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Love in puzzle
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Love in puzzle
湿った空気の中、静かに日は刺す。
その日も、蝉はやかましく鳴いていた。
音無 隼人(おとなし はやと)は、都内にある、公立N高校の二年生。朝たまたま早起きできたので、今日は久しぶりに焦って電車に走り込む必要も無い━と、晴れやかな気分で家を出、駅のホームに着いた矢先、電車に遅延が発生していることを知った。
「…ちっ、折角遅刻の心配ご無用かと思えばこれか…。こんなことならプリバスのステージ6の裏面コンプリートまでやってしまうんだった…」
眉間にシワをよせ、ずり下がったメガネを2本指で直す。データ量節約のため、なるべく開かないようにしているスマホを握りしめ、込み上げてくるイライラをなんとか抑え込む。
きりりとしたシャープな目元、引き締まった口元、スラリとした鼻に加え、175cmの高身長。普通にしていれば顔立ちの整った好青年という、容姿には恵まれた彼。が、問題が1つ。
自分の好きなものに、正直すぎるということ。
電光掲示板を見ると、遅延は約5分。時間に余裕がある人なら大した影響は無い遅延だが、彼にとっては訳が違う。
隼人が愛してやまないオンラインスマホゲーム、『プリンセス・バスターズ』、通称、プリバス。「プリンセス」と呼ばれる戦闘能力に長けた美少女達が、様々な戦局を駆け抜ける、というのがこのゲーム。データ量をかなり食うので、基本、WiFiがない場所ではプレイしない。
隼人はそのゲームを愛するあまり、家を出るギリギリの時間までこのゲームをしているのである。無論、やりすぎて時間を忘れ、結局、彼は学校では完全なる遅刻魔扱いをされている。
隼人の独自の基準では、5分あればこのゲームのステージ1つくらいは余裕でクリアできる時間に当たる。つまり、彼にとって、5分無駄にするのは、プリンセス・バスターズ1ステージ分を無駄にした、という感覚なのだ。
何よりもこのゲームを愛する隼人にとって、このゲームをすることの出来ない空白の時間は、何よりも腹立たしい時間なのだ。
「はぁ〜あ、電車なんぞの遅れでマリーナとの時間を失うなんて…」
隼人が何よりも愛している、ゲームのキャラクターの「マリーナ」。彼がこのゲームを愛している理由の1つでもある。
ゲーム内でマリーナに会い、愛でるのが何よりもの至福。それを少しでも阻害するものは、如何なるものでも許せない。
『お待たせ致しました、まもなく、電車が到着致しますー…』
遠くから、電車の音が聞こえてくる。
時刻は8時15分。まだ早朝だというのに、本格的に日が刺していた。
本校には各教室にWiFiが設置されており、生徒は自由に使うことができる。隼人も、この環境をいい事に、休み時間は必ずゲームか、動画サイトでゲームの攻略動画鑑賞に没頭する。
先述した通り、彼は外見だけならイケメンなのだが、いかんせん本人の性格故に、モテとは縁遠い人生をこの約17年間歩んできた。常にスマホと睨めっこ、口を開けばゲームや好きな動画のことをお構い無しに一方通行で話すという難癖ある男に、思春期真っ盛りの男女が絡みに行くということはこのご時世難しい。その美貌に釣られ彼に話しかけるも、性格を知って熱が冷めた…なんて女子は後が絶えない。
最も、彼には何よりもの推しのマリーナが心の中にいるので、特に困ってはいないらしい。
…いや、彼の心の拠り所は、マリーナ1人ではない。クラスメイトの高坂 光一(たかさか こういち)、彼も音無と大きく関わっている。
高坂 光一、17歳。音無と同じ市に住んでおり、中学校が唯一一緒だった。少し癖のある猫っ毛、ぱっちりした、だが今にも泣きそうな大きな目。肌は貝の裏側のように透明に美しく透き通っている。今どきの言葉で言えば、乙女系とか、可愛い系男子、といったところが当てはまる。パーカーで萌え袖にし、片手にロリポップなんて持たせたら、女子ウケ間違いなし、そんなところだ。
どこか臆病で、押しの弱い彼は、昔からいじられキャラだった。カースト上位の人間から目を付けられ、嫌がらせをされ泣いたことも数え切れないほどある。
いや、そんな過去はもう彼にとっては一種の思い出にすぎない。今、何よりも悩ましいのが…
「おい、高坂」
「ひぇっ!」
そう、この男、音無 隼人である。
「今日空いてるか?…いや、空いてるよな。また俺んちで対戦やろーぜ。」
「ま、またぁ…!?」
「…何かあんのか?」
「な、無いよ」
「じゃ、約束だ。学校からそのまま俺んちだからな」
「……うん…」
隼人の、一方的すぎる、ゲーム対戦の誘い。
隼人はもう1つ、大好きなゲームがある。『クラッシュパズル』という、家庭用ゲーム機用のパズル要素が売りの対戦型ゲームだ。パズルとキャラクターの対戦要素が1つになったこのゲームの相手として、光一はいつも無理やり隼人の家に呼ばれる。
無論、それは隼人のストレス発散のためだ。
