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なぎさ歯科の愉快な仲間たち
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ここは駅から徒歩15分、住宅街の中心にある地域密着型の歯医者さん。
その名も、なぎさ歯科
院長は渚葵羽(なぎさあおは)、32歳。
祖父の跡を継いで2年前に若干30歳にして院長に就任。
現在は院長を筆頭に、他歯科医師が1名、歯科助手2名で構成されている。
そして今、なぎさ歯科に新たな歯科医師が1名加わろうとしていた…
9月15日。
季節は秋へと移り変わろうとしている。
9月に入ってもココ最近は真夏日がじりじりと続いていたので、少し涼しくなってきた風が心地よく感じる。
俺、城田侑那は今までお世話になっていた大学病院から巣立ち、この"なぎさ歯科"で歯科医師としてお世話になることになった。
「今日からお世話になります、城田侑那(しろたゆうな)です、よろしくお願いします!」
「侑那くんはこの僕が直々にヘッドハンティングしてきたんだよ〜!勉強熱心だし素直でいい子!みんな仲良くしてね〜」
朝からやたらとテンションの高い院長が、(ほら!拍手拍手)と促すと、まばらな拍手が診療前の診察室に響き渡った。
「じゃあ僕から順番に自己紹介ね〜!なぎさ歯科の院長でーす!趣味は人間観察、好きな人のタイプは、僕を甘やかしてくれる人でーす! 」
渚葵羽さん。
俺を大学病院から引き抜いてきた張本人で、このなぎさ歯科の現院長だ。
そこらの人気俳優よりもぜんぜんカッコよくて、歯科としての実力もある。
2年前に前院長が病気で引退してから、このなぎさ歯科の院長に就任したらしい。
大学病院の口腔外科を、訳あって辞めようとしていた俺を引っ張ってきてくれて、今に至る。
「俺は歯科医師の壇上讓(だんじょうゆずる)だ。このちゃらんぽらんな院長とは幼なじみでな。まぁこいつ仕事はちゃんとやってるから、安心してくれ」
渚院長の右腕の壇上さんも、2年前に院長から引き抜かれてここへ来たらしい。
見た目も中身も頼れるお兄さん感が出ていて、なぎさ歯科のまとめ役といった感じだ。
院長と並ぶと、2人の整った容姿もあってか迫力がある。
「助手の河井奏太(かわいそうた)です。よろしくお願いします」
河井くんはなぎさ歯科の近くにある大学に通うアルバイトの子だ。歯科助手をバイトで雇う歯科医院は多いが、男の子を雇っているのは珍しいと思う。
大人しそう、というか、実際とても無口である。
「同じく助手の逢坂響(おうさかきょう)っす。趣味は音楽とか、映画とか。男しかいない職場っすけど、楽しく仲良くやりましょうね!」
一方、逢坂くんは明るくて元気な子だ。
彼も河井くんと同じ大学に通う大学生で、河井くんを歯科助手のバイトに誘ったのは逢坂くんなのだという。
「はい、皆さんよろしくお願いします!」
「うんうん、元気でよろしい!早速だけど壇上が設備の説明するから聞いてあげてね〜」
「おい、全部投げるつもりか」
「僕はちょっと野暮用がね〜!診療前には戻るから、よろしく〜」
ヒラヒラと手を振りながら、院長は嵐のように去っていった。
残されたメンバーは慣れた様子で散り散りに解散していく。
はぁ、という溜息と共に、壇上さんが短く整えられた髪を掻き上げる。
「じゃあまずユニットの説明からしていく」
「はい、お願いします!」
「城田は大学病院の口腔外科から来たんだよな?うちの設備だと物足りない気がするかもしれんが、まぁそこは目を瞑ってくれ」
「いえ、街の歯医者にしては設備は十分揃ってますし、大学病院で使用してたものと同じメーカーなので使い勝手には困らないかと」
「そうか、なら説明が省かれて助かる。レントゲンはCTも撮れるから、必要なら使ってくれ」
「はい!」
なぎさ歯科は元々、歯科医師は前院長1人、助手1人で診察をしていたそうだが、前院長が病気で倒れ現院長が引き継ぐタイミングで今の構成となったそうだ。
ちなみに、今回自分が引き抜かれたのは患者数の増加も理由だが、外科処置も行えるように環境を整えたいという院長の強い要望からだった。
口腔外科の第1線に居た自分を欲しがるのは自然に聞こえるが、まだキャリアが浅い自分に声をかけてくれた事には疑問が残る。
「_で、根治はマイクロも使うけど、触ったことは?」
「いえ、授業で取り扱いは受けましたが、実践で使用したことは…」
「まぁ卒業してからずっと大学病院の口腔外科だもんな。無理に使うことはないが、覚えた方が身になるぞ。俺で良かったら講習するから」
「いいんですか?是非お願いします!」
壇上さんは顔の作りがキリッとしていて、男の俺から見ても惚れ惚れする程体格が良く、細身で顔が綺麗な渚院長とは対極的だ。
頼れる兄貴肌な壇上さんと、甘え上手な世渡り上手の渚院長。これはこれでバランスが良いのかもしれない。
「ここまでで不明点はあるか?」
「いえ、とりあえずは_」
バンッ!!
