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小石と耳飾り2
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ランスがダインの元に連れてこられて、数日。言いつけられるのは本や紙の整理、掃除や煖炉の様子を見ることばかり。
ひとつ変わったことは、ダインの部屋にお茶と菓子が用意されるようになった事だった。毎日変わる、見たこともない洋菓子。そんな小さな優しさをくれるダインに、ランスはよく笑顔を向けて話すようになっていた。
城下の様子。子供たちに流行っている遊び。おすすめの文学書など、他愛のない話は意外と二人の距離を縮めていた。
ただの一度も笑わないダインの事だけがランスには気がかりだった。
*
ランスはダインに頼まれた新しい紙束を届けるために抱えていた。
ふと、廊下の先に第一王子の姿を見たランスはそっと廊下の端に寄り、頭を下げた。
「ランス!探したよ。元気?調子どう?」
「クラウス様。元気です。わざわざ声をかけていただくなんて…」
「俺がキミを呼んだんだから。ダインを見守っていてくれたらありがたい。俺は政務でなかなかそばにいられないからな…」
「あの…」
「どうした?」
「ダイン様は何かご病気ですか?ずっと元気がありません。以前お会いした時は…すごく元気そうでした」
「以前?」
「あ…あの、まだ九つの時です。両親は猟師で、山から帰らなくて…寂しくて不安でした。でも、その日ふもとで待っていた僕は、たまたまお会いしたんです…。笑顔がキラキラしていて、赤い頬がリンゴのようだった記憶が頭から離れません。僕は…ダイン様の笑顔に救われたんです」
『両親もその日に戻りました!』と笑うランスを見て、クラウスは驚いたように目を開いた。透けるような青の瞳が光を取り込み、空色に輝いた。
ランスはそれが出会った頃の少年のダインと重なり、見惚れた。
「そうか。可愛くて奔放な頃のダインを知ってるんだね。ランスが九つ…ダインは十二歳か…また、あの頃みたいに笑ってくれたら…嬉しい」
「…何かあったんですか?」
「………それを乗り越えてほしくて、ランスを呼んだんだけど…」
言葉に迷いながら話すクラウスの言葉を、ダインの低く優しい声が遮った。
「ランス」
「あっ…!ダイン様!!」
ランスはクラウスに深々と頭を下げ、ダインの元へ駆けた。
抱えた紙束をランスが見せると、ダインが代わりにそれを持つ様子がクラウスの瞳に映る。
「ダイン…お前は強くて、人を憎まない優しい男だ。自分を憎む事も止めて…幸せになってほしいよ」
小さなクラウスの独白は、深々と振り続けて外を白々と埋めていく雪に吸い込まれるように消えた。
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