光一はあまりゲームが得意な方ではない。どちらかと言えば、静かに読書をする方が好きである。というより、無駄な争いを好まない性格なのだ。例えそれがゲームであっても、勝ち負けが明確にでる対戦というものが、光一はどうにも好きになれない。同じ中学校出身というだけで目をつけられ、こんな関係がなりたってそろそろ1年だ。高校一年生の時から同じクラスなのである。
対戦とはいえ、隼人と光一はゲームスキルにかなりの差がある。いつも勝つのは決まって隼人。手も足もでない未熟なゲーマーをフルボッコにすることで、日頃のストレスやうさを晴らすのだ。
傍から見れば言い様によってはイジメともみられるこの行為だが、あくまで過剰なだけで「友達同士、仲良くゲームをしている」と言ってしまえばそれっきりなのだ。周りも隼人の光一に対する過剰な干渉には薄々気づいているが、それに関して首を突っ込もうとするものは勿論1人もいない。
「はぁ〜あ…」
光一は小さな背を丸め、ため息をつく。
「あの二人、またやってんな〜」
「別に仲良いわけではないんだよね、あれ」
「中学一緒だったからだろ」
「よくそれだけの関係でここまで続くな…」
「でもさぁ、高坂君はいいとして…音無ってさぁ、顔はいいけど、中身がアレだから、できれば関わりたくないしね…」
長ったらしい授業が終わり、チャイムが鳴り響く。
教科書をしまう光一の元へ、とある女子生徒がかけよる。
「ねーねー、たかっちー」
「なーに?」
彼をたかっち、と呼ぶこの女子生徒は、前から高坂にちょくちょく絡んでくる牧本 蒼奈(まきもと あおな)。
「ぶっちゃけさ、たかっちって音無とどういう関係なの?」
「えっ……」
「あーそれ気になるー!」
その質問を皮切りに、周りの女子数名も集まってきた。彼の女子人気も侮れない。
「だってさー、あの音無だよ。」
「そーそー。顔はよくても陰キャで性格ブスの音無!」
「2人って、中学の時から仲良かったの?」
「えーっと……うーん…」
ふわふわした猫っ毛の髪を指で絡め、光一は首を傾げた。
「中学の頃は…3年生の時同じクラスで…、お互い、顔と名前を知ってる程度…だった、かな」
「えーっ、その程度!?」
蒼奈が目を見開く。
「高校入ってから急に仲良くなったの?」
「いや、仲良くというか…あっ」
光一が固まる。彼の前で壁になっている女子の隙間から見える、こちらを訝しげに見ている隼人の姿。
きっと、この会話も聞こえている。
「うーん…お、音無が…誘ってくれてるだけだよ」
「ふーん?」
曖昧な返事に興味が無くなったのか、女子達は去っていった。
「お前、あいつらとどんな事喋ってたの」
「えっ」
帰りの電車の中、隼人と光一は何も喋ることもなくただつったっていた。…かと思えば急にこんなことを聞かれた。
「牧本だったよな、よくお前に絡んでる…どんな事喋ってたの?」
「……別に、何も」
君との馴れ初めだよ、なんて口を滑らせたら今後の致命傷だ。
「なぁ、お前、牧本の事好きなの?」
「はっ!?」
電車の中では相応しくないような素っ頓狂な声が出てしまい、思わず口を手で塞いだ。
「い、いや、別に…そりゃ、友達としては好きだけど…そういう意味じゃない」
「ふーん、そっか」
思春期頃の男子ならここからもう少し話が弾んでも良さそうだが、やはり彼にはマリーナが何よりの存在で、光一は2番目くらいにしかならないらしい。光一の答えを聞いて、すっかり満足してしまったようだ。
だが、光一は一つだけ気づいている。
二人きりの時だけ、隼人の対応は、ほんの少し柔らかになるということを。
隼人の家は割と駅の近くで、歩いて15分程で着く。
もう何度も見て見慣れた音無家の表札を横目に、簡易的に作られた玄関の石畳を跨ぐ。
「たーだいまー」
「お、おじゃましまーす」
他人の家に入ると感じるあの独特の匂いも、最近は感じなくなった。
たまに隼人の母親が出迎えてくれることもあるが、今日は何の声も帰ってこない。
「…お家の人、誰もいないの?」
「んー、買物じゃね?」
「玄関の鍵開いてたのに…?」
ドタドタと2階の自室へ上がっていく。
6畳一間の、2人入るには少し小さい部屋。
ベッド、学習机、エアコン、本棚、クローゼット、部屋の真ん中には学校の机2つ分くらいの大きさのミニテーブル、そして…テレビ。
光一がかつて初めてここへ来た時驚いたのが、自室にテレビがある、ということだ。物は少し古いが、映りもいいし、申し分ない品質だ。光一の家は貧乏というわけではないが、そこまで飛び抜けて裕福というわけでもない。家のリビングには勿論大型テレビはあるが、個人の自室にまでテレビがあるなんて、彼にはとても予想できないのである。
中古を安く買っただけ、と隼人は豪語してはいるものの、光一目線から見れば、音無家はかなり裕福な家庭に見える。
ピッ、という音が聞こえた。隼人が部屋にクーラーを入れてくれたらしい。
「あっちぃ〜」
シャツをパタパタ、いかにも暑そうな隼人。
光一はテレビの前にあるミニテーブルの前に行儀よく正座した。
「んな行儀よくすんじゃねーよ、男ならあぐらかけ、あぐら」
「う、うーん、じゃあ」
もぞもぞとあぐらをかいた。
パタン、と扉が開いて閉まる音。隼人が部屋を出て行った。
ゴーとエアコンが動く音だけがこだます。
しばらくすると、隼人がお盆に菓子とジュースをのせて持ってきた。無理やり誘うとはいえ、多少の気遣いや作法には意外と敏感なところがあるのだ。
