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用事もなにも無い休みなど、ここ最近全くと言っていいほどなかった。
故に、何をすればいいかもわからず
適当に起きて、数か月ぶりにログインしたスマホゲームに集中していれば、時刻は0時を回っていたのだから
独身男の干し柿のように干上がった寂しい有様だ…。
…腹減ったな。
何か飯でも買いに行くか。
いや折角なら駅の方にでも…。
この時間帯の駅前にどれくらい人が歩いているかを見るのも立派な仕事のうちだ。
それに…この時間なら夏目に会えるかもしれない。
あれから気になっていたナオの正体を、ホスト専用のサイトで調べてみた。
するとまぁなんとも簡単に見つかるもので。
彼と思われる人物は、ここらで一番栄えている店のナンバーに入る人気者だったのだ。
『翼 夏緒希』と書いて、ツバサナオキと読むらしい。
ツバサという名前…そして夏目の夏の字
糸や物同士を結ぶ緒に希望の希。
俺の考えすぎかもしれないが、どこをどう取っても夏目を連想せずにはいられない。
だが、どうにも違和感を拭えないのだ。
幸せそうに笑う夏目には似つかわしくない痣や傷、わざわざ人にその存在を知らしめるような職で恋人の名を使う意味。
――例のサイトの他にもう一つ、検索履歴をいっぱいにしたものがある。
DVについて。
暴力的な恋人から逃れられない者の特徴。
…酷くされた後、何度も謝り優しくされる事で
それは洗脳のように被害者の心を惑わし、知らず知らずのうちに絶望の淵へと追いやるのだそうだ。
吸った息を吐くように、苦しみを脳に刷り込まれていくと。
洗脳から解かれるためには、誰かの助けが必要不可欠であると。
俺が、助けてやらないと。
夏目の痛々しい姿を見ているのはもう耐えられない。
夏目とナオの常識を逸脱した奇妙な関係を、
黙って見ていられる程俺は非情ではない。
駅の地下に車を置くと、まだ賑やかな歓楽街を歩いた。
仕事も休みな癖に
その足は通い慣れた店に向く。
と、一つの影が見えた。
姿はよく見えないが、背を曲げて小さなリュックを背負い
ネオンに輝く通りの方をじっと見つめているその人物。
間違いない
夏目だ。
もしかして…あいつと帰る約束でもしているのだろうか。
そう思うと、居ても立っても居られないわけで。
「夏目っ!」
夏目は俺の声に反応すると、ビクッと大きく肩を震わせる。
姿がよく見える距離まで差し掛かると
ある不思議な点に気が付いた。
夏目は驚いているというより、恐怖を露わにしたかのような
血の気のない顔をして、目を見開いているのだ。
「ど、して…今日休みじゃ…。」
「夏目、俺の車に来ないか?」
「……は?」
「俺と逃げよう。」
早くしないとナオが来てしまう。
あれは洗脳だ。
夏目は操られているだけだ。
本当は、あいつが怖いんだろう。
本当は、あいつを拒みたいんだろう。
本当は、この恐怖から逃れたいんだろう。
俺は夏目の肩に、両方の手を置いた。
「っやだ、離してください!やめてっ!」
これまでの夏目では考えられない叫びに似た声。
嫌われた覚えは無いのに、
戸惑いを隠せないほどの拒絶。
これも全て、あの男のせいなんだろう。
「…ぁ……。」
瞬間、夏目の瞳は俺の肩越しへと流れ、
俺の拒んでいた腕の力はだらんと抜ける。
「…………翼は嘘つきだ。」
すぐ後ろで、身の毛もよだつ低い声を聞いた。
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