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グラウンドからコーチと思しき男性の、集合を促す叫びに俺は顔を上げた。揺れるカーテンがモザイクの役割を果たしうまいこと見えなくなっている。
見るの?
やめといたら?
どうせ後悔するよ?
そんなの百も承知。立ち上がってグラウンドを見下ろした。
野球部、ソフトボール部、そして陸上部。宇佐美と歩はすぐに見つけられた。互いに隣同士であり、コーチの隙をついてちょっかいを出し合っている。
マジで入部するんだもんなぁ。たまげた。
実際のところどうなんだろう。高校レベルの運動部に未経験で入ったところで、部員として活躍は見込めるものなのか。
無理でしょう。そんな甘い世界じゃない。入部の際はどこも口を揃えて「初心者大歓迎!」を掲げるけれど、それは部員を増やすための方便である。
歩はきっとその常套句を間に受けるタイプだが、それもいつまで持つか。
「おっそ」
歩は、遅かった。宇佐美のあとだと余計にその差が浮き彫りになる。あれなら確実に俺のほうが速い。フォームを矯正中なのか、宇佐美やコーチが手取り足取り教えているようだ。
また歩が走る。おっせぇ。雑魚。フォームを意識しすぎているのか、今度はぎこちなさも伝わってくる。
電撃入部には少なからず焦りを覚えたが杞憂に終わりそうだ。あれを足手まといと言わずしてなんと言う。マネージャーに成り果てるならまだ良し、退部も秒読みである。
宇佐美がペットボトルを傾ける。歩は喜んでそれを受け取りーー
がたん。
がったーーーん。歩の席が、倒れて、死んだ。口からは大量の教科書を吐き出しているところを見るに、素行不良であることが手に取るように分かった。転校早々置き勉ですか。
「……ったぁ」
つま先が痛覚を通じて俺を叱っているようだ。もちろん無視。それよりも予想以上に大きな音だった、誰にも見られていないだろうな。
この惨状を元に戻すか否か悩んでいると、唐突に目が合った。
(╹◡╹)
にっこり。斜め上から俺を見下ろしている。お前がいたか。
ハサミを喉元に充てがっても表情一つ変えない。面の皮が厚いのは製作者譲りなのだろうか。歩も何したって絶えず笑顔を見せそうだ。
「晴れたんだからもういいでしょ。お役目ご苦労さん」
一週間の命だなんて、まるで蝉のようだ。
むしゃくしゃしていた俺は、倒れ伏している机に雑巾を投げつけた。
……いや、まだ足りない。こんなんじゃ全然足りない。
ちぎったルーズリーフに「ホモ」と書いてそれを歩の下駄箱に提出した。
おかげで少しは心が晴れやかになった。ここ一週間はずっと雨降りだったのだから。
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