袋のままのポテトチップスとポップコーンに、500㎖のペットボトルジュース2本。ある意味、彼らしいと言えば彼らしい出し方だ。
盆をミニテーブルの上にのせ、「ほらよ」とだけ言った。
「あ…わ、わざわざありがとう」
「………。」
何も言わない隼人。黙ってゲームの準備をする。
相変わらず動かない光一。何か諦めたように、菓子の袋を指さした。
「食えよ」
「うん」
お腹がすいていたので、ポテチの袋だけ開けて食べた。コンソメ味。
キャラクター選択をし、ルール選択をし、対戦に入る。もうずっとこのゲームをやらされているのに、ゲームスキルはちっとも上達しない。
あっというまに、隼人が優勢になった。
「ちっ…あ、くそっ…おい、ああっ!しゃあっ!!!」
ゲーム中の隼人は気性が荒い。勝てば問題ないが、負けたら手に負えなくなる。
最も、手に負えない状態を見たことは、光一は1度もない。
どうせ負け試合なので、初めから本気で挑まない。ご親切に頂いたポテチをつまみながら、のんびりと自分のフィールドがやられるのを眺めるだけだ。
パズル画面もキャラクターの体力ゲージもあっというまに無くなり、光一はすぐに負けた。
「はぁーん!俺の勝ちぃ!」
弱者を負かしただけでこの興奮。
「おい、もう一回やるぞ」
これが隼人が飽きるまで続く。10回もやれば次第に飽きる。
部屋の中に、ゲームの音が響き続けた。
光一が帰る頃には、夜の6時を回っていた。
夏真っ盛りのこの時期、6時でも夕方という気がまるでしない。
凝り固まった親指の第一関節をポキポキならしながら、夕方独特の蒸し暑い道を足早に歩く。
隼人の親は、結局最後まで帰ってこなかった。
誘い方は無理やりとはいえ、光一は最近思うようになった。
割と、角が取れてきたな、と。
昔、2人がまだ高一だったころは悲惨だった。今のように菓子やジュースなんて出るわけもない。誘い方も今より何倍も強引だ。もともとはストレス発散が目的なので、罵詈雑言も激しかった。
それが、ここ最近、やたらと対応が丸くなり始めた。
丸く、というより、先述したように、まるできちんと客をもてなすかのように、菓子やジュースを出すようになったのである。ゲーム中も集中のあまり唸る程度で、罵詈雑言はほとんど聞こえなくなった。あくまで、自宅に、友達を誘うような、そんな感じで。
一体、彼にどんな心境の変化があったのだろう、と光一は考えているのだが、その原因はまるで分からない。単に本人が礼儀や作法を気にし始めたのか、自分を友達として意識するようになったのか…分からない。この仮説も、多分どちらも違う。
夏の夕日が、静かに地平線へ落ちていった。
次の日。蒸し暑い空に、しとしと雨が降っていた。
傘がいるような、いらないような、そんな微妙な天気。
「あーくそ…めんどくせーなぁ…」
昨日に続いて早起きに成功した隼人は、面倒くさそうにスマホの天気アプリを開く。
「午後から本降りか…しゃーね、歩くのめんどいし、バスで行くかー…Suicaの残高いくら残ってたっけな」
ボリボリ頭をかきながら、制服を用意した。
どうやらアプリの予報は外れたようで、彼がバスに乗り込みしばらくすると一気に降り始めた。
「やべ…これ折りたたみ傘で行けっかな」
学校に着くと、多くの生徒が靴下を窓の傍に干していた。濡れてしまったらしい。
隼人は幸い、干したいと思うほど濡れなかった。水滴を大量に受けた鞄を机の上に置く。
プリバスの画面を開こうと、スマホを取り出す。が、その前に、前の方の席に座っている光一の姿が先に目に入った。
むくりと席を立ち、光一の背を叩く。
「おい高坂」
その次の言葉を発しようとした時ー…隼人の目に、いつもと違う、異様な光景が写った。
光一が机の下にスマホを隠すようにして読んでいる、電子書籍のような何か。
「おーい、何読んでんだよ」
光一は何も返さない。夢中で読んでいるのだろうか。
「なーにこそこそ読んでんだよ」
少しばかりオーバーリアクションで、光一のスマホを取り上げる。
「えっ、ちょ、音無っ…待って!待って、返して!」
後ろの隼人と取り上げられたスマホの存在に気づいたのか、顔を真っ青にしてスマホに手を伸ばす。
「何だこれ、小説?んーとどんなやつだよ」
「か、返して!!!」
「壊したりしねーよ…ん、何だ、これ」
「あっ……」
真っ青だった光一の顔が、見る見るうちに赤面した。
スマホの字面をある程度拾うように読んだ隼人。思わず声に出てしまった。
「えっ、何これ…BL?」
「わ!わーっ!!!」
そう。それは、紛れもなく、BL小説だったのだ。それも、かなり生々しい表現の…。
「お前、マジで?」
「…………っ」
顔を真っ赤にしたまま俯く光一。隼人の声が大きすぎたようだ。周りの視線は、2人に釘付けになっていた。
そんな様子にようやく気づいた隼人は、ここにきて初めて、自分が犯してしまった事を自覚した。慌てたようにスマホを返し、訂正する。
「い、いやっ、まぁ…好みは人それぞれだよな!!!」
「………やめて………」
不器用ながらに空気を一掃しようと試みるも、効果は無し、いや、寧ろ逆効果なようだ。光一の目からは、ポロポロと真珠のような涙が零れていた。
「………。」
それを見ている誰一人、何も言わない。
