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三章二十話 気付いた想い
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「ねぇ、柳瀬はさ。僕のどんなところが好きなの? いつから好きだった?」
春哉は不躾にそんな事を聞くと、柳瀬は分かりやすく嫌そうな顔をした。何も目的もなく公園を歩いているので、話題に困ってそんな事を聞いた。
「お前、その話終わったのかと思ったのに、蒸し返すなよ」
「ごめん。今後の参考までに教えてよ。僕、恋愛した事ないからどういう心理状態なのか知りたい」
「入学式の次の日、お前が山下怒らせた時あったじゃん。あの時は面倒な奴入ってきたな〜って」
「ん? その口ぶりからすると、柳瀬って内部?」
「そうだよ。周りの連中が、変な子入ってきちゃったねって遠巻きにお前の事見てて。なんか可哀想になって声掛けた」
「そうだったんだ。柳瀬いなかったら暗い学生生活になってたかも。ありがとね!」
春哉がパッと笑顔になると、柳瀬は少し照れた顔をした。
「いや。で、放課後にサッカー部の練習見学したじゃん。それで、あの時、お前が俺に向けた笑顔が可愛くて。気付いたら好きになってた」
「へぇ。笑顔ねぇ」
「一生、こいつの笑顔見て生きていけたら幸せになれるんだろうなって思ったんだよ。
なんか胸が締め付けられるの、今までにそういう相手いなかった?」
そう問われて、春哉は過去の記憶を思い起こした。確かに春哉の心は、締め付けられるように痛かった事があった。その人の顔を見つめていると、ずっと見つめていたいような気持ちに。
だが──。
「…………あ。いる」
「いんのかよ。その人が初恋の相手じゃないの?」
「どうだろ。でも、その表現しっくりくるなぁ。でもさ笑顔じゃないんだよ」
「まぁ笑顔が見たいって思うのだけが正しいわけじゃないからな。他の理由の奴だって沢山いる。
どういう感情を恋愛感情って名付けるか、それは人それぞれだ」
「その人を思い浮かべるとね、本当は毎日一緒にいたいとか、悲しそうな顔しているなら、僕が悲しみを取り除いてあげたいとか、あの人の隣に立ちたいって思うの。
あの人の傍にいられるなら幸せじゃなくてもいいって」
そう語りだした春哉の顔は、優しい笑顔を浮かべており、柳瀬はすぐに悟った。恋をしている顔だと。
「なんだよ、好きな奴いるんじゃねーか! とっとと告っちまえよ」
「まだしない。でも決めた! 告白する日!」
「うん?」
「僕はあと二ヶ月頑張ると自由になれるんだ」
「自由? 今は自由じゃねぇの? お前程自由に振舞ってる奴、なかなかいないけど」
「柳瀬からしたらそう見えるかもだけど、僕、あと二ヶ月したら自由になるんだよ。そしたら告白する」
春哉はそう断言した後、柳瀬と別れてとあるマンションへと足を運んでいた。
今まで出入りしたのは、入る時が一回、出る時が一回のみだ。だが二年は住んでいた部屋でもある。チャイムを鳴らすと、すぐに男が出てきた。
「よぉ、早かったな」
出てきたのは峰岸だ。元々会う約束をしており、快く出迎えている。
「こういう事は後回しにしたくなくてさ」
「影井にはまだ言ってないのか」
「うん。あと二ヶ月は言わないよ。それまでに決着はつけるつもり。あの様子だと売買契約書は僕に見せてくれなさそうだし」
「とりあえず上がれよ」
峰岸に言われるがまま部屋に上がり、テーブルに座った。
「懐かしいな。部屋の配置変わらないんだ?」
「まぁな。お前がいなくなってからは寂しいもんだ。ほらよ」
春哉の前に冷たい麦茶の入ったグラスが置かれた。綺麗なガラス細工だ、春哉は少し魅入った。
「ありがとね。峰岸さんって意外と美的センスあるよね」
「うるせぇよ。で、本題に入るぞ。これがお前を売った売買契約書だ。友人同士のやり取りで金額は十万だが、こういう契約書はきちんとしておかないと、上がうるさい」
「気軽に売買出来る商品じゃないもんね」
「そうだ。だが、この契約書はただじゃやらない」
「もう不要のものでしょ? 僕はその契約書から解放されている筈。だから発信機付きのピアスを取って実家に帰れる事になったって聞いたけど」
「はっ。だから底辺バカは商売もまともに出来ねぇんだよ。いいか、この書類はお前にとって価値があるものだ。お前はこれにいくら払うんだ?」
長年金融会社を経営してきている峰岸は、取引で意地悪をする事はない。いち取引相手として春哉を見ている。
取引相手に上下もない。上下があるとしたら、足元を見られた時だ。今の春哉のように。
「い、一万……」
「それはお前の懐が痛くない金額ってところだろ。ダメだぞ、弱味を見せたら食い物にされて終わりだ」
「じゃあ峰岸さんはいくら出せって言うの?」
峰岸はニヤリと笑った。そして、傲慢に上から目線で春哉に言いつけた。
「五十万だ」
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※
いつも読んでくださってありがとうございます。
投稿頻度遅くてすみません。
この作品、二年前だかに書いたものを直して投稿しているのですが、今見返すと「違法な内容の契約書は無効なんですけど」って思ってしまいますね。
フィクションということで許してください。
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