アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
たとえ僕が‐白川side‐16
-
家に入ると、そこは1DKのちいさな部屋で、ここにこの人数で住むとなると手狭だろう。
丸いちゃぶ台が中央に置かれ、洋服箪笥も小さいものだ。
貧乏とはわかっていたが、ここまでとは。
部屋内にはろくなおもちゃもなく、小さなちゃぶ台で身を寄せあって宿題をしている。
遊びたい盛であろう年の子もいる。
まるで自分だけが不幸かのように思ってきた自分が恥ずかしくなった。
「お茶入れたよ」
有村がくれたお茶を飲む。
弟たちにもお茶を渡し、自分もノートそ取り出した。
「白川。おまえ頭いいからさ、教えてくんね?」
「いいよ」
友達との勉強会というよりただの子守な気がしたが、なにも言えないまま。
夜になって帰ることになった。
「送ってくよ」
「女じゃないのに、必要ないだろ」
「送らせろよ」
「別にいいけどさ……」
弟たちは大丈夫なのだろうか。
親がいないいま、頼りなのは長男である有村だけだろう。
そう思い有村の背後を見る。
すると、弟たちは寝る準備をさっさと整えていた。
「あいつらは大丈夫だよ。俺がいなくても平気だから」
本来ならまだ甘えたいだろうに。
幼稚園児くらいの子ですら準備している。
「行ってきていいよー」
そういうのは、小学校二年くらいの少女。
「さっさとねるんだぞー」
『はーい』
有村に出されて、無理矢理帰路に着く。
「いつもあんななのか?」
「あいつらか? そうだよ」
「そうか」
「母さんは病院だし、俺もバイトで全然構ってやれてないんだ。本当はもっと甘えたいだろうけどさ」
「おまえいつも言ってるよな。『俺はいつだって慰める側』だって。それは、弟や妹のことだろう?」
「そうだけど……」
「じゃあ、おまえは? おまえだって辛いときあるだろ」
「あいつらの苦しみに比べたら、俺のことなんて……」
「それ、あの子たちは気づいてるよ」
「え?」
「おまえが自分たちにために頑張ってるの、知ってるから。だからあの子たちも我慢してる」
兄貴が我慢してるのに、自分たちがわがまま言うのはよくない。
自分たちにために頑張ってるんだから。
「おまえは優しいから、心配かけまいと無理してるんだろうけど、それが逆効果になってるんだ」
「………………っ!?」
「普通幼稚園児はあんな風に静かに手伝いなんてしないよ。褒めて欲しくてやることはあっても、毎日のようになんてありえない。ある意味異様だよ」
「…………たしかに、そうだな……」
「僕はここまででいいから、帰ってやれ。それで甘やかしてやれ。きっと嬉しいだろうから」
そばでいてくれるだけで嬉しい。
有村はそう思えるなにかがある。
「おれ、帰るな」
「あぁ。それでもし、おまえが傷ついて泣きたくなったら、そのときは僕がおまえを慰めてやるから」
恩返しなのか、罪滅しなのかわからないが、口から零れでたその言葉。
それに有村は嬉しそうに笑った。
僕も自然に笑顔がこぼれた。
小走りで帰る有村を見送る。
有村の姿が見えなくなり、ほっとした瞬間。
ーーーーゴンッ。
頭に衝撃があり、僕の意識が消える。
「見ぃつけたー」
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
99 / 116