光一が、無言のまま、静かにスマホをしまい、席に座った。
「…………ごめん…」
いつもの光一に対する態度は、出せるわけもない。外で、大きな雷が1つ、なった。
流石にあんな事をしてしまっては、光一をゲームに誘う訳にはいかない。隼人は、しばらく距離をおいた。
いや、今はそれの何倍も、心にへばりついてならない不安がある。
光一が、学校に来ない。
事件当日は帰りのHRまで彼は教室にいた。が、翌日、そのまた翌日と、彼は教室に姿を見せない。そして、今日は3日目。やはりいない。
「あら、高坂さんは今日も欠席なの?」
朝のHRで、担任の速水 基子(はやみ もとこ)が教室を見渡す。
「誰か、高坂さんが来ない理由、知らない?一昨日から何の連絡も無いのよ」
誰も何も言わない。隼人は、意識的にか無意識にか、背を丸めた。誰かが彼の方を振り向いたりした訳でもない。でも、みんなの背中が言っているのだ。
「誰のせいかは知っている」…と。
「……。」
隼人は、今まで感じたことの無い感情で胸の中が溢れかえっていた。
「あぁっ…くそっ…!!」
一昨日に比べ雨足はさらに激しくなり、さしている傘に意味があるのかないのか、分からなくなってきた。
いや、今はそれどころではない。
光一の家へ、高坂家へ、重い足を一歩一歩進めてゆく。
なぜ学校へ来ないのか。明確だ。自分が、光一に恥をかかせたからだ。あんな所でBL読むな、なんて文句を言う権利は今の隼人には無い。
あの時はごめん、俺が悪かった。だから、ちゃんとまた学校に来てくれ。
俺とまた、ゲームの対戦してくれ。
そして、もし、お前にその気があるなら…………
しばらく歩くと、高坂家に着いた。
雨はやんではおらず、粒の荒い霧吹を全身にかけられるような雨だった。
深呼吸をし、チャイムを押す。
「あ、あのー…音無です、けど、あの…いるか?高坂」
5秒たった。出ない。10秒たった。…でない。
15秒…20秒…30秒…でない。心臓が口から飛び出そうだった。もう一度押してみようか、と、震える指をボタンにかけたその時だった。
トタ、トタと軽い足音が扉の向こうから聞こえる。息が荒くなった。
足音は、扉の目の前で止まった。5秒。来るか。来ないか。どっちだ。
「あ、あのー!」
すると、遠慮がちに扉が空いた。光一だった。
「……音無?」
「…高坂」
3歩前に出る。ダボッとしたルームウェアの、萌え袖からチラつく指に、光一はぎゅっと力が入った。
「ごめん!俺が悪かった!!!」
ほぼ完全に直角に頭を下げた。
「えっ」
たじろく高坂。
「お前に恥かかせて…すまなかった!」
「………。」
「だから…ちゃんと、学校、来てくれ!そんでまた、ゲームの相手してくれ!」
ほんの数十秒だが、隼人には何時間もの時のように思えた。しばらくの沈黙。先に口を開いたのは、光一だった。
「…いいよ。もう。気にしないで」
「ほんとにか?」
「うん。」
あっさりと言われてしまった。
「…怒ってないの?」
「そりゃ、嫌だったよ。今も嫌だ。あれが気まずくて、それで学校行けなくて。…でも、恨んでも何も変わらないし…それに、結構本気で後悔してるでしょ。顔見れば分かるよ」
「……。」
心無しか顔が熱く火照るのを感じた。
「本当に、ごめんな、高坂」
「いいよ。もう。ちゃんと謝りに来てくれてありがとう。」
「じゃ、さ、俺んち来てくれよ。ゲームしようぜ」
「あの…クラッシュパズル…?だっけ」
「う、うん」
長い付き合いなのに、よく分からないきごちなさが、2人の間を埋めていた。
「行こうか」
「うん」
まるで、会いたての2人のようになっていた。
「これ、菓子」
「うん、ありがと」
隼人のいつもの活きの良さはどこか遠くに行っているようだった。
隼人の母は、出かけているのか留守だった。
テレビの電源も入れず、ミニテーブルの前に2人してちょこんと座る。
「なぁ、高坂」
「なぁに」
「傷を抉るようで悪いんだが…あれって、その…男同士が恋愛する話…だよな?」
「う…ん、まぁ、BLだしね」
「ああいうの、好きなの?」
「んー…まぁ、好きだね」
「それは、その、読むのが?」
「うん、まぁ、読むのも勿論」
「…も?今、『も』って言った?」
「え、あ、いや、その」
詰め寄る隼人。焦る高坂。
「高坂、単刀直入に言う。俺、ゲイなんだ。ホモなんだよ。」
「えっ?」
紅潮する隼人。戸惑う光一。
「ゲイって、えっ、ゲイ?マジなの?」
「マジだよ。大マジ」
「でも、どうして突然そんなこと僕に」
「……きだから…」
「えっ」
「お前が好きだから…!」
「えええええっ!?」
小学校5、6年生くらいだろうか。
隼人が、自身に違和感を感じたのは。
体育が終わった後の時間、教室で一緒に着替える男子達の、下着を脱いだ上裸の姿に、ある時から、妙な興奮を覚えるようになった。
心の奥がゾクゾクするような、下半身に変な感覚がよじ登ってくるような…最初は、その感覚が何なのか、分からなかった。
ある日の事、高校生の兄がいるとあるクラスメイトの男子が、自慰の話を、男子の輪の中で小声でしているのを聞いた。
『なんかよく分かんないけど、兄貴が部屋でハァハァ言いながら、チンコを手でゴシゴシ擦っててさ。オナニーって言うらしいぜ。めちゃめちゃ気持ちいいんだって』
