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三章三話 売買契約
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「春哉は誕生日いつなんだ?」
春哉と影井は誕生日の話をした事がない。今回誕生パーティーを開けたのは、詩鶴が影井の誕生日だと言ったからだ。
「十月三十日だよ」
「……あと半年くらいあるのか」
「僕もうすぐ十九歳だ!」
春哉は喜んでいるが、影井と詩鶴は微妙な表情を浮かべていた。
「十八にも見えないけどな」
「第二次性徴始まったばかりの中学生みたいだもんね」
「一応声変わりはしてるそうだ」
「声変わりしててその声か〜。下の毛って生えてきたの?」
「そういえばこの前数本程度生えてたなぁ」
「一応成長してきてるのね」
影井と詩鶴はまるで子供の成長を見守る親のようである。
「もっちろん! これからうーんと背も伸びるんだからね」
キラキラと輝く目で虚空を見上げた春哉だ。今現在の身長は百五十七cmであるが、彼の脳内では百八十cmくらいの高身長になると期待している。
「それまでに中学レベルの学力を身につけような」
「なんで?」
「来年、君は高校に入るからだ」
「ええっ! でも僕十九歳だよ? 高校は入れないでしょ?」
「高校は義務教育じゃないから、大人でも入れるんだよ。その前に対人コミュニケーション力も身につけないといけない。
そのまま高校に入ったら苦労するだろうし、スポーツ、音楽、ニュース。勉強するものは山ほどある」
その話を聞いて驚いたのは春哉ではなく詩鶴だ。
「半年で詰め込むの? まさか私に全部教えろって言わないよね?」
「そんな無茶は言わない。それに半年で詰め込むのは中学卒業程度の学力だ。他はゆっくりでいい」
ケーキを食べ終えてパーティーは終わり、詩鶴は迎えの車が来て帰っていった。
後片付けは二人でだ。洗い場の前に二人で立ち、春哉が泡立てたスポンジで皿を擦って、影井が水で流してステンレス製の水切りカゴに置いていく。
「春哉、勉強の進捗はどうだ?」
「今小学四年生になったよ!」
「九九も覚えたのか」
「それがね、意外と覚えてたんだよ。もう十年前の事なのにね。僕天才かも! なんてね!」
「はは。春哉は天才だよ」
「やったぁ! あっ」
春哉が両手でバンザイをすると、泡が周りに飛び散った。影井の服にも泡がついてしまった。
「ごめんなさい」
「後で拭くから大丈夫。風呂も入るし」
「そっか!」
「元気なのは良い事だ」
「ほんと? じゃあ天才だけじゃなくていい子でもあるね!」
「調子良すぎるぞ」
「影井さんがおだてるからだよー」
春哉が明るさを取り戻してから、影井も笑う事が多くなった。影井が笑うと春哉はもっと笑顔になる。
楽しいと、シンプルな部屋が明るく見えるようになった。
片付けを終えて、風呂に入る。一緒に住み始めてからは毎日二人で風呂に入っている。
影井が春哉の身体の成長を確認する為である。
「少し身長伸びてきたか」
「うん。関節とか痛いよ。成長の証だって昔お母さんが言ってた」
「そうだな。お母さんとお父さんに会いたいよな?」
「……僕、このままでいいと思ってるよ。影井さんがいて、詩鶴先生がいて、それだけで幸せだよ。
それに僕は影井さんのものだからね」
「そんな事は気にしなくていい」
「それは無理だよ。影井さんは売買契約を交わしたんだから。皆軽く考えてるだろうけど、お金を払って対価を受け取る事は契約を結ぶって事なんだよ」
「春哉……」
「詩鶴先生の勉強とは別に僕なりに勉強してる事だってあるんだからね〜」
影井は何も言わない。峰岸にお金を払った負い目があるから言えないのだと春哉は分かっている。
見た目は子供のようであっても実年齢も中身も子供ではないのだ。影井の立場に立って物事を考える事も出来る。
「だから僕は──」
(契約を結び直そうと思ってる)
それはまだ口には出さない。春哉には計画があった。
「ん? 僕は……なんだ?」
「えへ。まだ教えなーい! いつか分かる日が来るよ。影井さんはそれまで僕の傍で待っててね」
「ああ」
影井がにこっと優しく笑う。彼が傍で見つめてくれるなら、どんな事でも頑張れる確信して。
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