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小石と耳飾り4
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*
雪が積もって、晴れて、キラキラしている中にいてもジェリドはいつも輝いていた。
ファーデル王国では珍しい金髪で、光が反射して透けるように輝いていた。肩にかかる髪を緩く後ろで結っていて、尻尾のようだどダインはその後ろ姿をいつも見ていた。
副執事長の子供で、ダインと同じ年。自然と仲良く、共に成長した。いつも隣で。
ダインとジェリドが十六歳になった頃、それは自然と訪れた。お互いに惹かれあっていて、同じ気持ちだと分かったのだ。隠していても、二人にとって二人の時間が何よりも楽しく、甘く、幸せで、気付けばお互いの唇が触れ合っていた。
手を握り、触れるだけ。
たった一度の口づけ。温かく、照れ臭く、満たされる感覚。
それが過ちだと、ふたりは思わなかったが、誰かに見られていた事は失敗だった。噂は広まった。城に。王に伝わった。
*
「ダイン。ジェリドを殺せ。お前を男色に染めようとした。なんと罪深い」
執事室の一室にダインとジェリドは呼び出された。王と側近に。
そして投げ付けられた王の言葉と、握らされた短剣にダインは身体が震え、心が冷えるように感じた。
すぐに拒否したダインに、王の視線は冷たく刺さった。汚いものを見る、そんな眼差しだった。
ジェリドは何も言えず、ただ俯いて拳を握り締めていた。
「ダイン様、ご自分の罪を裁き、改めるのです。ジェリド、どうしてダイン様をたぶらかした?第二王子と知っていて、なぜ?はぁ……お前の両親は長く城に仕えておるな。大切に思うなら……分かるだろう?揃って責任を取らせてもいいのだが……処刑するとなると新たに雇う人間を探さねば……」
王の側近の、含みのある言い方にジェリドは顔を上げた。信じられない……と眉を寄せ、唇を噛み締めた。
「父上……!処刑?!ふざけた事を……!」
「ダイン様……申し訳……ございません……」
ダインが王に反抗の意思を示したとき、ジェリドはダインに飛び付いた。
驚いたダインの手の短剣を奪い取り、自身の腹へ何度も何度も突き刺す。
声にならない悲鳴を上げ、ダインはその手を掴んだ。血塗れの、ジェリドの手から短剣を奪い、滑らせるように捨てた。
ダインは慌てて、腹から、口から血を溢れさせるジェリドを抱く。微かにジェリドから漏れる、自分の名を呼ぶ掠れた声に涙が溢れ出した。
「ダイ……ン、ごめ……かはっ……!ッダ、イ……ン……」
「父上!!早く医者を呼んでください!!!お願いです!!」
側近は血生臭さに口と鼻を隠すようにして背を向けた。
王は立ち上がり、腰に携えていた剣を抜くとジェリドを足裏で蹴り付けた。
ダインも一緒に絨毯へ倒れた。腕から離れたジェリドへ手を伸ばしたが、顔へ生温かい液体を浴びて固まった。
王がジェリドの首を斬り落としていた。
「助からぬ。楽にしてやったのだ。お前は男色を治せ。出来損ないが」
ダインは体液に塗れながら大切な存在を抱き寄せ、父親を睨み付けた。息がうまく出来ず、自分が泣いている事に気づいたのは少し後の事だった。
温かいローブと、絨毯を濡らすジェリドの血液が、ダインの身体を冷やした。
体内の奥から氷が広がるように、全身から指先まで冷たくなり、自分の心が冷えるのを感じた。
父親に反抗した罰として、ジェリドの遺体に首は無いまま、ひっそりと葬儀が行われる事となった。
*
「……あの日から、俺は人の顔が判別出来ない。モヤがかかっていて、見えないんだ。……本当に出来損ないになってしまった。ランスがジェリドに似ているから連れてこられたのだとしても、俺には分からないんだ」
「……そんな、ひどい……」
ダインは人に打ち明けたくない過去をすらすら言葉にした。それはランスの為だと思っていたが、話してみれば心が幾分か動いたような感覚がした。ずっと、しまい込んでいた忘れられない過去。
ランスは眉を寄せ、微かに涙を浮かべてダインを見つめた。彼は相変わらず少し俯いている。それは相手の顔が見えない所為で、視線を合わせられないのだと分かった。
「こんな話をして、悪いと思っている。だが、父上に夜伽を言いつけられ、ジェリドの代わりなどと言われたランスには真実を言わねばならないと思った。過去が原因で……役立たずの俺は、父上にとってお荷物なのだ。……兄上には俺から話す。城を出て構わない。出来る限り、金銭的にも援助しよう」
ダインは踵を返してクローゼットから暖かいコートとファーの首巻きを出してランスへ掛けた。
「ダイン様、待ってください!」
15センチは差のある身長のふたり。ダインのコートはランスには引きずる長さだった。けれどコートと襟巻きを整えるダインの優しさをランスはひしひしと感じ、その手に触れた。
たかが猟師の息子に、知られてはいけない事を教えてくれた。『誰かの代わり』などを求めないダインの誠実さと心の温かさを思い知らされた。初めて会ったあの日の、あの赤い頬の笑顔のような。
ランスは視線の合わないダインに一歩近づき、顔を近づけた。
「僕はダイン様のお役に立ちたいです」
『ここに居させて下さい』とハッキリとしたランスの声が部屋に響いた。
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