へぇ、とか、何それ、とか、そんな声が小さく上がると、続けざまにその男子は言った。
『それだけじゃないよ。兄貴さ、エロ本持ってんの。俺見たの。水着アイドルのグラビアとかじゃなかったんだ。裸の女の人が、色んなポーズとってるやべーやつだった』
『マジ!?やべーじゃん!』
それからしばらくした日、隼人は当時通っていた塾から夜遅く帰る最中、通りかかった公園のベンチに、変な雑誌が置かれているのに気がついた。近づいて見てみると、あの男子が言っていた、『裸の女の人が色んなポーズをとってるやべーやつ』そのもの…つまり、成人向け雑誌だった。
好奇心にかられ、中を覗いた。偶然にもそれは、裸体の女が大きく股を広げている写真だった。体には、白い液体の様なものがあちこちかけられた写真。
隼人はそれを見…その場で、雑誌をぶん投げ、そして、えずいた。
気持ち悪い。最初に覚えた感想が、それだった。
初めて見た女性器に驚いただけではなかった。今まで感じたこともないような…例えば、とてもグロテスクな、血みどろの肉片でも見たような、そんな気分に襲われた。
後から、男は、ああいうもの…つまり、女の裸体や、女性器を見ると嬉しくなって、興奮するのだ、と知った時、隼人は頭上に大きな雷が落ちたような、そんなショックな気持ちになった。
小学校を卒業した春休み、隼人はスマホを買ってもらった。
あの時の男子の言葉をふと思い出し、女性の裸体の画像をインターネットで検索した。悪質なサイトの事はよくわかっていたので、十分に注意をはかった。
多くは、女性器の部分が、モザイク処理された画像。普通は、男はこういう写真で興奮するらしい。が、隼人はそれらを見ても、何とも思わない。いや、寧ろ、不純で、不潔だとすら感じた。こんなものの何がいいのか、さっぱり分からない。同時に、あの時、男子の上裸姿に興奮した事を思い出し、悩んだ末、男のそれらしい姿も検索した。画面一面の、屈強な若い男の上裸の写真。夢中になって眺め、ついに裸体を検索した。その写真の中には、勃起した男性器のものもいくつかまざっていた。
それらを見ていると、股間の方がムズムズしてきた。見てみると…勃起していた。
(やっぱり、俺、男が好きなんだ)
6年生で保健の授業で習った、性教育、そして、LGBT。10~20人に1人は、こういう人がいてもおかしくないし、普通のことなのだ、と…そう習っていた。そして、自分がその1人だと、悟った。下着の中に手を入れ、固くなった己の肉棒を、夢中になってしごいた。
その日、彼は生まれて初めて射精した。
現実、3次元に生きる女性達は、どんなに美しく着飾っていても、発情して股を開けばみなあのエロ本と同じなのだろうか、そう思うと、尚更、隼人は現実世界の女性というものに興味が無くなっていった。やがて、好きになるのは2次元に生きる紙の上の少女達だけ…そんな風になっていったのだった。
「ぼ、僕のことが好き…!?って、そ、それって…そのぉっ…!?」
「…うん。恋愛対象として好き…」
「…………っ」
言葉が詰まって出てこない。あまりにも突然すぎる告白に、どう反応していいか分からない。
「もしかして、今まで僕をこうやってゲームに誘ってたのって」
「いや、最初はマジでストレス発散のために誘ってた」
「す、ストレス発散って…」
「でもその、途中から、段々とさ、まぁ、ほら…」
「なるほどね」
顔を真っ赤にして俯く隼人。一方で光一は、どこか悟ったような、そんな表情をしていた。そして、心の中で密かに、音無って可愛いところあるんだなぁ、と思ってもいた。
「合点がいったよ。ほら、最初は、態度は乱暴だし、言葉遣いは酷いし。なのに、途中から、段々と角が取れてきたって言うか、妙に友情を意識したような感じの態度になってきたなぁと思ってたんだ。まさか、そういう事だったとはね」
「気持ち悪いと思った?」
「音無がゲイって事を?」
「…うん」
「全然。僕、腐男子だし、寧ろ好感度上がったよ」
「よかった」
ホッと胸を撫で下ろす。
「…で、その…へ、返事は」
「ん〜」
わざとらしく唇に指をあて、一言。
「なんて答えて欲しい?」
「えっ、なんてって、そりゃ」
こもったような声で、言った。
「そ…そりゃ、はい の方が…」
「…………実はね、僕、両刀なの」
「えっ、それって」
「男と女、両方いける口ってこと」
「えっ」
いつもと完全に勢力が逆転している。偉そうな態度が消え、オドオドする隼人が、どこか好ましいような、そんな風に、光一は見えてきた。
「いいよ。OK。」
「ほんとに!?」
「ほんと。…それに」
今度は光一が少しばかり頬を赤らめ、言った。
「実はね、嬉しかったんだ。音無が、話しかけてくれるのが。ゲームに誘ってくれるのが。ちょっと乱暴なのが気になってたってのもあって、最初は、これって友達と考えていいのかなって不安だったけどさ…ほら、僕、こんなだから、男友達いなくって…ちょっと心細かったんだ。」
「ほ…ほんとに…」
二人とも林檎のように顔が真っ赤になっていた。震える口を開き、隼人が言った。
「光一って…呼んでもいいか?」
「…うん。勿論。…隼人」
互いの心臓が、はち切れんばかりに鼓動を打つ。喉の奥まで響きの聞こえてくる鼓動は、二人の欲を筒抜けにした。
「キスしても、いい?」
「うん」
