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それからというもの、あれんは頻繁に俺を呼び出すようになった。
“暇すぎて辛いので遊んであげなくもないですよ”
そんな愛想のないメッセージを楽しみにしている自分。
眠っていたり、学校があったりして返信が遅れた時には
文字列を見ただけでもわかる程機嫌を損ねるあれんが可愛くて。
『ごめん。今からでもいいか?』
慌てて返信すれば
いつもより少し早めに既読マークがついて
会う約束が出来る。
週末の夜は決まってあのバーへ行った。
隣でカランとグラスを回すあれんは綺麗だ。
それを作った人物が、前に居ても居なくても。
いつもその人の注いだ酒に彼を映し出しているんだと思うと
強く拳を握った手のひらが痛んだ。
俺を選んだらいいのに。
そしたらもう、辛い思いもさせない。
退屈もさせない。
あれんを笑顔でいっぱいにしてあげたいのに
──あれんが求めるのは、俺じゃない。
あれんと出会って暫く経った、ある土曜の事だった。
今日は珍しくバーの誘いが来ない、なんて
のんきなことを考えていた時。
普段はメッセージを送り合うだけだったあれんからの突然の電話。
途端に心臓は跳ねあがり、ドクドクと忙しなく音を鳴らす。
あれんに気付かれないよう、なんとか平静を装って受話器のマークに触れた。
「もしもしー?電話なんて珍しいな~。」
が、返事は無い。
外にでもいるのか、時折びゅうっと鋭い風の矢が飛ぶばかりだ。
…様子がおかしい。
妙な胸騒ぎがして、通話画面をスピーカーに切り替えた。
脱ぎ捨てられていたレザージャケットを羽織り、
テーブルに置きっぱなしにしてある財布と鍵をポケットに詰め込む。
『…っまさ、きさ……つらい……っ。』
「今すぐ行く。」
あれんの返事を聞くより早く
俺は家を飛び出した。
考えてみれば、今あれんがどこにいるのかもわからないのに
今すぐなんて言葉、よく軽々しく言えたと思う。
エンジンが温まらないうちについた暖房は冷風を俺に浴びせて
それでも、無駄に一方通行の道路の多い中必死で抜け道を探すうちに徐々に温度を上げていく。
あれんは
バーの前に居た。
俺の予想は的中した。
電話を切ってほんの5分にも満たないわけだが
俺に電話を掛けるかどうかも、きっとすごくすごく悩んで、勇気を出してくれたのだろう。
鼻の頭は赤く、腫れぼったい赤い目からは、頬にかけて白い筋が伸びている。
沢山、沢山泣いたんだ。
一人で。
「っ、あれん!」
店の角に車を止めて、立ち尽くすあれんに向かって叫んだ。
驚いたように目を見開くあれんの顔が
くしゃりと歪んで。
車を降りた俺の元へ、何度も目元を拭いながら伸ばしてくれた冷たい手を
確かに掴んで、胸に抱きよせた。
「なんで…なん、でっ……雅樹さんは…
いつも、すぐに来てくれるんですか…っ。」
「……あれんが好きだから。」
もうあれんの言う“幸せ”なんかのために
気持ちを殺すのはやめる。
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