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小石と耳飾り3
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雪が止んで、ファーデルでは珍しく雲一つない月が輝く夜。
ランスは震える身体を叱咤して、ダインの寝室のドアをノックした。
「ダ……ダイン様……」
「ランス?まだ起きていたのか。入って構わない」
『はい……』と小さく答えたランスがドアを開くと、ダインはバルコニーに立っていた。二重ガラスのドアを開け放っていて、部屋は微かに寒い。
空を見上げているダインの方へ歩むと、彼は振り返った。ランスは彼を見つめているが、ダインの視線はランスと合わない。彼はいつも、少し下へ視線を向けるのが癖のようだとランスは感じていた。
「明日も月が見えるが、今日は気温が低くて一番綺麗に見える夜だ」
「明日のことがわかるんですか?」
「ああ。俺は六日ほど先まで天気を見られる。空を見つめると、雲や太陽、星や月が次々巡るように見える。だから父も出来損ないの俺を手放さない。雪国で天気を知る事は貴重だからだ」
「出来損ないだなんて……クラウス様は、ダイン様は聡明で頼りになると仰っていました」
「兄は優しさと不真面目が半々で出来たような男だからな。適当なことを言う。それでも人の上に立つ才は天から授かったと言える素晴らしい兄だ」
ランスはお互いを認め、褒める事のできる兄弟に小さく笑った。国が良くなるのも、悪くなるのも王次第だが、次の王に期待が膨らむ。
王の事を思い出し、ランスは温かい気持ちが少し冷えるのを感じた。
人を避けていたダインと少しずつ距離を縮めるランスに、王から命令が届いたのだ。
『ダインと床を共にし、不安を取り除け。ジェリドの代わりに、とクラウスが探し出した者がお前だろう』と。王の側近から、ダインは男色で口の軽い女を当てがえばそれが途端に噂になるだろうから、他言せずに……と。
十六のランスには男はもちろん女性との経験も無かった。
ダインの事は好きだが、彼はランスに興味など持っていない。王様の言葉からしても、『ジェリド』と言う存在がダインの想い人。そんな相手を上手く誘う事が出来るだろうか……と震える手を握りしめた。だんだんと頬が熱くなり、唇までも震え始めた。
「っ……」
ランスが声を振り絞るために冷えた空気を吸い込んだ時、下階のバルコニーから声が聞こえた。
「ダインは立ち直れるから!ランスとの関係も良好だ!だから無理矢理社交パーティに連れ出すのは早いって!」
「いつまでも籠もっていられては、妙な噂が立ちかねませぬ。ダメな第二王子と言われてみろ。王様は落胆されますぞ」
クラウスの声は怒りのような、悲しみのような、ダインを気遣うような様々な感情が混じっているようにふたりは感じた。
相手は王の側近らしい。クラウスが強く反抗している事は分かる。
ダインはランスの肩を抱き、バルコニーから離れて部屋へ入った。パタンとガラス扉を閉めると、ダインは微かに眉を寄せた。
「ランス。すまない……キミは色々言われて大変だろう。部屋に戻って休んでくれ」
「っ……ダッ……ダイン様!僕を好きにしていただいて構いません!経験は、無いですけど……なんでも……やります!」
突然のランスの言葉に、ダインは微かに目を大きくした。目の前のランスは、着ていたローブを震える手で微かに脱ぎ、中には何も着ていなかった。慌てて脱ごうとする手に触れて、それを止める。
ランスは俯き、青い顔で震えていた。
「……兄上がランスにそんな事、させると思えない。父上に言われたのか?」
いつもと変わらない、感情の読めないダインの声が怖くて、ランスは答えられずに息を吸い込んでは飲み込んだ。
「父上は最低だな。すまない。ランスはそんな事をする必要はない」
「いいんです!僕は……ダイン様が好きですから……その、誰かの代わりなんですよね……ジェリド……さま?」
「ーーー!?」
『ジェリド』
その名前がランスの口から零れ落ちた途端、ダインの表情は普段以上に固まり、冷えた空気を纏った。
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