震える唇を、静かに重ねた。お互いのファーストキス。愛、欲情、様々な感情が互いの熱となり、しっとりと互いを吸い込み、覆う。
心臓の鼓動はさらにやかましくなった。が、それすらも歓喜の感情でかき消されていた。隼人は、閉じていた目を半分開けた。相変わらず林檎の頬をし、目をぎゅっと閉じながらプルプルと身を震わせている光一が、何とも愛しくて仕方がない。
己の欲に任せ、隼人は舌を入れ込んだ。
「んんっ!?んっ…」
突然口内に侵入してきた慣れない異物に困惑する光一。舌と舌が絡み合い、2人は更に繋がってゆく。下腹部の一端に血が集まるのを、二人揃って感じていた。
「ぷぁっ…」
唇と唇が離れ、銀の糸を引いた。
互いに反り上がった陰部を目で見る。
「感じちゃった?」
「おと…隼人こそ」
互いの欲は、複雑に絡み、混じりあってゆく。
「お前、童貞だよな」
「う、うん」
「…なぁ、しない?」
「………いいよ」
ドサリ、とベッドに二人で横たわる。
隼人が、光一の上に優しく跨った。制服を脱ぎ、下着を脱ぎ、それらをベッドの下に放る。
たじろぐ光一の服を脱がせながら、言った。
「俺が脱がせる」
雪のように白い肌。ぷっくりと、可愛らしいピンク色の乳頭。胸の奥からやってくる、ゾクゾクとした感じの歓喜。あの時、小学生の時、クラスメイトの男子の上裸を見て興奮したのと同じものを、光一の体で感じていた。
「…好きだ、光一」
「うん。僕も」
下着を脱がせ、光一も全裸になった。服と下着をベッドの下に放り、互いに見つめ合う。
生まれたままの姿で、互いの秘部が重なりあった状態で。体は、熱と興奮で、段々と汗ばんできた。
「俺たち、変だな」
「ほんと、変だね」
微笑みあい、また、キスをする。
ネチョ、クチュ、と水の音をたてながら、隼人は、光一の乳首に触れた。
「んっ…」
光一の体が跳ねる。感じているようだ。
その甘い声を聞きたくて、乳首を触る手と指に少しずつ力を入れていく。時に強く、時に優しく、撫で回し、軽くつねったり、指の腹でグリグリと押しながら円を描くように、慣れた手つきで弄り回す。
「んっ、ん、あっん、まって…」
光一の荒くなった息が隼人の頬に当たる。
「お前、ほんとに初めてかよ…淫乱すぎ」
「は、隼人こそぉっ…んっ…!」
血管が浮き出るほど勃起した光一の肉棒は、快楽を求めるかのようにプルプルと震えている。隼人の肉棒も、同じように反り上がっている。
「は…ま、まって、も、無理」
唇を離し、光一のソレに目をやると、先走りが確認できた。
「気持ちいいんだな」
「あっ…う……」
面白くなって、今度は乳首に口付けした。小さく光一が震えるのを見、そのまま乳首を吸い上げ、舌で愛撫する。
「はっ、あ、ん……」
先程とは違う快感に、光一は集中しているのか、荒い呼吸がしっかりと聞こえてくる。
舐めているのと反対の乳首を、指で優しくつねった。
「ひゃんっ……!!」
可愛いなぁ、と思いながら、ちらちらと光一のとろける口元を眺めた。
下の方はあえて何もせず、胸だけを刺激し、合間に激しいディープキスを挟む。一つ一つの工程に進む事に、光一は甘い声をあげた。受け側になるために生まれてきたのか、と思ってしまうほど、光一の様子はあまりにも淫乱だった。
「先走りの量、すげぇな」
「だ、だってぇ…」
そのまま乳首を攻め続ける。感じてはいるが、そろそろ光一が足をモゾモゾさせているのを、隼人はすぐに気づいていた。
「…なぁ、欲しいんだろ?」
「な、何を」
「こーこ、欲しいんだろ?」
バキバキに反り上がった光一の陰部を指さし、ニヤリと笑う。
実際、もう下にも欲しいのだろう。だが、まだ羞恥は若干残っているようで、口元をもごもご言わせるだけで、ハッキリと言わない。
「欲しくないのか?」
「えっ、あ、」
「いらないなら、しないけど」
「ほ…欲しい!」
羞恥で涙目になりながら、絞り出すように言った。隼人はそれが嬉しくて、興奮は一層高まった。
光一の肉棒をしっかり握り、上下に擦る。
「んんんっ…!」
光一の呼吸は更に早くなり、足はガクガク震えだした。おそらく自分でも何度かしたことはあるだろうが、他人にされると感度は倍増しなのだろう。自分で脇を触るとなんとも感じないが、他人に触られるとくすぐったいという話がよくある。自分で触ると手の動きを脳が推測できるため何とも感じないが、他人の手では推測ができないためくすぐったく感じる。それは、性行為も同じ事。
少しの悪戯心が働き、上下にしごくだけでは飽き足らず、先端を親指でグリグリ押しながら円を描いたり、所謂「カリ」と呼ばれるところを窪みに沿ってなぞっていった。あちこちから溢れ出る快感に、光一の体は踊り、痙攣し、目からは涙が溢れ、甘い声は更に加速した。
「やっ、あん、あっ、あああっ、ん、らめ、ああ、あっ…!」
口元は震え、唾液が零れて口元から線を引いた。快感に耐えているのか、枕元のシーツを掴み、もう片方の手で口元を覆っている。
「んっ、ん、んっ…!」
「気持ちいい?」
手の速度をあげながら、問う。
「は、あっ、あああっ…!!」
「どっちだ?」
「あ、はんっ、あ、き、もち、い、あんっ」
「そうかそうか。気持ちいいか、良かった」
性行為の際の男としての本能なのだろうか、自身のテクニックで受け側が気持ちよさで喘ぐというのは何よりも満足感が満たされる。少なくとも、自分は下手な方ではないのだろうな、と満足感と共に一種の安堵を覚えた。
