アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
会いたい
-
「許されちゃいけない…」
「同じ傷を…痛みを…」
数日経つにつれて罪悪感が再燃したのか、悪夢にうなされることが増えた隼人くん。
こんなんじゃ桐生先生の気が休まらないよ。
「隼人は悪くないよ」
「隼人が苦しんでると…俺たちも苦しい。ケントは謝罪とか償いなんて求めてないんだ。元気な姿が見られればそれでいい。むしろそれが最高の償いだよ」
平日はほぼ毎日、矢代くんに通ってもらい何度も「君は悪くない」ことを伝えに来てもらった。
ケントくんは合宿で来られないから。
代わりにテレビ電話を繋いで説得してくれたね。
でも、どうしても自分が悪いと思い込んでしまっている。
「…隼人くんを試してみてもいいですか?」
お手上げの俺たちは朝霧先生に助けを求めた。
精神科医ならどうにかできないかと。
「試す?」
「試すと言うより、確認ですが…。村上先生の記憶があるかどうか」
「……必要なんですね?」
桐生先生の神妙な面持ちに緊張感が漂う。
「隼人くんをああした原因が別にあるという…。村上先生の存在がなければああはならなかったと伝えるんです。
多分、現段階での隼人くんはまだ村上先生のことを完全には思い出していないんだと思います」
「ほう」
「なので…ちょっと可哀想ですが、思い出させるしか方法は思いつきません。それを分かった上で自分が悪いと思うなら…あとはもう」
お手上げ、と朝霧先生は両手を上げた。
◇
「隼人、今から大事な話をするからしっかり聞いていてくれるか?」
今日も自分が悪いと自分を責める隼人くんに、桐生先生が語りかける。
その口調は優しくもあり、厳しくもある。
真剣な気持ちが伝わってくる。
「俺の前の主治医を覚えているか?」
「…前の…主治医?」
「そうだ。小学生の頃、お前を苦しめた医師を」
「………前の…」
頭を抱え、次第に激しくなる呼吸を桐生先生が落ち着かせる。
「ゆっくりでいい。焦るな」
「うぁ……………」
色々な記憶が巡っているのか、急に青ざめだした顔色。
忘れていた嫌な記憶を思い出すこと程、苦しい選択はないと思う。
いつから忘れていたのか、どうやって笑えるようになったのか。元気にキリちゃんと呼んでいた姿を見ることはもう出来ないんじゃないか。
そう思ってしまうくらい悲惨な光景に目を瞑りたい。
当時隼人くんがどんな嫌がらせをされていたのかは人伝に聞いただけだったけど人としてありえないものが多く、それを今思い出したんなら人間不信になったっておかしくない。
「お前が刃物を人に向けたのはあいつのせいなんだ。隼人のせいじゃない。俺たちが見て見ぬふりをしてしまったからなんだ」
目を見開いて昔の記憶に怯える隼人くんをそっと抱きしめて諭す桐生先生。
毎日暴れていたあの頃の隼人くんは、それは悲しかっただろうし辛かったと思う。
けど、あの頃と今のどちらが辛いかっていったら今だと俺は思う。
当時みんなから煙たがられていた隼人くんは全てを無くしてもいい覚悟で暴れ回っていたけれど、
今はみんなに嫌われないように色々な感情を隠すような子だ。
それを、何年も前とはいえ、煙たがられていたのを思い出したら暴れていたこと諸々を申し訳なく思い、激しく後悔するだろう。
今更後悔したって取り返しがつかないしどうすることもできないから、今の隼人くんは消えてしまいたいくらい辛いんじゃないかな。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
39 / 66