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あぁ、そうだ
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霧崎第一にやられて、みんな同じ病室に入院していた。
一ヶ月くらいで退院できるひともいたし、一年以上になる可能性があるひともいた。
目を潰されたひとは、もはやバスケなどできない状態。
両手や両足をおられたひとも、肩をやられたひともいた。
俺だって、全治五か月くらいだと言われた。
リハビリすればバスケはできるようになるが、いままでの状態に戻すまで、何年かかるかわからない。
正直、体とともに、メンタルがやられた。
俺のせいで、先輩たちをこんな目に遭わせたと考えると、申し訳なくて……。
仲間たちの殆どが、バスケができるような体ではなくなった。
そんな中、原因である俺がひとり、バスケを続けることなど、できはしない。
やめようと思った。
バスケも、モデルもやめようと思った。
そのときだ。
誠凛のひとたちがお見舞いにきた。
当然、黒子も。
「黄瀬くん……」
「黒子……」
俺のベッドは、一番奥の窓辺だった。
黒子は火神とか言う奴に車椅子を押されて俺の方に近づいてきた。
「ホントにいいのか?」
「はい。お願いします」
火神が俺の方に黒子を連れていくのを少し躊躇ったけど、黒子に言われて押してくる。
そして、俺のベッドの隣にくる。
周りの全員が緊張している。
黒子も、なにから言おうか迷っているようだ。
俺は苛立って、言う。
「どうして、きたんスか。俺がこんな姿になったのを見て、笑いにでもきたんスか? あぁ、でも、その目じゃ見えないっスよね。あはははは」
黒子の顔が、少し強ばった。
「黄瀬、てめっ……!」
火神がキレた。
「火神くん。大丈夫です」
けど、黒子が止める。
そして、言うのだ。
「体、大丈夫なんですか?」
なんで心配したようなことを聞くんだ?
どうせ、心の中では笑ってるくせに。
「全治五か月くらいじゃないっスか? バスケは、リハビリすればできるかもってさ。残念スか? 俺からバスケを完全に奪えなくて。ざまあみろっスよ」
そう言ったら、なぜか安心したような顔をした。
「バスケ、できるんですね? よかった……」
しかもそう言って、俺の手を探して、包むように握ってくる。
すぐにでも振り払ってやろうかと思ったが、その前に黒子の言葉が続いた。
「黄瀬くんは天才ですから。その力がなくならなくてよかったです。いつかきっと、バスケ界をもっと盛り上げてくれるであろうキセキの世代が、欠けてしまわなくて、本当によかった。……よかった」
なに言ってるんだと思った。
だって、黒子は俺たちや関係ない学校の生徒にいじめられて、目を失ったんだぞ?
もう、大好きなバスケができない体に、俺たちがしたんだ。
なのに、なんでそんなことをいう?
「…………んで」
「え?」
自然に、声が出た。
「なんでっスか。笑えよ。笑えよ! おまえをいじめた奴なんスよ!? いじめて、いじめて、目まで奪って! 選手生命も奪って! バスケできない体のしたのに! どうして怒らないんスか! どうして……なんで……」
黒子の胸ぐらを掴んで、そう言った。
黒子は少し茫然としたあと、また手に触れてきた。
「理由は簡単です。僕は、キセキのことが大好きだからです」
だい……すき……?
「なんたって、キセキのファン第一号ですからね」
久々に見た。
黒子が、笑うところ。
あぁ、そうだ。
いつもそうだっだじゃないか。
キセキがプレーする度に、キセキがシュートをきめる度に、一番目を輝かせていたのは、他でもない、黒子っちだった。
間近でキセキのプレーが見れるのが楽しいと言っていた。
みんなと勝利できるのが楽しいと言っていた。
キセキと会えて、嬉しいと笑っていたのは、黒子っちだった。
誰よりもキセキの傍にいて、
誰よりもキセキのファンだった。
どこまでも男前で、
どこまでもキセキのためにと動いていた。
それが、俺が、俺たちが、仲間だと信じていた、黒子っちだ。
火神や、花宮真が言っていたことは事実だ。
あんなの、黒子っちなはず、ないじゃないか。
あんなにキセキを愛してくれていた黒子っちが、あんなこと言うはずなかったんだ。
「ご……めん……」
「え?」
「ごめん……黒子っち……。ごめん……なさい……っ」
泣くな。
泣きたいほど傷ついたのは、黒子っちの方だ。
泣くな。
泣いて謝るな。
そんなの、身勝手だ。
「俺……とんでもないこと、しでかした……。謝って済むわけじゃないけど……。それで、目が戻るわけでも、あの頃に戻れるわけじゃないけど……。ごめん……。ごめん、黒子っち……」
泣くな。
泣くな。
そう念じても、涙は溢れてきて。
抑えたいのに、抑えられない。
嗚咽が聞こえないように、唇を噛み締めるけど、全然意味なくて。
そうしたら、黒子っちが抱きしめてくれた。
優しく、暖かく。
「大丈夫です。泣かないでください。謝ってくれるだけで、十分です」
こんなひとが、裏切り者だなんて、なんで思ったのだろう?
なんで、信じきれなかったのだろう?
後悔してもしきれないし、意味なんてない。
だから、せめて他のキセキの誤解を解かないと。
いつか、また笑いあえるように。
元通りは無理だけど、また違った形で。
黒子っちが、怯えないで、笑っていられるようにしないと。
「黒子っち。俺、他のキセキに、黒子っちは悪くなかったんだって、言おうと思う」
「黄瀬くん……」
「もちろん、それで償いになるとか、思ってないよ。俺がキセキにわかって欲しいだけだから」
「ありがとうございます」
頭を下げてくる黒子っちの顔を上げる。
「お礼なんて、言わないで。俺が悪いんだから」
そう言うと、にこりと笑ってくれた。
俺も、嬉しくて、つられて笑ってしまった。
そのあと、誠凛や海常の先輩たちに俺はもみくちゃにされた。
黒子っちが俺を許してくれたから、火神や他のみんなが俺を笑いながらしばくしばく。
怪我人になにしてるんですかと看護婦さんに怒られて、ようやくみんなやめたけど、完治したらまたいじられるであろうことは容易に予想できた。
けど、とりあえず、バスケは続けようと思う。
黒子っちのためにも、絶対に。
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