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三章十八話 アルバイト
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夏休みに入る前、春哉はとあるファストフード店の面接に来ていた。
「夏休みの間も部活はあるので、夕方以降なら仕事出来ます。学校が始まったら、基本は土日の夕方以降でお願いします。
成績落とせないし、部活も頑張りたいです、お金も必要なので全部両立させたいです」
春哉がそこまで言うと、店長は一瞬だが春哉の身体を上から下まで観察した。
「……君の体力面は大丈夫かな?」
「適度に休むので大丈夫ですよ!」
春哉は面接官である初老の店長にニコッと笑顔を向けた。
ファストフード店に決めた理由は、希望時間と勤務日をコントロールしやすいからだ。
特に週ごとのシフトとなっているこの店は、春哉にとってうってつけであった。
「じゃあ、夏休みからの勤務でいいですか?」
「はい! よろしくお願いします!」
すぐに決まり、上機嫌で家に帰ると母親が不安そうな顔をして待っていた。
「春哉、バイトだなんて。あなたまだ学校生活も慣れていないのに?」
「もう慣れたよ〜。それにお金が必要なんだ」
「それならお母さんが出すわよ。あまり無理して欲しくないの」
「ごめん。僕が働いて得たお金じゃないと、自分が納得出来ないんだよ。無理はしないから……ううん、少し無理させて欲しい。お願い!」
少しでも家にいて欲しい母親としては簡単には頷けない。だが、父親が母親を制した。
「今、春哉はやりたい事を全力でやろうとしているんだ。見守ろう。
春哉、あまりにも無理しているとお父さんとお母さんが思ったらバイトは辞めさせるからな」
「うん。ありがとう」
それからは毎日が忙しい日々となった。夏休みに入り、部活の後にバイトをする。たまに一日休みが出来たら、山下と柳瀬と三人で遊んだり、影井に会いに行ったりした。
詩鶴に家庭教師に来てもらうのは、部活のない日だけとなった。週二のペースだ。
その日は春哉は夏休みの宿題が終わらずに、格闘中だったので、詩鶴も少し手伝った。
と言っても、解き方が分からない時に助言するだけだが。
「ねぇ春君。最近、めちゃくちゃ忙しくない?」
「うんっ! すっごい充実してるよ、毎日楽しいっ!」
「う、うん。でもさ、目にクマ出来てない? うっすらだけど」
「そう? じゃあ疲れてるのかも。身体は疲れても心は疲れてないよ!」
「春君、ちょっとストップ。休もうか」
「うん?」
詩鶴は春哉を椅子から立たせて、ベッドに押し倒した。
「し、詩鶴さん?」
上から四つん這い状態の詩鶴の襟からは胸の谷間が見えている。普段はあまり気にしていなかったが、こうして見ると大きい胸だ。
春哉の胸がバクバクと大きく揺れる。が、相手は詩鶴先生だからと、胸から目を逸らした。
「心が疲れるとね、動けなくなるんだよ。知らないの?」
「そ、そうなの?」
「そう。どんなに頑張りたいって思っても、身体が言う事聞かなくなるの。今日はバイトあるの?」
「今日はないよ。木曜日は詩鶴先生の勉強だけ」
「じゃあそれもお休みね」
詩鶴は春哉の上から降りて、ベッドの傍に椅子を置いて座った。
「春君はなんでそこまで頑張ってるの?」
「やりたい事があるからかな」
「何がしたいの?」
「……自分を取り戻したい。僕は、僕のものなんだって、胸を張って言えるようになりたい」
「もう春君は春君のものだよ?」
「これは僕の問題なんだ。影井さんに助けてもらうまでの僕はずっと奴隷だった。
まだ過去の自分が現れて言うんだよ、お前は奴隷の癖にって」
「人は誰も誰かの奴隷なんかじゃないよ」
「世界にはそういう人、沢山いるの詩鶴先生も知ってるでしょ。
人の心を持たないような人な悪い人に、人として生きる権利を奪われる、人が沢山……でも、それを無くすことは、出来ない。
だから僕は、誰のものでもないんだって、胸を張れるように……すぅ……」
「もう怖い事はないんだよって言われて、理解は出来ても心から頷けないよね。分かるよ」
詩鶴は春哉に布団を掛けて、部屋から出ていった。
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