アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
四章一話 上手くいかない
-
バイトの帰り道だった。
「春哉!」
と、急に腕を掴まれて振り向くと、影井が険しい顔で春哉を見つめていた。
「あっ! 影井さんっ!」
「春哉っ! 無理するなって言っただろ!」
「……え? なんの話?」
「お前、大事な時にバイトなんか!」
どうやら詩鶴から、春哉がバイトもしていると聞いた影井が叱りに来たのだ。
「バイトくらい高校生ならするでしょ?」
「欲しい物ならなんでも買ってやる。とにかくバイトはやめなさい、学業に遅れて卒業出来なくなったら、お前が社会に出るのも遅くなる。
人より八年もハンデがあるんだ、部活をやってるのだって大変なのに」
母親のようにブツブツと文句を言いながら、影井は春哉の手を引いて家へと早足で歩いていく。
「でも、僕、今学生の内にやりたい事は全部したい! 社会に出たら出来ない事をやりたいんだ」
「バイトは大学生になってからでも出来るだろう!」
「それは……影井さん、ご主人様として所有物への命令?」
「お前なぁ」
「いいよ。命令なら僕は逆らえないから」
「違うっ! 断じて命令はしない! 俺は保護者として……」
「僕の保護者は家に二人いるけど? 影井さんは僕の何?」
「親で、ありたいと、思っている」
春哉の手を強く握っていた影井の手の力が段々と弱くなっていく。
「僕は、今一番大事な時を生きてる。影井さんに邪魔されたくない。バイトを辞めろって言うなら辞めてもいいけど、僕、影井さんの事嫌いになるから」
手の力が強まり、春哉は少しの痛みを覚えた。
触られるだけで皮膚が敏感になったかのように感覚を増していく。
「分かった。もう辞めろとは言わない。でも、もう峰岸に一人で会いに行くのは……いや、なんでもない」
「どうして僕が峰岸さんに会いに行ってるの知ってるの?」
契約書を受け取ってから、春哉は峰岸のマンションに週一のペースで顔を出していた。
というのも、峰岸の仕事を手伝っているのだ。勉強がてらに経理系の仕事でバイト代も出る。
「……えっと、偶然見掛けてだな……」
「バイト。ファストフード店とは別にバイトしてるの。そっちは経理の勉強込みだよ」
「そうだったのか……。やっぱりバイトは一つで良くないか?」
「やだー! だって接客のバイト楽しいんだもん! 峰岸さんのバイトは勉強になるし。もう影井さんはお母さんより厳しいんだから〜」
「君のお母さんは甘過ぎる。元々放任主義だったんだろうが、判断の出来ない子供に自己判断させたら、また危険な目に遭うかもしれない」
「大丈夫! もし危なくなったら影井さんか、詩鶴さんか、浩二さんって人の名前出すし」
軽く言いのける春哉に、影井はギョッとした顔をする。
「こ、浩二さんって……山城の親父さんの事か……?」
「知らないけどそうじゃない? 詩鶴さんの愛人で、僕を売ってた会社のトップでしょ?」
「シー! こんなところでその話は……」
「そうだったね、ごめんごめん。また始末屋さんに拉致されたくないし、この話は終わり」
「はぁ……反抗期かな」
「あはは。そうかもね〜」
春哉は最近常々不満に思っている事があった。
それは、影井が春哉を息子に対するような扱いをする事だ。
ツンとしてみても、親が反抗期の息子の扱いに困っているような態度を見せる。
しかもはっきりと「親でありたいと思っている」と言われてしまった。
恋愛感情を含んだ目では見てはもらえない事が一番の悩みである。
「影井さぁん、今日すっごく暑いね?」
影井に車に乗るように促されて、乗って一番に言い出したのがその台詞だ。
春哉は着ているシャツを脱いでタンクトップ一枚になる。服から乳首が浮き出ており、春哉は影井に見せつけるように胸を張った。
「そうだな。特に最近は猛暑が続いている。だが、汗をかいたまま薄着になると寒くなって風邪をひくぞ。
ほら、タオルで拭きなさい」
影井はタオルを用意周到に持っており、春哉に渡した。
「上も脱いじゃおうかな〜!」
「やめなさい。男でも上半身裸はよろしい事ではないぞ。俺はそんなはしたない子に育てた覚えはない」
「育てられた覚えないけど!?」
「いいや、半分育てたようなものだ。子供の頃のまま成長が止まっているお前に、常識を教えて、生活する上での知識と教養を俺と詩鶴で教えたんだ」
「分かった分かった。そういうつもりで言ったんじゃないよ。もう影井さんは理屈っぽいなぁ」
ここ最近は、こんな感じでいつも自分の思い通りにいかない影井にもどかしさを感じてるのであった。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
54 / 64