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「あはは、お酒飲んできたんだ」
「うん、初めて飲んだ」
「司君、真面目だからね」
美味しかった? と聞かれて、苦いと答えると、恭平はまた笑った。
「俺もお祝いがしたかったんだ。司君の二十歳の記念日」
「え、今から?」
「そう、今から」
そう言いながら背中を押されて、エントランスの門をくぐると、急かされるままに家の鍵を開ける。玄関口の灯りは点いたままではあるが、家の中はしん、と静寂が下りていて、いつも点いているリビングの灯りの漏れすらもない。気になって時計を見れば、午前十二時を回っていた。
「お前、明日大学は?」
「三限目からなんだ」
ほらほら、どうでもいいでしょ? そう言いながら、恭平は形の良いアーモンド形の眼差しを細めて、大きな掌で俺の背中を尚も押し続ける。
一つ年下と言えども、百七十センチの俺に対して十センチも大きく成長した彼は、外見に関して言えば、俺より年上に見えてしまう。しかし、昔から「司君」と呼んでくれるその声音だけは、幼いままで、俺の中では守ってやる弟のような存在なのは、今も変わらない。
彼のじゃれ付き方も、昔から変わらない。
「はいはい、ちょい待って」
スニーカーを脱ぎ捨て、二人で階段を上がると、俺達は二階の隅にある自室へと向かった。
「初めての飲み会はどうだった?」
後ろ手に恭平が部屋の扉を閉めると、そんな質問が飛んで来て、俺はベッドに勢いよく倒れ込みながら、友人に遊べと言われた一部始終を再び思い出していた。
しかし、そんな話を恭平に話しても、彼も反応に困るだろう。俺は曖昧にお茶を濁すように唸ってから、
「まだ酒って慣れないかも」
と呟いた。
「どのくらい飲んだ?」
「ビールジョッキ二杯」
「意外と飲んでるね。でも結構意識はっきりしてるみたいだし、弱いってことはないんだね」
何だか褒められている気がして「そうか?」なんて、笑うと、恭平は俺の隣に腰を下ろした。ベッドが軋んで、青い布団に影が落ちると、彼の匂いがした。
「恭平はまだ飲んだら駄目だからな」
「大丈夫、飲んでないよ」
どこか慰めるような声音で言われて、内心悟られるのではないかと、俺は余計な事を言わないように口を閉じて、目を閉じた。
「明日頭痛くならないといいね、水は飲んだ?」
「ん、飲んだ」
背中を支えていた手が、ゆっくりと髪の間に指を差しいれてきて、撫でられる。優しい指先の腹が心地良くて、酒の酔いもあり、瞼が少しずつ重くなってくる。
「司君、あのさ」
「うん」
「司君、もう二十歳じゃん?」
そうなんだ、もう二十歳。大人になったんだ。来年には成人式だってあるんだ。
そう饒舌に頭の中で言いながら、肯くと、
「俺、大人になった司君に言いたい事があるんだ」
言いたい事?
珍しく改まった低い声音に、瞼を押し上げて恭平を見上げた。先月初めて染めたと言っていたダークブラウンの髪が、蛍光灯の灯りに当たって、ライトブラウンに見える。
「恭平?」
見下ろしてくる眼差しがあまりにも真っ直ぐで、俺は上半身を起こすと、彼の隣に座り直した。
「どうした?」
「司君。俺、小さい頃からこの日を待ってたんだ」
この日? 俺の二十歳の誕生日?
両膝に拳を置いて、床を見つめる様に俯き加減の恭平に、いつもの子犬のような笑顔はなく、真剣な眼差しだけがそこにあった。
「俺、小さい頃から、司君の事が好きだったんだ」
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