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なんで
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試合当日。
俺は真ちゃんにラフプレーしてた。
パスするふりして顔に強くボールを当てたり、
真ちゃんの大事な腕や足に、ダメージを与えていく。
マコ兄やそのお仲間も、真ちゃんを徹底的に壊しにかかる。
宮地さんや他のひとたちにはラフプレーしないように言っておいたけど、みんなは我らがエース様を守ろうとして怪我する。
先輩たちは気づいてない。
俺が真ちゃんにラフプレー仕掛けてるなんて。
でも、真ちゃんはわかってる。
なのに、真ちゃんはなにも言わない。
なんで?
先輩にでも言えば、俺は下げられて、もしかしたら退学にでもなるのに。
なんで言わないんだよ。
二回目の休憩時。
宮地さんが、俺に訝し気な目を向けた。
「なぁ、高尾。おまえ、今日のパスの精度悪くね?」
「すみません。今日はなんだか調子悪くて」
「まさかとは思うが、おまえあいつらの仲間とかじゃ……」
「そんなわけ……」
「違うのだよ!」
俺が宮地さんの言葉を遮って言おうとしたら、真ちゃんがそれをさらに遮った。
俺と宮地さんは驚いて固まり、他のひとは成り行きを静かに見守る。
「高尾は、なにもしてないです。だから、下げないでください。お願いします」
「けど……」
「お願いします!」
真ちゃんが。
あのプライドの高い真ちゃんが。
俺のために、頭を下げた……?
「今日のわがまま三つ分全部でいいのか?」
「構いません」
「……………………はぁ……。わかった。ただし、危ないと思ったら、おまえも高尾も下げるからな」
「ありがとうございます」
なんで?
なんでだよ。
真ちゃんはテッちゃんをあんなにした奴なのに。
なんで、俺なんかのために、頭なんて下げてんだよ。
怨めよ。
憎めよ。
そうしたらこんなに、苦しくないのに……。
時間が来た。
俺たちはまたコートの中に入る。
マコ兄がさりげなくどうかしたのかと聞いてきた。
それに俺はなんでもないと答える。
マコ兄はそうかと返して真ちゃんのマークについた。
また、真ちゃんは壊される。
今度はどこ?
腕?
足?
目?
喉?
どこを壊す?
俺は回ってきたパスを、真ちゃんに回す。
後ろを向いたままの真ちゃんに。
ボールは真ちゃんの腰に強打して、マコ兄の手に渡った。
そのまま、マコ兄は真ちゃんの肩にわざとぶつかり倒れる。
真ちゃんの肩が脱臼するように。
「う、あ"あぁぁぁぁぁぁ!!!!」
真ちゃんの悲鳴が体育館に木霊する。
左肩を押さえて、呻く真ちゃん。
それを見て、宮地さんが俺につっかかる。
「高尾! おまえわざとだろ! ふざけんなよなんで……!」
「みやじ……さん……」
真ちゃんが立ち上がる。
ボロボロなのに、立ち上がる。
「大丈夫です。俺は、大丈夫です。だから、高尾を責めないでください」
なんで?
俺が真ちゃんをそんなにボロボロにしたんだよ?
なのになんで、
なんで、俺なんか庇うのさ。
テッちゃんのことは簡単に裏切ったくせに。
なんで?
なんでなんだよ。
なんでそんなに、
泣きそうな顔で、
縋るような顔で、
俺を庇うの?
「大丈夫っつってんだからさ、早く試合の続きしようぜ?」
マコ兄がそう言う。
「そうだそうだ!」
とお仲間が言う。
「おまえら……!」
「ほら、相手もそう言っていますし、早く戻りましょう。高尾も、それでいいな?」
「あ、あぁ……」
頷いて、でも動けない。
頭がこんがらがって、整理がつかない。
すると、真ちゃんが俺の肩に手を置いて、言う。
「信じているのだよ、高尾」
そう言って、離れていく。
なんで。
なんでなんで。
なんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんで…………!?
俺は真ちゃんを裏切ってるのに。
なんでだよ真ちゃん。
真ちゃん…………。
「あ、ああぁぁぁぁぁぁぁぁ……」
気づいたら口から声が漏れてた。
背後から、誰かの倒れる気配。
振り返ると、真ちゃんが倒れてた。
起き上がろうとするけど、足腰がもう立たないのだろう。
俺はもう、そんな真ちゃんを見てらんなくて、倒れた真ちゃんに抱きついた。
「おい、かず……」
「ごめん、マコ兄。今日はもう、帰って? お願い……。お願い、だからさ……」
涙が止めどなく流れる。
それを見て、マコ兄はため息をついたあと、お仲間に「帰るぞ」と言った。
「ありがと、マコ兄」
そう言ってから、俺は真ちゃんと共に呼ばれた救急車に乗り込んだ。
真ちゃんの怪我は全治三ヶ月だったが、命にもバスケプレイヤーとしての命も、別状はなかった。
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