「なぁ光一、お前、一人でもこういうのやってたの?」
「や、そ、それは…ん…」
「え、これ初めてか?精通くらいしてるよな、毛も生えてるし」
「して…る、けど、そ、そんなやってない…」
急に普段の性生活事情を聞かれ、たじろぐ光一。
肉棒がプルプル震えた。もうイきそうなのかもしれない。
「あ……あ……隼人…もうっ…」
「ん?どうした」
からかうように、乳首の上を指で円を描いた。
「や、も、駄目っ……あああああっ!!!」
ビュル、と勢いよく射精。イったようだ。
匂いも粘度も濃い、精通したてのような射精。
「はぁ…はぁ…」
「すげぇ勢いでイったな。そんなに良かったのか?」
「……うん。」
「自分でするのと、どっちが良かった?」
「え…と、それは…」
恥ずかしそうにしながら、答えた。
「は、隼人に…してもらう方が、好き」
「そうか。良かった。」
再び深いキスをする。首、胸、竿にもキスを落とした。
光一の肉棒は、あれほどの射精なんて嘘だったかのようにピンピンしている。まだまだイケそうだ。
「ほんとに好き。光一」
「僕もだよ隼人。…僕、今、幸せだ」
「俺も、幸せだ。」
光一が起き上がり、強く抱きしめる形になってキスをした。舌を入れながら、光一が隼人の肉棒を掴み、指の腹で先端を愛撫しだした。
「ん、ん…!?…んん…」
負けじと隼人も光一の肉棒に手を伸ばす。キスをしながら、お互いの肉棒を握り、しごきあう。
「んっ…ふ、んんっ」
「んん……ん…!」
互いに負けじとしごきあう。ある時は上下に擦り、ある時は先端をいじり、手を替え品を替え互いに快感を与え合う。
(光一…お前、やるじゃん)
(隼人こそ…さっきイったばかりなのに、また気持ちよくなってきちゃったよ)
じわじわと下腹部に快感が広がり、隼人も足が自然とガクガク震え始めた。
(あ…やば、これ気持ちいい)
自分でするのとは違う、他人の手だからこそ感じる気持ちよさ。しかも、光一がなかなかのテクニシャンなようで、隼人の望むままの恍惚が脳いっぱいに溢れかえった。
キスで口が封じられ、喘ぎ声が出せないその形が、尚彼らを興奮させ、快楽を倍増しにする。
陰部に血が集中し、ドクドクと血流が波打つのを感じた。その波にあわせ、ゾクゾクするような快感が、下腹部をめいっぱい駆け巡る。
(あ…やばい、来る…!!)
(ん…僕、も…!!)
そして、そのまま、二人同時に絶頂を迎えた。
「「あああああっ!!!」」
2本の白い線が、弧を描く。ビクビクと体が細かく痙攣した。
「はぁっ、あ…はぁ…」
光一だけでなく隼人も涙目になり、トロンとした目でお互いを見つめた。
「これ、すげぇな…超気持ちいい」
「うん、ほんと…またイっちゃった」
光一が隼人の乳首を指の腹で撫でた。隼人がして見せたように、グリグリと刺激した。
「ん…やるじゃん、それ、いい」
「でしょ?気持ちいいでしょ」
「うん。初めてだけど…これもすごくいい」
まだお互い勃ちっぱなしだ。若さ故の性欲と精力の強さが、余すところなく現れていた。
「ねぇ、隼人」
「うん、何」
「…繋がろ?」
「いいのか?」
「うん。…僕、隼人が欲しい」
光一の心臓が、期待と好奇心で跳ね上がるように脈打った。
「俺が挿れる。…いいか?」
「うん…いいよ」
隼人の心臓も、負けじと脈打った。
2つの影が、優しくベッドに横たわる。
隼人が光一の両腕を優しく握る。
「あ…凄い緊張する」
「うん…俺も、めちゃめちゃ緊張してる」
隼人は中指と薬指を舐めて唾液を付け、第二関節付近までしっかりと濡らした。
「指、いれるから、痛かったら言えよ」
「うん」
指を少しずつ、光一の穴の中にいれていく。
「ぐ、ぅ、んっ」
「痛いか?」
「だ、だいじょ、ぶ」
初めてだからか、穴はピタリと閉じていてとてもキツイ。第一関節までやっと入ったが、それ以上がなかなか入らない。
「光一、もうちょい力ぬいて」
「ん………」
自身の尻の中に異物が入ってゆくのだから、最初は誰だって抵抗があるだろう。故に彼も下腹部の筋肉に、必要以上に力が入っていた。
「ん…ふぅ…」
ゆっくりと息を吐き、なるべくリラックスしようと試みる。
くにくに指を動かしながら、少しずついれていく。力を抜いたからか、先程よりもいれやすくなっていた。
そして、少しずつ、少しずつ力を入れながら、指が何とか、根元まで入った。
「…中、キッつい…」
「は、入ってるの…!?」
「えーと、前立腺?だっけか、どこだろな…」
前にネットで調べたことがある、前立腺。膀胱のすぐ下にあり、男はそこを刺激されると、性的快感を得る。その快感は、ペニスが感じる性感の約100倍と言われている。一度前立腺でイけば、失神寸前かのように痙攣し、口からはヨダレが垂れ、体を電流が走るかのような凄まじい快感を得られるという。
指の腹で腸内の壁を適当に擦っていると、ちょうど玉の真裏あたりに、柔らかい粘膜越しに硬くてコリコリとしたシコリのようなものに指の腹が当たった。これが前立腺である。
「あっ……!?え、な、なに、これっ…!」
少し前立腺を刺激しただけでこの反応。
「ああ、やっぱり、ここ?」
