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一瞬の静寂の後、あたりは急に騒がしくなる。
腰が抜けて動けない男や
パニックからか過呼吸を起こす女。
それらを踏みつける勢いで、皆の視線が寄せられる場所へ走るのは
夏目だ。
まさか…
この事故の被害者、は……。
「な゛おぎぃいいッ!!うああぁあぁ……。」
夏目から発せられた声に
俺の思考回路は完全に停止した。
前へ、前へと足を踏み出すたびに襲いくる恐怖が
ガクガクと膝を震わせ、呼吸を乱す。
走ったからではない。
息が切れているわけではない。
ただ、近付くたびに鼻を刺す鉄によく似た異臭とゴムの焼けた臭いが
夏目の前で横たわっている目を閉じた男の
あらぬ方向にひん曲がり、ぺしゃんこに潰れている足が
これは夢なんかでは無い、と
現実を突きつけてくるようで。
「な…なつ」
「…まえのせいだ……。」
赤く染まるナオの頬を
大切そうに、優しく、優しく撫でながら
夏目はゆっくりと顔を上げて
俺と、視線が交える。
「お前のせいでなおが…なおが、死んだらどうするの…?なおが起きなかったら、僕はもう生きてる意味がない。
お前のせいだ…僕たちの邪魔するなよぉ!!!!」
「じゃ、ま…?」
狂ったように、まるで壊れたラジオのように
お前のせい。お前のせい、お前のせい、お前のせいと永遠に繰り返す夏目は
一つも我慢をしているわけでは無かったのだ。
夏目にとってナオの存在こそが全てだったのだ。
「俺…は、夏目を……救いたく、て…。」
嘘じゃない。
本当に、俺はナオから夏目を解放させてやりたかった。
ナオに縋って生きる夏目に、いろんな景色を見せてやりたかった。
痛くない、苦しくない道を
ただ、歩ませてやりたかっただけなんだ。
「僕にとって唯一の救いがなおだったのに…
なおだけ、が……僕、幸せにして……れたのにっ…。」
夏目の瞳から大粒の滴がいくつも落ち、
血に塗れた男の顔を洗う。
そこで初めて
俺は間違っていたと気がついた。
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