アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
1
-
夕方から夜中にかけての仕事は、夜型の自分にとって好都合だった。
歓楽街のはずれに位置する比較的小規模な居酒屋だが、
終電を逃す事になんの躊躇いもない客の多いここは
今日も遅くまで賑わっている。
「あの…唐揚げはまだかってお客さんが怒ってしまって…。」
「まだかって…注文受けて5分も経ってないのに?」
「すいませ…。」
「夏目は悪くないだろう。」
日付が変わってもなお騒がしく飲み食いする客はやっかいなのが多い。
21時頃からラストまでという決まったシフトで働く夏目は
今日も飲んだくれにからかわれ、小さく背中を丸めていた。
「俺が持っていくから大丈夫。
ラストオーダーも取ったし…賄い作っとくから着替えてきていいよ。」
「ほんとにっ…すいません…。」
「謝らなくていいって。」
夏目は厨房の入り口で深く頭を下げると、
事務所に繋がる階段へと消える。
……今日は、食べられるといいが。
念のため柔らかいものを出してやろう。
夏目はいつも顔のどこかに絆創膏やガーゼを貼っていた。
鈍臭いだけなのかと初めは気にも留めなかったが、
あまりに毎日痛々しいものだから、何か事情があるのかもしれないと
一度気になれば、気になって仕方がなかった。
近しい人間に言えないような事がもしあるのなら
一日のうちのほんの数時間顔を合わせるだけのバイト先の従業員…になら話せたりするだろうか。
揚げたての唐揚げの油を切りながら
痣になっていた唇の端が、少しは良くなっているようにと願う。
俺は夏目に思いを寄せていた。
*
ようやく泥酔男達の長すぎる会計作業も終えて事務所へ戻れば、
タートルネックを着てサイズの合わないマスクをつけた夏目がちょこんと座って待っていた。
賄いに出したどんぶりは空になっていたし
従業員も俺以外は皆とっくに退社している。
何かあったのだろうか。
「夏目?帰らないのか?」
「あっお…お疲れ様です。
ごちそうさまでした…!」
小さめのリュックを背負って、両手で大切そうに握り締めたスマホ。
帰る準備は万端なように見えるが、
まだ動くつもりはないらしい。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
1 / 13