扉が開く音と共に、鬼の形相になった渚院長が診察室に入ってきた。
大きな音に驚いてか、診察の準備を始めていた助手の2人も、こちらへ顔を覗かせている。
「おい知ってたのか壇上!」
「何をだ?」
「向かいのじーさん、半年前に死んで葬式出たろ!もう閉めるかと思ってたのに、リニューアルオープンだって!」
「でもあそこは院長とその奥さんしか居なかったろ。息子さんが引き継ぐのか?」
「いや、確か家族は海外に居るって聞いた。わざわざ海外から戻ってきてオンボロ歯医者継ぐかね…」
「俺の目の前にいるが?」
「…あーはいはい!そうですよ!そうですね!」
この2人は幼なじみでもあり、大学の同期でもある。2人の噂は、世代も大学も違うのに耳に入ってくるほど有名だ。
当時、2人は大学の院に残り薬品の研究をしていて、かなりの成果を出している。
正直、小さな歯科医院にこの2人が揃って居るのが不思議なくらいだ。
「あの、リニューアルオープンって、何の話しですか?」
「ああ、道路挟んで向かい側にも歯医者があったんだよ。半年前に院長が亡くなってからは閉めてたけど」
「なのに急にリニューアルオープンだって!じーさんには悪いけど、ライバル減って喜んでたのにー!!」
バタバタバタバタ
「「なーぎーさーいーんーちょおおおおお」」
診療前にも関わらず勢いよく診察室に入ってきたのは、今にも泣きそうな顔をしたスーツ姿の男性だった。
首から下げられた名札には医療機器商社の表記があるので、商社の営業担当なのだろう。
他のスタッフは驚きもせず、大の大人が泣きじゃくるその光景を傍観している。
「美波くん今日は早いね〜?」
「渚院長が新しいレセコン買ってくれないから!上司に出社早々追い出されたんですーーー!!!!」
「いやだって今のタイミングでわざわざ替える必要ないし…」
「うちが初めて手がける大きな新事業なんですー!!契約ノルマもあるんですー!!後生だからぁあああ」
「えっと、これは一体…」
「悪いな城田。初日早々こんなで。美波、自己紹介してやってくれ」
「ハッ!!そちら新しい先生ですね!お見苦しいところをお見せしました!なぎさ歯科さんには贔屓にしてもらってます、医療品営業担当の美波陽平(みなみようへい)です!」
「あ、はい、初めまして、城田侑那と申します」
「ああ、なんて純粋そうなお方…!こんなところに居ては心が穢れてしまいかねない…!!」
「さっきまで泣きついてたくせになんか酷い言われようだなぁ〜」
「それはそれ、これはこれ!さぁ、ここに印を押してください!」
「それより美波くん、向かいの歯医者のリニューアルオープンについて何か知らない?君、じーさんの時に営業行ってたよね?」
院長が質問を投げかけたその瞬間、まるで空気が凍りついたように鎮まる。
美波さんは下を向いたまま動かず、小刻みに震え出してしまった。
流石の渚院長もその異変に不安気な表情を浮かべている。
「ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙」
その瞬間、美波さんは奇声を上げながら床に崩れ落ちてしまった。
「美波くん遂に壊れたの?!」
「美波、お前本当に大丈夫か?」
「あ、あの、とりあえず椅子に座ってください!」
「ぐすん…もう院長がレセコン買ってくれないと、いよいよ僕はクビです…もう終わりです…」
「わかった、わかったから!買うから!」
「え、本当ですか??????」
「ほら印鑑も押したから、クビになりそうな理由を説明して!」
「ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙やっぱり渚院長は神様だぁあああ」
「あのー」
先程まで物陰で様子を伺っていた河井くんが、ひょこっと出てきて一刀両断する。
「もう診察始まります」
こうして、朝から濃い初日で俺のなぎさ歯科生活は幕を開けた_
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