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目が覚めたのは朝で、隣には僕の胸に額を押し付けて眠る直己がいた。
身体が動くようになったのは昼過ぎで
隣の温もりは、ない。
腰から下にかけての猛烈な怠さに耐え、
重たい足を引きずって歩く中で、ニイっと頬を引きあげて。
…折れてない。
よかった、今日も直己と笑い合える。
リビングからは美味しそうな匂い。
思わず、鼻がヒクンと反応した。
「なおっ。おはよう。
なおが作ってくれたの?」
僕のマグカップの破片を眺めていた直己は
僕に気付くと、とても優しい目をして笑う。
「おはよ。よく眠れた?」
「ちょっと寝すぎたくらいだよ…なお、激しいんだもん。」
あっ…
これは、まずかったかな。
伸ばされた腕に身体を忍ばせて
上目遣いに直己を見あげる。
もし僕の発言で、また直己に思い出したくないものを思い出させてしまったら…今度こそ僕は失格。消えた方がいい。
「えー?…嫌だった?」
でも、僕の最悪の予想は
幸いな事に外れてくれたようで。
少し恥ずかしそうに、ばつが悪そうに
口を窄める仕草。
包み込まれた直己の腕は、僕を胸に押し付けるよう力を増した。
「嬉しかった…よ?
なおの気持ちすっごい伝わってきた。」
僕の事を手放したくないって
僕を求めて、僕を必要とする歪んだ心が
僕を救うんだ。
まだ少しだけ身体が痛むから
本能のまま、濃厚に愛してくれた直己に、今日は甘えたい。
「なお、あったかいミルクティー飲みたいな。」
「……俺、翼のコップ知らないうちに割っちゃってて、その…。」
直己は解離性障害を患っており
なにか酷く苦痛を感じた時、何もかもが崩れ堕ちた時、記憶が曖昧な事が度々ある。
だから僕は、直己が自責の念に駆られる前に
最も適した答えを瞬時に脳内で選別するのだ。
「お揃いより、同じもの使った方が僕嬉しいな。
なっ、なおが…コーヒー飲みたかったら僕も…飲む。」
「ふぅーん?俺ブラックしか飲まないよ?」
「ぶらっ……の…飲める、もん……。」
昼下がりの穏やかな日差しに照らされ、
広めの座椅子に並んで座って
鼻同士が触れる距離で笑い合って。
2人で食べるご飯は宇宙で一番おいしくて
一つのマグカップに注がれたミルクティを交代で飲むのは…少し恥ずかしいけど
これ以上の幸せは無いと断言出来る。
「なお、今日は仕事?」
「そうだよ。」
「一緒に行かない?
帰りも…時間合えば一緒がいい。」
それまで柔らかく微笑んでいた直己から
奥に潜む闇の結晶が姿を現す
──が、
「今日は、料理長お休みだよ。
なおは、なーんにも心配する必要ないんだよ。」
直己を正面に見据えて、小さな子供に言い聞かせるようゆっくりと言葉を紡げば
闇は再びその身を鎖に繫ぎ止めた。
どちらともなく唇を重ね合わせ、互いの身体に触れて温度を感じる。
あぁ、僕たちは今日も生きている。
僕達の、僕達にしかわからない深い愛は
誰にも覆せない。
誰にも邪魔させない。
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