足取りで、先ほど車で通った道を当てもなく歩いた。
遅い時間帯ではあるが、大きな駅が近いお陰で
まだそこかしこに明かりは灯っている。
───まだ、痛い。
一つ思い出せば、十の出来事がよみがえるから
あれくらいじゃ足りなかったみたいだ。
……少し飲み直すかな。
ふと顔を上げれば目に入ったバーの看板。
俺はなだれ込むように扉を押し開けた。
と、そこに居たのは――…。
「え……?」
カウンターの端で一人ぽつんと座る後ろ姿。
薄暗い照明に照らされて、少し赤味を増した硬めの茶髪。
嘘だ
なんで、こんな所に?
落ち着いたトーンの「いらっしゃい」には見向きもしないで
案内された席には目もくれないで
俺は、ただ、その背中に向かい一直線に走る。
…一直線、とはいいつつも
俺のこの千鳥足ではよろよろと曲がりくねったものではあるのだが。
「っ、とーま!!」
がばりと背中に抱き着いた。
普段なら絶対に出来なかったと思うから
今日ばかりは、いつまで経っても苦手な酒に感謝してやってもいい。
だが、突然の衝撃にビクッと跳ねた身体は
俺の知っている斗真よりも…少し小さくて。
「……とーま縮んだ?」
「いやいやいや、誰ですかあなた。」
「っ、?!誰!!」
「こっちのセリフなんですが?!」
相変わらず身体は怠いけれど
さあぁ…っと、頭だけが急激に冷めていく。
「すんません人違いでした。」
「ですよね、知ってますよ。」
「…っす。」
くつくつと笑いを堪えるカウンター越しの店員は、何が面白いのか
俺を改めて、小柄な茶髪の男の隣に案内したのだった。
(芦屋編の続きはそのうち書き始めます。
次回より啓斗×菅沼に戻ります)
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