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義愛
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「あれ、蒼李まだ起きてたの?」
僕がお風呂から上がっているにとっくに寝ているものだと思っていた蒼李は、リビングでテレビを見ていた。と言っても3時を回った今は、短いニュースが連続的に流れるだけで、面白いバラエティなども既に終わってしまっている。
「うん、これ、見たら寝るから…椎名さん先に寝ていいよ」
「どーしたの、何か気になるニュースでもあった?」
「んん、これ、見たいだけ」
これを見たい、と頑なに動かない割には頭は船を漕いだようにゆらゆらと揺れている。いつもはこんなになるまで起きてないのに。
「さては深夜のエッチなテレビ見るためだな!」
「んん、ちがう、ちがうの」
いつもの綺麗なツッコミは帰ってこず、その代わり眠たそうな声で一生懸命否定してきた。
「うそつかなくていいよ、そういうお年頃だもんね〜」
「んーん、、ちがうってば」
ふるふると頭を振りながらうるうるした瞳で僕のことを見る。あくびで溜まった涙だろう。もはや半泣きの顔だ。いつもはクールでツッコミの早い蒼李が、僕の前では無防備にこんな姿をさらけだしているのに幸福感を覚える。
最初は警戒と疑心しか無かった蒼李は、今じゃこんなにも優しく、頼ってくれているようになった。
でも、それは蒼李の無自覚なところでの話であって、未だに蒼李自身が自覚している時に甘える行動はぎこちなさが残る。
今もそうだ。
夢が怖くて寝たくないからこうしてつまらないテレビを見ていることはとっくに分かっていた。
けど、蒼李自身の口からは今こうしている理由など話してくれない。僕に遠慮しているのだろう。
甘えて欲しくて少しからかってみたが一向に言う気配はないし…。今日もダメかな。
蒼李の口から甘える言葉や頼る言葉を聞けるのはまだ先かな。
テレビを消して、驚く蒼李をすぐさま横抱きにする。
モコモコのパジャマに反して、蒼李の体はすっかり冷えきっていた。このままじゃ熱を出すのも時間の問題だ。
大事な学生時代をあんな形で終わらせてしまった蒼李には、免疫力が鍛えることが出来なかったせいか体が冷えるだけでも簡単に熱が出てしまうのだ。
「わ、、降ろしてよ」
「だーめ、夜更かしはこれまで!もう寝るよ」
「や、やだやだ!まだ起きる!」
寝る、という単語に反応して僕の腕の中で足をじたばたとさせる蒼李。
だが眠気でなんの力も入ってない体でそんなことされても、無駄な抵抗でしか無い。
「大丈夫、何も怖くない。僕がいるから」
いつもよりも少し落ち着いた声と優しいトーンで話しかける。傷つけないよう、やさしく、ゆっくりと。
「え…?」
「今日は久しぶりに一緒に寝よっか」
微笑みながら言うと、不安がってた蒼李の顔がすこしだけ明るくなる。ほらやっぱり。テレビを見たいんじゃなくて寝ることが怖かったのだろう。
「し、なさん、いて、くれる の?」
「うん、だから大丈夫」
「あさ、まで…ちゃん、と…?」
「うん。朝まで一緒にいるから。ね?」
そういうと蒼李はうん、と短く頷いて僕の胸元に頭を預けて開いているのかすら分からない瞳は、完璧に閉じてしまった。
よっぽど眠かったんだろう。
寝室へたどり着き、起きないようにそっと降ろす。
「ん、、しぃ、なさん……や、」
少し手が離れただけで直ぐに起きてしまい、僕を探し出す。モコモコの黒い動物モチーフのパジャマのおかげか、まるで小動物のようだ。
また蒼李が気づく前にそっと隣に横になる。
「大丈夫大丈夫、離れないからね」
蒼李の腰あたりを優しくトントンしながら軽く毛布と布団をかける。
「ん…ね、もっと…」
「ん?」
すると、蒼李の手が僕の方に伸びて、僕の腰をがっちりとホールドされてしまった。
胸元にちょうど頭が来て蒼李がすっぽりと収まるような形だ。
「…ダメ?」
そして上目遣いで聞いてきた。
「…それ、奏叶君にやっちゃダメだよ…?てか他の人にやっちゃダメだよ?」
長いまつ毛に囲まれた藍色のうるうるした瞳が僕を見つめた瞬間、ぎゅんっと心臓が締め付けられたのだ。
壊滅的な可愛さだ。
中性的で整った顔のおかげで男の僕ですらぐっと心が持ってかれるほどにその姿は可愛かった。
でも当の本人は無防備で無自覚だからタチが悪い。
バーでも無自覚な仕草でお客を虜にしてしまうことは日常茶飯事だったが実際僕もやられるとかなりくるものがある。
一瞬にして体が熱くなった僕を他所に、蒼李はスースーと寝息を立てて安眠の世界へ旅立ってしまっていた。
少し反抗期の交じったこの年で、ここまで大人に懐けるのはそうそうない事だ。僕が蒼李に教えたのは人として生きるのに必要なことだけ。それも確かに教えたつもりでも、蒼李が完璧に吸収してるとは限らない。なのにここまで一人の人間として成長してくれた。
そして、豊かな個性もメキメキと芽を出している。
でも、一人の人間として生きていけるようになったとき、はたまた蒼李が全てを思い出した時、蒼李はどうなってしまうのだろうか。
今こうしてくっついていることが出来なくなる?
自分の元を離れる?
離れたあと、こんな可愛い蒼李は誰かに襲われちゃうんじゃないのか?
少しずつ、でも確実に成長していく蒼李にどこか寂しさを覚えてしまう。
ずっと、ずっとこのままでいて欲しい。
僕の元を大切な人が離れてしまうなんて、もう嫌なんだ。
いつの間にか強く強く蒼李を抱きしめていた腕をとくことも無く、ただひたすら蒼李が離れないようにたとさらに強く抱きしめる。
「ごめんね、蒼李」
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