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絶望は甘い罠4
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「見かけない顔だな?…使役している人形のレベルからすると、相当な魔術師のようだが?」
男は、国が定めた特別優秀な魔術師だ。
そういう魔術師は、大体神の名前が与えられている。
「言いなさい。どこの魔術師なんだ?」
「えっ、…っと」
彼は戸惑っていた。
「どうして言わんのだ?」
不審がるその男をどうやって言いくるめようかと考えていると、焦れた様子でいう。
「もし、君がどこへも所属していないのなら、是非私の部隊に入ってもらえないか?」
精霊を操る技術は、魔術師の中でも限られた人間しかやらないし、できない。
なぜなら、それだけ難しいからだ。
精霊を誤った形で使役すると、精神が崩壊するか、もしくは精霊に飲み込まれる。
どちらにせよ、人間ではなくなる。
「は?」
ぽかんと口を開けていると、男は尚も続ける。
「君は、どこの出身だ?どこで魔術を覚えた?師は誰なんだ?」
「???」
矢継ぎ早の質問をされて困惑していると、ガシッと両肩を掴まれる。
「えぇい!焦ったい!君の貴重な技術が欲しいのだよっ!」
「ど、どうして…だっ!?」
辛うじて、切り返した彼に男はいう。
「実はな…私は死霊魔術師を取り締まる任務を仰せつかっているのだ。彼らは、邪悪な存在だ。巨悪だ。…だから、殲滅しなければならない。知っているか?彼らは、使役する死体が多ければ多いほど、その技術力が高いのだよ」
彼のいう死霊魔術師とは、魔術師の中でも限られた技術を要したもののことで、その名の通り、死霊を所持して使役する。
「…死霊魔術師の差は、死体の所持の数ってこと?」
「その通りだよ」
感がいいなと男は言った。
「多くの死体を使役して、多くの人を殺す…その中からまた多くの死霊を生むのだよ」
死霊は、多くもてばいいというわけではないし、質というわけでもない。
死霊魔術師というのは死体を死霊として使役する者。
外部の知らないものが、勝手な物差しで死霊魔術師を図っていいわけじゃない。
それこそ、死者への冒涜というやつだ。
それに数だの質だのという考えもそもそも間違っている。
死霊魔術師が扱うのは死者だ。
つまり、命を扱っていることを決して忘れてはいけない。
死者は…
人間は…
死んだら、ただの肉片なのか?
「じゃあ、なんで俺の技術が欲しいの?」
だんだん心が冷えていく。
「死霊魔術師は死者を増やす。…人形や精霊はどんなに死んでも、死者にはならないだろう?」
万物に命が宿ると老師は言っていた。
道端の小さな花や、目の前をかすめる羽虫さえ。
意味のない命などない。
無駄な命などない。
何かこの世に生を受けたものには理があり平等。
総じて名前をつけた先人は八百万の神々と表現をしていた。
人間だけが生きており、他はどうでもいいような考えが気に入らない。
まるで、殺した死体の山の上に座るようなものだ。
自分の所業を棚に上げて、他者を蔑む。
自分は神であると幻想に浸る。
それになんの意味があるというのか
…いや、意味なんてないのだ。そもそも。
自分が誰よりも優れていると思い込んでそれを誇示したいだけ。
優越感に浸って、見下して、優秀な魔術師であることに酔いしれたい。
…なんて、馬鹿げた傲慢だろうか。反吐が出る。
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