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一五、
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月日が経つのは早いもので
あれから7年という歳月が過ぎた。
亡き父が残した広い畑を、健やかに育った弟と共に耕し、水を撒く。
隅に一本だけ植えた木になる実も、もう間もなく食べ頃だろう。
その中で最も熟れた実を探し、一つちぎった。
と、何やら今日は近所の家々が騒々しい。
慌てて隣家に駆け込む者から、鎌や鍬を持ち出す者。
これはただ事ではないと弟と顔を見合わせ、
慌てて集落へと向かった。
「おい、見えるか?……こちらへ向かってきている。」
「俺達の食い物奪いに来たってんじゃねえだろうな!」
「こんな田舎に何しに来たんだか…。」
騒めく大人と、物珍しそうに目を輝かせる子供達。
理由を知るのは、そう難しく無かった。
山を下った細道に列を成すのは
ここらで目にする事はあり得ない光景。
遠い昔、気が遠くなる程見てきたからよく知っている。
日の反射の具合で、既に俺達とは全く別の素材を使っているとわかる着物。
立派な馬に跨り、後ろに数人を率いているその男は
しっかり髷を結い、凛として背筋を伸ばして。
先頭を切っていた男は、馬を降りると
胸を張ったままこちらへ歩みを進めた。
「……お役人様が、如何なされました。」
以前俺が都へ稼ぎに出ていたことを知る村の人々は、皆俺を盾にして俯き加減で様子を伺う。
「本日は我が妻の故郷へ足を踏み入れてみたく参った。
何も怖がることはない。普段通りで構わぬ。」
役人が後ろに立つ男に合図すれば、
男は短い返事をしたのち、四方を囲われていた姫駕籠の入り口を僅かに引いた。
途端に辺りはざわめきだつ。
我が、妻…?
役人の言葉が引っ掛かってならない。
この村の女で都へ出た者など居ないはずだ…。
──いや、待て。
俺と共に、都へ出向き
帰ってきていない男が、一人だけ。
と、そこまで記憶を辿る玉響に
胸は激しく脈打った。
この役人の顔……見覚えがある。
確かあれは、もう何年も前の
寅松が留守の晩。
『ほう…そなた綺麗な顔をしておるな。
名は何と申す。』
『…桃と申します。』
…あ。
“柘榴”に入れ込んでいた、あの男だ。
という事は、まさか
もしかして、その籠の中に居るのは
まさか──…。
「この地へ足を踏み入れるのも…随分と久しぶりでございます。」
聞き覚えのある声が
忘れるはずもない声が
必要以上に耳に響き、遠い昔の記憶が鮮明に蘇った。
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