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③
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無機質な石壁に祈りの言葉は響きただひたすらに繰り返されていた。
しわがれた老人、ふくよかな婦人、高級な時計をつけた紳士だっている。これまで宗教なんてものはまるで恵まれない人が集まって心のよりどこにする為のものだと思い込んでいたから、どう見ても貴族のような装いをしている人間が紛れ込んでいるのは驚きだった。
皆がみな一様に黒いローブを纏い、同じ紋様の首飾りを着けている。
人々が囲むように並ぶ円の中心には、背から羽の生えた天使のような女性の大きな彫刻があり、そのすぐ前に教壇が置かれている。そこにいるのはまさしくシガーから教主と呼ばれていたあの男だ。すらっとした体型で背は高く、大きく骨ばった手にはいくつもの指輪をしている、鋭い目で少し高くなった教壇から信者を見下ろす彼は齢にして四十代くらいだろうか。
先ほど教団員の一人から簡単な説明を受けた、もちろん教主と呼ばれるあの男にももう一度挨拶をした。目のギョロギョロした男の教団員から教団の歴史や掟を聞かされたが、早口でまるで頭に入らなかった。
俺はただ周りの真似をして指を組んだまま薄く目を開けて教壇の方へ目を向ける。
そして、教主のすぐ隣で慎ましく小さめの手を組んだ彼を見つめていた。
再会を喜んだもののシガーもこの教団のローブを着ていたのだ。それに教主と常にならんで歩ける程のそれなりの地位を持っているらしい。
一概に宗教を悪く言う訳ではないが、仲のよかった友達が何故こんな所に居るのか、それが知りたくてその建物にトクトは入る事を決めたのだった。
眠気を誘う長いお祈りが終わると、信者達は部屋を出て行き教会といえる建物の掃除をしたり、布教活動のためか町へと出ていった。
とにかくシガーと話がしたかったのだが、再会してからも信者に囲まれていたりずっと教主と話をしていたりでその時間はまったくとれていなかった。
お祈りが終わってしばらくして教主と共に何処かへ消えたシガーを探そうと思った。が、初めての場所で勝手が分かるはずもなく、トクトは信者の一人に話しかけシガーの行方を尋ねた。その信者は無言で下を指差した。意味がわからず床をみているといつの間にかその信者は居なくなっていた。
教会をしばらく探検して下へと降りる階段を見つけた。先ほどの信者もきっとこれを示していたのだろうと推測を結びつける。
階段を下りている間にもあの紋章が描かれており気味が悪かった。小さな音でも響き渡る密閉されたような地下は背筋が震えるほど寒く感じた。
階段を下りきってから話し声のようなものが聞こえた。恐らくシガーの話し声だろうと思い廊下の先へと進む。誰かと話していると言うことはまたあの教主だろうか。今度はたとえ教主がいても二人きりで話がしたいと言ってみようと思った。
「…ぁ、…ぃで…」
地下室の階段の突き当たりの部屋からその声は聞こえた。近づくにすれ、それは話し声ではない様に思えた。
「…あぁっ、はぁっ…」
上擦った高い声が途切れ途切れに聞こえた。その声はシガーのものだとわかった。
「そうしゅさまぁっ、あっ…あんっ、もっとふかく…」
目的らしき部屋の前までたどり着くと、トクトは硬直したままドアのまえに張り付いていた。その声が、そのシガーの声が何をしているものか悟ったからだ。
シガーは性行為をしている、そして相手はあの教主だ。
「もっと大きい声で言ってごらんシガー。どこがいいんだい。どうして欲しい?」
「…ああっ、僕のおくに、教主さまのをくださいっ…つよく、ふかく…もっと激しくしてぇ…」
そんな声が聞こえてから肌のぶつかり合う音、ギシギシとしなる家具の音がより鮮明に聞こえた。
信じたくはなかった、あの幼かった友達が、泣き虫だった彼が、なにより恋心を抱いていた相手がよりにもよって自分以外の同性と繋がれているなんて。
ドアを見ると頭のすぐ横に格子状の筒抜けの小窓があった。トクトは音をたてないよう恐る恐るその窓を覗く。
机と椅子、本棚くらいしかない小さな部屋。机に向かされたシガーはローブを捲り上げられて下半身を露にし、その背にのし掛かるように教主の男が被さっている。
腰をずんずんとシガーの尻に押し付けるたびに刺激を受けたからだはビクビクと跳ねるように動き、廊下にはあえぎ声が響く。
「きょうしゅ、さまぁっ、僕もう…いきそうですっ」
「私もだよ。シガー、どこに出せば良いかな? 」
「僕の、なかにくださいっ…たくさん…きょうしゅさまのぉっ、くださぃぃっ」
二人はいっそう激しく体を打ち付け合い、やがて一番大きな声をシガーが上げると教主も小さく吐息のような声を出す。しっかりと繋がれた所を固く押さえつけその熱を吐き出す。同時に果てたようだった。
息を整え体を離すと教主は机に項垂れるシガーを抱き起こし、優しく唇を重ねる。シガーもその頬を引き寄せるようにてを添えた。
「そういえば君のお友達が君と話したがっていたようだが、もしかしてこちらに向かっているかもね。」
「へ? 」
教主は身なりをさっと整えるとトクトが息を潜めていた扉へと向かい、勢いよくその扉を開けた。
トクトは逃げ出す間もなく教主と目があった。
「やあ」
「…」
口の端を引き上げ教主はニヤリと笑った。
こいつはわかっていてやっている、トクトは咄嗟にそう思った。
「ほらシガー、たぶん君と話をしに来たんだ。」
「ごめん、昼間は忙しくて…その…」
そう言いながらいそいそとローブの乱れを直してシガーもこちらへと歩いてきた。
シガーのローブの裾から出た足を伝って白い液が床へと垂れるのが見えた。
「いや、今日は…帰らせてもらいます。」
それをひと睨みしてトクトは踵を返した。
シガーとゆっくり話がしたい、その気持ちは揺らいでいた。しばらく会わないうちにシガーはすっかり変わってしまったのかもしれない、心も体も思想ごとすっかり。そう思うと怖くて仕方がなかった。
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