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感情
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…
……
…………
夢を見た。
違う、夢じゃない。
あれは、紛れもない俺の過去だ。
懐かしくて、夢から出たくなくて、必死にもがいてもやっぱりいつもみたいにあいつは俺を置いてった。
残るのはやるせなさと後悔だけ。
目を覚ました後もまだ気持ち悪い。
変に背中を伝う汗と、火照ったからだに反して感じる寒気。
全部全部気持ち悪い。
さらにそれを気持ち悪いって思うから尚更気になって仕方ない。
「おはよ」
突然俺の思考を切るように澄んだ声が響く。
この声……聞き慣れてるけど……誰だっけ。
ゆっくりと回る思考回路で声の主を探していると、俺の視界にふと猫目の男が写った。
「あ……そうだ、冴木、、、」
「お、起きた」
「ん、、」
声の主とその男が一致したところで、ぐっと腕に力を入れて起き上がろうとするにも力が入らなくて冴木にぽんっと押されて布団に戻される。
「アホ、あんま無理に動くなや。まだ熱下がってへん」
「また……熱……?なんで……」
俺があまりにも素っ頓狂な声を出したからか、神妙な顔つきだった冴木が口をふくらませたかと思うと、馬鹿みたいに吹き出して笑いだした。
「アッハハハ!!ほんとアホやなお前。ぶっ倒れてまで自覚ないんかい!無理しすぎたんだよ!38度から下がんないんだから熱が下がるまで俺がよぉ面倒見たる!!」
「うるさい…そんなのいらない……早く出てけ」
「それはできんなぁ。言ったやろ?38度も熱あんねん。一人でどうこうできる体調やない」
「いいから、、」
クラクラとする頭をぐっと抑えながらなんとか起き上がり、冴木を追い出す算段を立てる。
こんな弱い姿を見られちゃたまったもんじゃない。
運んでくれて介抱してくれた事は感謝するが俺らの関係はそこまでで、決してそれ以上を超えることは無いのだ。
はやく関係に区切りをつけなきゃ、あの夢の続きのようになってしまう。
そこで俺はハッとする。
「あれ……?」
「蒼李?どうしたん」
夢の続き……?
なんの夢を見ていた?
誰と何をしていた夢だ……?
確かに忘れちゃいけないものだった気がするのに……。
頭に霞がかかったように思い出せない。
「……っ、、はっ、なんでっ」
「蒼李?」
考えれば考えるほど痛む頭と霞む視界。
ちがう、ちゃんと考えれば思い出せるはず。
「忘れちゃ、ダメなのに…」
思い出さなきゃ行けないはずなのに、誰かが蓋をする。
だめだ、ダメだダメだ。
「あーおー「ねぇ!!夢ってどうやったら思い出せる!?忘れちゃいけない何かなのに、思い出せないんだ!」
重い体を動かして、ベットの縁に座っていた冴木に縋りついて必死に聞き出す。
今まで出したことの無い大きな声に冴木は少しびっくりしたが、そんなのお構い無しに俺は冴木の胸元にしがみついた。
「さっきまでちゃんと見てたんだよ。だけど、頭にモヤがかかったみたいに見えなくなって…!!」
「蒼李、」
「ねぇ、なんでなんも言ってくれないの!?お願い、お願いだから、、」
「……っ」
なのに冴木はいつものおちゃらけた顔など一切見せず、俺を悲しそうな目で見るだけ。
なんで、なんでそんな顔するんだよ。
「ねぇ、教えてよ。おねがい、お願いだから」
体のしんどさと荒れた精神状態から来る涙をボロボロと流しながら冴木に訴える。
でも、どれだけ催促しても、冴木はその唇を開けることはなく、逆に優しく包み込まれた。
「なん、で…」
「蒼李。大丈夫。大丈夫だから。」
ぐっと冴木が近づいてきたと思うと優しく後ろに手を回されて、だきしめられた。
あぁ、急に抱きつかれたのに、なんでこんな安心するんだろう。
俺を駆り立てていた不安と焦りもぱっと消えてしまった。
「あ……ごめ、なさい、」
「……何をそんなに蒼李を縛り付けてるん?」
「それ、すらも…わかんない。大事な記憶が消えてるのは確かなのに……たまに記憶の欠片を夢で見てる感じがして……」
「……なぁ、人間はな、大切な記憶さえも消すことがある。どれだけ大切でも、自分を守るために消すんや。」
珍しく低い声で冴木が口を開く。
「ど、ゆ……」
「蒼李。思い出したらあかん。それは過去の自分が必要だったからしたことや。もう、縛られんでええ」
「なんでそんなこと急に、、」
「俺なりの優しさや。いつもカクテル作って貰ってるからな」
ぱっと冴木の大きな体が離れて、優しく、安心させるように微笑まれる。
いつもの冴木とのギャップ。
本気で俺を心配してくれたのだろう。
冴木の言葉が脳に響いて、俺の真っ暗だった心に一筋の光がさした。
なんで過去の記憶のない俺は捨てられていたのか。
なんで俺は生きているのか。
なんで知らない過去に縛られているのか。
すこしだけ、解決の糸口が見えた気がする。
こんなの、はじめてだ。
「冴木、ありがとう」
「え!?!?!?」
「なんだよ、そんなに嫌だったかよ」
冴木のちょっとオーバーなリアクションにイラッとする。
「そ、、じゃなくて」
「ん?」
「…蒼李からハグなんて、照れるなぁ」
「…!いや、これはちが!!!」
つい勢いでハグしてしまっていた。
「いや、間違いやない!!これが蒼李のキモチなんやなぁ!よぉくわかった!!」
「ちがうちがうちがうちがうちがう!!!!」
ぱっと離れようとするが、今度は冴木に抱きしめられて身動きが取れなくなる。
途端に冴木の目の色が変わり、俺は察した。
逃げられない。
「今夜はぎゅーしてねようなぁ!!!!」
「うわぁあああ!!!!!!しいなさぁああん!!!!!!」
38度を超えたであろう俺のからだは、その断末魔を最後に、ぱたりと意識を手放した。
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