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日常
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椎名side
今日は珍しくBARが大盛況だった。
いつもなら仕事の合間に蒼李の晩御飯を作ってやれているのだが、そんなことも出来ずにあっという間に閉店時間になってしまっていた。
ここ最近、蒼李が倒れたばかりだからしっかりご飯はたべてもらいたいんだけど、そんな願いも虚しく。
何とか片付けを終えてBARの裏手から続く階段を上る。
僕が持つお店は、家と一体になっていてBARの業界からすれば少し珍しいお店だ。
3階建て木造建築の一軒家で、1階がBAR、2・3階が自宅となっている。
階段を登れば2階と3階別々に繋がる玄関があって、2階は事務所だった所を、蒼李が来てからは蒼李の部屋、3階を僕の部屋として使うようになった。
「あれ?」
蒼李は僕より先に上がったはずなのに、2階の電気がついてない。
玄関の真横にある窓から漏れる光がないのだ。
……寝てる…?のかな。
まあ、色々と忙しかったからね。
この前の熱の件もあって心配ではあるけど…。
一応今日は元気にやっていてくれてたし。
なんなら、少しだけ表情が明るくなった気もするし。
「おやすみ、蒼李」
蒼李が奏叶君と話すようになってから、蒼李の表情は一段と増えた。前までは僕にしか口を開くことが出来なかったのに。
ちょっと妬けちゃうなぁ。
そんなことを思いながら3階の玄関を開けると、ぱっと明るい廊下が俺を迎えた。
「あれ?消し忘れたかな」
あ、リビングもついてんじゃん。
廊下から真っ直ぐ奥にあるリビングの扉の隙間からも光が漏れている。
すると、そのリビングの扉がゆっくり開いて、顔だけひょこっと出した蒼李が現れた。
長めの前髪をパッチンピンで上で留めて、Tシャツにラフなズボンと完璧オフな姿だ。
「椎名さんおかえり。お邪魔してます、」
「ふふっ、ただいま。」
あまりの可愛さに靴も揃えずリビングへと向かう。
僕の方が身長が高いからか、上目遣いで僕のことを見る蒼李。前髪を上げてるせいもあって余計幼く見えてしまう。
BARや奏叶君がいる所ではこんな顔しないのに。
自分だけ、という特別感にちょっぴり嬉しくなる。
「お腹すいたから、椎名さんのご飯食べに来ました、」
「そっかそっか」
「椎名さんは、お腹すいてないですか?」
「ううん、かなりペコペコだよ。一緒にご飯食べよっか」
軽く微笑みながら頭を撫でると蒼李は緊張が解けたように頬を弛めた。
「椎名さんのご飯、美味しいからいっぱい食べたい」
「ふふっ、そんなこと言われたら頑張っちゃうなぁ。リクエストはなぁに?今日は凄い頑張ってくれてたからなんでも作っちゃうよ」
僕が聞くと、蒼李は少し困ったように唸った。そして、ぱっと顔が明るくなったかと思うと目をキラキラさせながら言った。
「パスタ食べたい」
「りょーかい。作ってる間にお風呂入ってきちゃいな」
「ん、ありがとう」
こんなに感情が表に出るようになったのもここ1年と最近だ。どんなシステムかは分からないが、僕が頭を撫でると蒼李は堅苦しい敬語から高校生らしい口調に戻る。
蒼李本人、気づいていないし逆に言ったら敬語から離れなくなりそうだから秘密にしているけど、いつも自然なタイミングを見計らって隙あらば頭を撫でている。
早く敬語から卒業できる日が来ないかな。
そんな淡い期待を持ちながら早速パスタの準備を始めた。
パスタなんて珍しい。どちらかと言えば和食派のあの子が洋食を注文するなんて。
こんな深夜にパスタなんて昔のことを思い出してしまってクスッと思いだし笑いが込み上げた。
蒼李を拾ったのは2年前。
北風が吹き始める冬の始まり、11月。
その時は蒼李は高校2年生で、そして、僕は僕の"妻"が他界してどん底に落ちている時だった。
妻が他界したのは、どんな家庭にしようだとか、子供は何人欲しいだとか、これからの潰えない未来に明るい希望を持って進んでいる真っ最中だった。
儚く、あっという間に散ってしまった妻。
儚い命への当てようもない苛立ちと、もう二度と会えない妻への寂しさ。
そして、この世の惨さにどうしようもない感情がずっとグルグルと心の中で渦巻いて、毎晩寝付けず、BARも開かず街をフラフラと歩いていた時だった。
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