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小石と耳飾り1
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幼い頃、雪山に狩りへ行く両親をいつも泣きながら見送った。なかなか帰らない二人を、山のふもとの河原でただじっと待つ。
雪が降り出すと、身体が凍るんだと思うほどの寒さだった事を思い出す。一面真っ白で、すべての音が、白い息が、雪に吸われる。
怖いと思っても、家に帰ることは出来ずに、ただ凍えながら待つのだ。
一度だけ怖いと思わない日があった。
雪の日なのに、河原で石探しをしている身なりの良い男の子に会った。寒いはずなのに、青い目が細まり楽しそうに頬と鼻を赤くして笑っている。
幼い心に、小さな恋が芽生えた瞬間だった。
一緒に石を探して、楽しい時間をくれた。
珍しい綺麗な黄色の石を探してあげると、彼はすごく喜んで自分がつけていた高価そうな金の耳飾りをくれた。
宝物が出来た初めての日。
ただ、それだけ。
*
ファーデル王国。一年中雪に覆われた、山あいの国。豊かな水源と、雪の中で育つ高価値で貴重な農作物。寒さに強い動物の乳から作るチーズは名産だった。
その小さな国の、雪に埋もれそうな城の一室では暖炉の火が赤く揺れていた。
「ダイン。入るぞ」
ノックと共に扉が開き、雪のように白い肌と明るい茶色の髪をした青年が部屋へ一歩踏み入った。
その少し後ろには頸を隠す程度の長さの美しい金髪をした少年が隠れるように立っていた。
「兄上……如何いたしましたか……?」
部屋の主ダインは、声の主である兄のクラウスへ振り返った。
第一王子のクラウスは、弟で第二王子のダインに優しく笑みを向け、自分の後ろに立つ金髪の少年ランスの背中をそっと押した。
「彼はランス。珍しいだろう?金髪だ。……父上にも相談して、ダインの世話係にと思って来てもらったんだ」
「世話?」
「ずっとひとりで部屋にこもっているだろう?」
「学ぶべき事が多いですから」
にこりともせず、ランスへ見向きもしないダインにクラウスは眉尻を下げた。
気まずい空気を変えようと、ランスは顔を上げてダインを見つめた。
「ダイン様……僕はランスです。お役に立てるよう頑張ります」
ランスはクラウスの後押しを得て凛とした声を放った。
「じゃあ、俺は行くから仲良くね。困ったら執事長のハロルドに。さっき会ったジジイね」
「はい。王子様に連れて来ていただけるとは思わず……礼儀がなっていなくてすみません」
「俺は堅苦しいのは好きじゃないから。謝る時は『申し訳ございません』くらいでいいんじゃない?」
クラウスはにこにこと手を振って部屋を出て行った。
ランスがダインの方へ視線を向けると、彼はもうこちらを見てはいなかった。机に向き、背中を見せる彼に声をかける。
「御用は……」
「そこの本、アルファベット順に棚にしまってもらえるだろうか。その後は自由にしていい」
ぴしゃりと言い切り、それ以上は声をかけにくい雰囲気が漂った。
ランスは小さく返事をして山積みの本に手を伸ばした。どの本も、ランスは魅力を感じない題名だった。
経済、整備、農耕、社交、医療、歴史…部屋にこもっていると言うクラウスの話は本当のようだった。
しばらくの間、ダインがペンを走らせる紙擦れと本をめくる音、ランスが棚に本をしまう音だけが暖かい部屋に吸い込まれるように消えていった。
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