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告白の夜
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去年の暮。
譲は、県外の大学に進学してから久しぶりに実家へ戻った。
人も店も家もまばらで寂れたこの町に嫌気がさし、特に目標は持たずに大学に進み脱出した。
けれど、出発の朝、不安と期待で弾んでいた気持ちは、当の昔に萎んで乾いて砕けて欠片も残っていなかった。
駅舎の前に広がる光景、古びた時計塔、シャッター通りを目の当りにすると、深くにも目頭が熱くなってしまった。
確かにここには何もない。
でも、何もない中で得ていた大切なものの有難みが今なら分かる。
自分の学力以上の大学に進み、毎日の講義についていくのがやっと。
友人と呼べるほど仲の良い同級生も作れず、生活費の足しになればと始めたコンビニバイトも、客足を捌くのが遅いといつも注意され出勤前から胃が痛む始末だ。
イヤミと冷たい視線に耐え、年末年始はシフトゼロを突き通し逃げるようにして帰って来た。
都会で背伸びをして上がりっぱなしだった踵が、電車から踏み出した一歩と一緒にトンと地面に着いた。
あるべき所に収まる安心感。
なんだろう、泣きそう。
ヤバイ、ここでまた暮らしたい。
あれだけここから出たいと思ってたのに。
その日から実家でゴロゴロと甘やかされ、週末は商工会の打ち上げに参加。
気心の知れた仲間ばかりで気も緩み、水を得た魚のようにピチピチ、バシャバシャとはしゃいだ。
寺の跡取りになるのが嫌でグレていた悪友、寺崎 憲一が、見ないうちに僧侶として父親と檀家を回ってると聞いたときには「置いて行かないで」と縋りそうになった。
自分だけが成長出来てない。
焦りでなかなか酔えず、一番長く話し込んだ憲一を良い潰してしまった。
家に連絡したのか、暖簾が回収された居酒屋に憲一の弟、憲次が迎えに来た。
家まで送った帰り道、一人坂道をしんみりとした気持ちで下っていたら呼び止められた。
「譲さんっ」
冷えた空気を斬るような、鋭く刺さる声。
切羽詰まった響きに何事かと振り返った。
坂道の上から走ってくる姿が、みるみる大きくなる。
ここを出るときは、中学生。
一番高い鉄棒に指も引っかからないほど小柄だった幼馴染は急速に成長していた。
母親似のタレ目でふっくらした憲一と違って、父親譲りの凛々しく引き締まった顔も身体も譲るより大人びて見えるくらいだ。
「おぅ、どうした?」
憲次とは、寺まで会話が殆ど続かず気まずかった。
そんな憲次に呼び止められ、譲は不思議な面持ちで幼馴染を見返した。
「俺、譲さんのことが好きですっ
さっき、恋人は居ないって言ってましたよね?
俺と付き合ってくださいっっ」
譲の目の前で、膝まで勢いよく頭を下げた憲次の勢いに一瞬怯んだが。
(何言ってんだ、コイツ。
ははーん、起きた憲一が、俺をからかってこいと焚き付けたのか)
アイツもヤッパ成長して無いなぁと、自分が考え付いた答えに嬉しくなる。
「無理無理。
俺、男と付き合うなんて考えたことないもん」
譲はさっぱりした笑顔でそう答えると、「じゃあな」と悪ふざけに付き合わされた憲次に同情し、背中を叩いてから坂を下った。
足取りが一気に軽くなり、鼻歌混じりで実家に辿り着いた。
真夜中の田舎道。
その間、誰ともすれ違っていない。
あのことを知っているのは、譲と憲一と憲次だけの筈だ。
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