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銭湯とシャンプー
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時雨さんの家の近くにある老舗の銭湯。
服を脱ぎ、風呂場に入ると手前に十台ほどのシャワー台。奥には壁富士が目立つ昔ながらの浴槽があり近所のおっさんが体を洗ったり、風呂に入ったりしている。
「ここでいいかな?」
中央よりも少し風呂側。左右に人がいないのを確認してプラスチックのイスに腰を下ろすと、右から椅子を持ってきた時雨さんが俺の背後に椅子を下ろして座った。
「ふふ~ん」
微かに聞こえた鼻歌に鏡越しに恋人を見ると、いつも以上に満面の笑みの彼と目があった。
「今回は、とても香りがいいのを選んでみました」
時雨さんが掲げたボトルは、最近CMでよくみるシャンプーだ。確か髪の痛みの補修をしてくれることを売りにしていたような。
「この前も新しいの買ってなかったか?」
「ナイトくんに合いそうだなって思うと、ついつい買っちゃうんですよね」
オレの髪を濡らしながら、わくわくとしている姿を見ると何も言えなくなる。
いつもどこかビクビクしている時雨さんがこうやって楽しそうにしているのは、銃やドックタグをいじっている以外では珍しい。
その珍しいがオレのために起きているのは、恋人として嬉しくなってしまう。
「洗いますね」
濡れた髪に泡立てたシャンプーをのせられ、時雨さんの指が髪の中に入ってくる。優しく指が動くのと同時に、柔らかく頭皮を揉みこまれる。
「かゆいところがあったら、言ってくださいね」
「ん……」
わしゃわしゃと細かく指が動く感じは気持ちよく、目を閉じた。
時雨さんはオレが泊まりに来る度、銭湯に来て髪を洗ってくれる。
きっかけは、オレが水でしか髪を洗っていないことが知られたことだ。
『えぇ!? ナイトくん、水洗いしかしてないの!? 髪長いのに!?』
あの時のドン引きした表情は、傷ついた気持ちと共に忘れることはないだろう。
それからというもの、時雨さんはオレの髪をキレイにすることへ執念を燃やしていたりする。
「ナイトくん、またシャンプー付けずに髪を洗いましたね」
「家にシャンプーねぇし」
「そういうから、この前あげたじゃないですか」
「おふくろに取られた」
「たしかに女性にも人気のシャンプーでしたけど……」
シャンプーを洗い流された後、クリームみたいなものを髪につけられる。
「ダメージ補修をしてくれるクリームパックらしいですよ」
「ふーん」
なじませている間に、頭皮をぎゅっと押される。ちょうどツボに入ったのか、時雨さんの指が離れた直後、ざっと血流が流れてるのを感じた。
「時雨さん……オレの髪洗ってて楽しいのか?」
「はい。せっかく綺麗な色をしてるのに、痛んだままなのは心苦しいですし」
「ふーん」
正直、髪なんてどうでもいいし、汚くなければいいくらいにしか思っていない。けど、こうやって時雨さんに手入れされて、彼がオレのために選んだ香りに包まれるのは悪くない。
(オレがわざとシャンプーで洗ってないっていったら、時雨さんはどう思うか)
怒るか、飽きれるか。はたまたそれ以外の反応なのか。考えるのはおもしろい。
髪を洗い流されながら、オレは笑みを浮かべたのだった。
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