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第四話
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「なぁ、柿本。この椅子に縛った手脚を外して……」
気持ちを信じる覚悟を決めて、西辻は語り掛ける。
「……また自分と一対一で、ゆっくりと話し合わないか?」
柿本はじっと西辻からの頼みを聴いていたが。椅子の傍へ歩み寄ると丁寧に屈んで、足首に巻き付けられた縄へと手を伸ばす。
堅く縛り付けられた縄を解くのに柿本は苦戦していたが、なんとか手脚が自由になった西辻は、力が抜けたような柿本の肩に、ぽん、と手の平を乗せた。
「自分の家で話そうか」
その誘いに同意したのかは分からなかったが。西辻は柿本を車の助手席に乗せて、きつい縄の跡から痛む手首を使ってハンドルを掴んだ。
柿本は西辻の後をついてマンションの部屋に入ると、無言でフローリングの床に座る。
西辻も何も言わずに冷蔵庫からスポーツドリンクのペットボトルを二本取り出して、片方を柿本に差し出した。
「柿本も色々と疲れただろう?」
そう勧めると、ぼうっとした表情で柿本はペットボトルを受け取った。その真正面に向き合って、西辻も床に座る。
「資料室でふたりきりだった時と同じ事を訊くけど……なんで自分を、いきなり椅子に縛り付けたんだ?」
特に口調は気にせず、西辻の本心からの疑問を口にする。流石に「なんでいきなり犯そうとしたのか」なんて訊き方は出来なかったが。
「さっき、好きだから、って言った」
やはり柿本の答えも変わらない。その真剣な口調と眼差しに、西辻はすこし怯んだが。
「それなら……なんで、正直に告白してこなかったんだ? いきなり縛り付けられても……」
「それしかない、って思った」
困惑の台詞を遮って柿本は断言したが、ずっと西辻を見つめていた視線はすっと逸らす。
「好きなひとが出来た、って言ったら……犯せばいいんじゃないか、って教えられた」
「はぁ!? 誰から教わったんだ?」
思わず大声を出してしまった。そんな無茶苦茶な指導者が傍に居たのか?
「周りの奴等……女子も混ざってた」
そんな返事に、西辻は安心したような、呆れたような溜息をつき。乾いた喉にスポーツドリンクを一気に注ぎ込む。
恋愛相談をクラスメイトにしたらからかわれたのか。
いいかげんな連中から「イケメンなら誰に何をしても嬉しがる」なんて言われたのかもな。
しかし……こいつもそれを間に受けるか?
「じゃあ、止めてくれ、と訴えても止めなかっただろ? それはどうしてだよ」
「それは、あんたが男だから。嫌がられるのは、なんとなく、分かってた」
はっきり告げられて、西辻は言葉に詰まった。適当な連中から背中を押されて勢いで行動に移したが。
どうせ上手くいかない、なんて想いも柿本の心の奥底にはあったのか。
柿本が好いてくれるのは分かったが。それが恋愛感情だというのは、西辻にはどうしても理解できず。
「柿本はさ、好き、の意味を勘違いしてるんじゃないのか?」
はっきりと問い掛ける。
「かんちがい? 俺はあんたを好き、って思ったし、現在も思ってるんだけど」
柿本からもはっきりと返され、そんな台詞に思わずどきっとなる。
「だってさ、柿本はなんで自分なんか……いや、自分のどこを好きになったんだ?」
真剣に訊いてみたが上手く答えられないかな? 恋愛を全く分かってなさそうだし。
「俺が今まで生きてきた中で、一対一で喋って、楽しくなったのは、あんただけだから」
西辻の予想とは裏腹に、柿本は一言ずつきっぱりと答えを返してくる。
「……その言葉は嬉しいけど」
柿本からの答えを否定していく内に、西辻はだんだんと罪悪感が芽生えてきた。
「それは性の対象として見る、好き、とは違う意味の、好き、だろう。生徒から教師への愛着というか……」
「その好きと、この好きは、どこが違うの」
西辻の説明を遮った柿本からの問い掛けに、また困惑する。純粋な気持ちをぶつけてくる若者から逃げている罪悪感に。
「だってさぁ……さっき柿本は自分の身体を触って、気持ち良かったか? 興奮したか?」
その問いに怯むかと思ったが、柿本は力強く頷いた。その態度は嘘ではないし、勘違いにも見えない。
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