指の第二関節くらいの深さのところにあるそれを指でコリコリと押すと、先程とは比べ物にならないほどの喘ぎ声が溢れた。
「い、いや、あっ、あん、ああっ、な、これ、あっ、あ、すご、いっ…あああっ……!!!」
声は甲高くなり、涙目だった目からは快感のあまり涙がポロポロ零れ始めた。背は仰け反り、足はガクガク震えだし、手元は血が滲むほどシーツを握りしめている。肉棒は血管が浮き出るほど勃起し、さっき2回もイったとは思えない感じぶりだ。
「すげぇな、そんなに気持ちいいのか……」
「やらっ、や、あっ、ああっ、い、イッちゃうっんんん、んっ…!」
また肉棒の震えが増えた。前例から見ると、もうイきそうなのだろう。
「あ、も、もう…」
隼人は、そこで手を止め、指を引き抜いた。
「ん……」
突然の停止に、思考が現実に戻された光一は、隼人の方を見た。
「あれっ…終わり?」
「指でイかれたら困るからよ」
光一の穴に、己の肉棒を向ける。
「二人で一緒に気持ちよくなりたい」
「うん…いれて、隼人」
「んっ…」
ずり、と隼人の肉棒が光一の穴に入り込む。
「うっ、ぐ…!!」
「キッツ…ゥ…!」
指の何倍もの威力が光一の中に入り込む。少しの痛みと圧倒的な快感で、光一の体が仰け反った。指で慣らしたからか、少しずつ隼人が腰を動かすと、ものがすっかり入った。
「あ…」
「繋がった、な」
隼人が、光一の腰を掴む。
「…動くぞ。」
「うん」
ゆっくりと、腰を動かした。
「あっ…あ…」
先程見つけた前立腺の場所を思い出しながら、先端がそこに当たるよう腰の位置を微妙にずらすと、見事に当たったようだ。
「んあっ…!」
「凄いだろ…?」
「あっ…あ…すご、これすごい…!」
腰を激しく動かし、ピストン運動を開始した。
「うっ、あああっ、や、あ、ら、らめ、あん、あっあああ、うぅ、ああっ…!!!」
ゴリゴリと光一の柔らかい腸壁に隼人の亀頭が当たり、激しい快感が互いの下腹部を駆け巡る。足先から頭のてっぺんへ快楽の電流が走り、脳の中は甘い恍惚で埋め尽くされていく。
「ああっ、あ、すごい、すごいいいっ、んん、あ、あん、んっ…は、はや、とぉっ…!!」
「はぁ、あっ…光一の中…すごいっ…!!!」
あまりに凄まじい快感に、光一は思わず体をずらそうとした。すかさず、隼人が肩を掴み、強引に引き戻し、激しく腰を動かしながら、深いキスをした。
「んんっ」
「ん…」
「あっ…好き…好き…気持ちいいよぉ…隼人…」
「俺もだ…気持ちよすぎておかしくなりそう」
「ぼ、僕、も、お、おかしくなりそ、ああっ」
光一の肩や顎が跳ねる。前立腺を刺激されて感じる快感は本物のようだ。肉棒の時に比べると、感じ方が圧倒的に違う。
ベッドがギシギシ音をたてる。その音すら、2人の淫音にかき消されていく。
「は、隼人、僕、も、駄目、」
「お、俺ももう、イきそうっ…!あ、あっ…!」
隼人がイった。隼人の体に電流が走り、ペニスから勢いよく光一の中に射精した。
「あっ、あ、隼人のが、ぼ、僕の中に…」
ドプドプと溢れる隼人の精液が、光一の中を支配し、肉棒の滑りをさらに良くした。
「あ、あ…も、駄目…!!」
光一の体に電流が走った。体の管を凄まじい快感が走り抜ける。
「ああああああっ!!!!」
仰け反り、目をひんむき、光一は盛大に射精し、イった。
「……お腹痛い…」
「わりぃ、大丈夫か?」
1時間近くに及ぶ性行為が終わり、下着だけを着、なぜか二人揃ってベッドの上に体育座りしていた。
「なんか…お尻も痛い」
「えっ、マジか」
体力を消耗し、激しい疲れに見舞われた。
「なぁ光一、気持ちよかった?」
「うん。すごく気持ちよくて…ハマりそう」
それはよかった、と隼人は思った。これで感じているのは自分だけで、光一は実は演技して隼人を喜ばせてました、なんて言われたらショックで一週間は寝込む自信がある。
「なぁ光一」
「なぁに」
「…これから俺んちに誘う時さ、ゲームと…ヤるの、どっちがいい」
少しどもった声だった。光一は少し悩んだ末、答えた。
「どっちでもいいよ。ゲームもするし…SEXも…すごくよかったから…僕、隼人に抱かれたい。これからも」
「ありがとう」
額に浮かんだ汗を拭った。夢中になって忘れていたが、クーラーをつけ忘れていた。
「6時前かぁ。そろそろ帰らないと」
「もうそんな時間か」
光一がベッドの下に置いた服を着た。
「シャワー浴びてかなくていいのか?」
「他人ちのシャワーってちょっとね。それに、隼人のお母さんがシャワー中に帰ってきたら、説明が大変だよ」
「そっか、それもそうだな。…てか、母さん遅いな…」
隼人も、クローゼットから私服を出し、それに着替えた。
そして…光一にキスをした。
「…」
「何度でも言う。お前が好きだ」
「ありがとう。僕も大好き」
光一も自らキスを返した。
「今まで図々しい態度とっててごめんな」
「えっ何急に、どうしたの?」
「へへっ、何でもねーよ」
お互い吹き出した。これもまた賢者タイムなのだろうか。
「愛してる」
「僕も」
「またシたいっていったら、受けてくれるか?」
「勿論だよ」
時計の針が、6時の時刻を刻んだ。
異色のカップルの愛は、いつまでも、消えることは無い。
ーFinー
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