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朝起きたら俺の愛用抱き枕が銀河系レベルの超絶イケメンに変わってました
第四話(1)
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「はじめまして。遠野弘と申します。高校の教師をしています。よろしくお願いします」
女性は苦手だ。合コンなんて行ったこともないし、そもそも誘われたことすらない。こうして恐らく良家の女性……しかも相当な美人とお見合いという絶好の機会に恵まれても、この通り気の利いたひとことも言えない俺はたぶん……いやほぼ確実に一生独身だ。
俺の抱き枕が人の姿になってから、今日で3日が経つ。あの姿を保てる期間がきっちり3日間なのだとすれば、あいつはもうただの抱き枕に戻っている可能性が高い。
『すべて夢だった』と思いたいのに、あいつが去り際に見せた表情が忘れられない。
あいつがいなきゃ眠れないのは『勘違い』だと言われた。俺があいつの想いを否定したのと同じように。その言葉で俺が傷ついたように、きっと俺もあいつを傷つけた。どんな顔もイケメンだったけど、あの顔だけは胸が痛かった……。
「お疲れなんですね。クマができてますよ」
「……あぁ、お見苦しくてすみません。ちょっと寝不足で……」
「高校の先生って大変そう」
「……あぁいえ、そんな大したことは……」
無難な話題が終わると、見合い相手は自身のことについて語り出した。趣味はショッピング。月に2回の美容室とネイルサロン。……それ、俺の収入で間に合う?傍らに置かれているバッグも、そういうのに疎い俺でも知っている高級ブランド品だ。
このいかにも高級そうな料亭を見合いの場所に指定したのも、向かいに座った見合い相手らしい。見た目は綺麗なのにぜんぜん味がしない料理は、彼女の本質を示唆しているかのようだ。
もちろんこんな冴えない俺が相手を選べる立場じゃないのはよくわかっている。だけどこんな俺にも初めから「選ばない」という選択肢はある。正直いうと、俺には結婚願望なんてかけらもない。
……結論から言って、こんな時間を過ごすために早朝から新幹線で大阪まで来るくらいなら、家で寝ていた方がよっぽどマシだった……。
「聞いてます?弘さん」
「……あぁ、すみません。何でしたっけ?」
母が肘で俺を小突きながら、「ちょっと失礼します」と言った。そのまま手を引かれ、人気のない廊下の先へと連れて行かれる。
「何考えてんの?あんた」
「……ごめん」
「真面目に向き合う気がないなら初めから断りなさい。相手の方に失礼やろ」
「……そうだな……ごめん、ほんと……」
母の言葉が胸に刺さる。……俺はバカだ。あんな風に傷つけてしまったのは、俺があいつと向き合うことに怯えて逃げたせいだ……。
「何かあったん?」
「……うん」
「オカンに話せる?」
「……もう遅い」
「……オカンもこの歳になって初めて気づくことがあるくらいやし、遅いことないんちゃう?」
「……そっか。あの抱き枕ってさ……痛った!」
「何の話してんねんアホ」
「……いや、ふざけてるわけちゃうねんけど」
28歳にもなって母親に頭をグーで殴られるとか、立つ瀬がない。
「抱き枕がどないしたん?」
「オーダーメイドだったんだな」
「はぁ?あれは竜美さんからいただいたんやろ」
「……え?……『たつみさん』って誰?」
「……あかん。どっかで頭でも打ったんかあんた」
……『たつみ』……?
何かが頭の隅に引っかかっている。頭痛がする……。
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