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第三話
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こんなおっさんの……西辻はもう30半ばだ……性器を触っても、普通の男子高校生なら気持ち悪いだけだろう。柿本も早く汚れた手を洗ってくればいい。それから椅子に縛られた手脚の縄を外してもらおう。
「柔らかい? なんで、どうして硬くない?」
しかし柿本は自身の手の平と西辻の性器を交互に見つめながら、呆然と呟く。まるで実験に失敗してショックを受ける科学者の様だ。
「あのなぁ……いきなりこんな事されたって、勃起しないぞ?」
段々とこの奇妙な環境に慣れて来た西辻も真面目に諭すが。
「だって、男のコレって、気持ち良くなれば硬くなるもんだろ」
柿本は西辻の下半身を指差して断言する。べたべたと擦る柿本の行動は、何も分かっていない子供の考えた愛撫だったのか? それなら厳しく叱って、理解させないと。
「きみは、とにかく身体を触れば、気持ち良くなる、とでも思っているのか?」
むすっとしている柿本と向き合って語り掛ける。
「まず第一に、縛り付けられて触られても、快楽でなく、恐怖心だけだ」
まぁ、世の中にはこういった行為が性的嗜好な人間もいるが……それを言ったらまた勘違いするか。
「それに何よりも、好きな人、想いが通じ合っている人と触れ合う行為でなければ、気持ち良くなんてならない」
西辻はゆっくりと単語を選んで、本当のセックスとはどんなものか、を教える。
もしも柿本が本当に同性愛者だとしたらショックを受けるだろうから「男同士だから気持ち良くない」とは言わずにおこう。
確かにこの状況は、この間の個人授業を思い出すな……授業内容は英語ではなく保健体育だが。
「でもクラスの奴等は、誰でもいいからセックスしてー、とか言ってるよ?」
床に座って頬杖をついた柿本は上目遣いで問い掛ける。
「それは……まだ本当の恋愛を知らない、子供だからで」
「じゃあなんで風俗とかあるの」
ズバリと問われて回答に詰まった。男の性欲について真面目に説明するのはとても難しくて。
「それにっ……俺はあんたを好きなんだから! あんたを好きな人間が触れば、あんたも気持ち良くなるだろ!」
勢い良く立ち上がって、柿本は駄々をこね始めた。しかしなんだその理屈は。
個人授業のときに気付いたが、柿本は暗いというより寡黙なだけで。立ち上がった全身を改めて眺めると顔立ちは整っているしスタイルも良い。柿本自身は独りが好きでも、周囲の生徒から避けられてはいない。
そんなこいつが、自分なんかを恋愛対象として好きになる訳無いだろう。
「なぁ、柿本」
取り敢えず相手を落ち着かせようと、教師の口調に戻して呼び掛ける。
「もしかして、きみもさ、誰でもいい、なんて思ってるんじゃないのか? きみがただ……こんな事をしたいなら、他の相手を見つけなよ」
この状況の戸惑いを隠して、穏やかに諭すが。
「他の相手? どこで見つかんの、そんなの」
また柿本はじろりと睨み付けてきた。でもそれは、さっきの強要する視線とは違う。
なんだろう、個人授業のときも向けられたな、こんな視線。
例えば、これは難しすぎる問題、というときに。
「それは……きみの年齢だと、まだ難しいかも知れないが……これから社会に出れば、色々な人達が居るから……その中から見つければ大丈夫だろう」
「いま見つかったから、いまやったら駄目なの」
また話が噛み合わない。なんだか偏差値の高い大学を夢見る成績が悪い生徒への、進路指導のようなやり取りになってきたな……その指導する教師は、未だに椅子に縛り付けられているが。
仕方ない。また自分の本心を、柿本という人間にぶつけるか。
「自分は柿本を、生徒のひとり、としか思えないし。だからこういう事をされても、気持ち良くはならない」
西辻は瞳を閉じてきっぱりと告げたが。柿本の声は何も返してこない。怒っているのか? 殴りつけてでもくるか? 怯えながら西辻がゆっくり瞳を開くと。柿本の表情はじっと何かを考え込んでいた。
この雰囲気は覚えがある。個人授業のときも柿本はこんな風に真剣に指導を受けていた。
本当にこいつ、本気で自分を好きなのか?
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