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話をしよう
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プルルルル
プルルルル
電話の音に驚いて、僕はびくりと体を揺らした。
電話をかけてくる相手など、和くん以外にはいない。
一応誠凛の人たちと番号やアドレスは交換したが、学校で話せるからいままでかかってきたことも、かけたこともない。
音を頼りに、覚えている自分の部屋の机の位置へ手を伸ばす。
机の上と思われる場所をペタペタと触って、ようやく探し当てた。
携帯を開けて、手の感触を頼りに通話ボタンを押した。
たぶん、ここであってるはず。丸い円の、左側。
耳に当てて、声を出す。
「……どちら様ですか?」
そう聞くと、相手は無言で返してきた。
「………………?」
目の見えない僕のために、和くんはいつも僕が出た時点で名前を言ってくれる。
火神くんや誠凛のみなさんも僕のこの状態を知っているから、答えてくれる。
でも、この電話の相手は違う。
誰なのかわからない。
間違い電話だろうか。
少し、怖い。
「…………あの」
「……ぁ」
僕がもう一度誰なのか聞こうと声を発した瞬間、小さく息を呑む音が聞こえた。
それだけで、十分だった。
「にい…………さん……」
その小さな声でもわかる。
その気配だけでわかる。
これは兄さんだ。
僕の知っている、兄さんだ。
「兄さんから電話してくるなんて、驚きました。どうかしたんですか」
「………………っ」
「声、聞きたいです。なにか言ってください」
「………………」
「兄さん」
いつまでも無言で、なにも返してこない兄さん。
無言でも、わかるんだ。
青峰くんのときは、声が聞こえないとわからなくて怖くなった。
でも、いまは違う。
怖くない。
ただ、淋しいだけ。
ずっと聞いていた声が聞こえない。
それが酷く、淋しいだけ。
喧嘩してから、まともに口が聞けていない。
もっと話をしよう。
ラフプレーなんてやめて。
兄さんも、ほかのみなさんも、いい人ばかりなのだから。
「ねぇ、兄さん。会いたいよ……」
会って、話がしたい。
顔が見えないのは、電話も同じ。
でも、傍にいてくれたら、気持ちが何倍にも伝わる。
だから…………、
「…………ごめんな」
その声が聞こえると、通話が絶たれた。
「兄さん! 兄さん!」
ツーツーと無機質な音しかしない。
どう言う意味で、言ったのだろう。
わからない。
携帯を閉じると、再び鳴り始める。
驚いて、もう一度でると叫ぶように言った。
「兄さん! さっきのはどう言う意味ですか!」
しかし、相手は兄さんではなく、
「へ? 兄さん? 誰っスかそれ」
「……黄瀬くん?」
相手は黄瀬くんだった。
黄瀬くんは僕のいきなりな発言にどうしたらいいのかわからないようです。
「すみません。ちょっと寝ぼけてたみたいです」
「そ、そうなんスか? ならいいけど……」
「驚かせてしまってすみません。それで、どうかしたんですか?」
「あ、実は明日、黒子っちに来て欲しいなぁと思って。明日空いてるっスか?」
「まぁ、明日は日曜日ですし」
「よかった。あの、それで、俺だけじゃなくて……」
「青峰くんと緑間くんですか?」
「そう。それと…………、紫原っちと赤司っちもなんすけど……」
「…………!」
僕はその名前に、思わず息を呑んだ。
未だに青峰くんや黄瀬くんや緑間くんですら怖いと感じるのに、和解していないふたりがいる。
それだけで、震え始めてしまう。
それほどのトラウマを植え付けられたのだ。
「謝りたいって、言ってるんス。ダメっスかね?」
酷く、酷く、怖い。
また殴られるのだろうか。
仲間だと思っていたひとたちに。
友達だと思っていたひとたちに。
傷つけられるのだろうか。
怖い。
怖い。怖い。怖い。
でも。
後悔はしたくないから。
「わかりました。行きます」
そう答えた。
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