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(嘔吐表現が含まれます)
「うぇっ…ゲホッ、オエッ…!!!!」
トイレに入った瞬間、込み上げてきてたものが遂に口から吐き出された。と言っても胃の中は既に空っぽで、胃液しか出てこない。
ツンと鼻の奥を刺激して、尚且つ喉を焦がすように通る胃液が不快で、涙が自然と溢れてきた。
こんなに体がスッキリした日は久々だったのに、結局こうなる。
神様が俺に不幸になれ、とでも言っているかのようだ。
「ゲホッ、う……し、、な…ざん、ぃな、さん、ヒグッ…」
何とか出せる声で呼ぶも、その声は虚しくも消えていき誰にも聞こえることは無い。
なんであの時椎名さんに助けを求め無かったのか。
なんでわざわざ客用のトイレに篭ってしまったのか。
もう頭の中がグチャグチャなのに、自分の気持ちと真逆に行動してしまった自分にまたしても頭の中をかき混ぜられる。
どう、しよ…このままあの男が追ってきたら、こんなトイレじゃ逃げられるわけが無い。
お客さん用のトイレは入って左手に洗面所と壁一面の鏡があって、トイレは入口正面奥に個室としてある形だ。窓は換気用の人の頭がやっと通れる程度のものしかない。
つまり、トイレの入口を塞がれちゃ、俺はもう逃げられないという訳だ。
鍵…かけなきゃ、
入口の鍵も閉めてなきゃ、個室の鍵も閉めてない。
こんな無防備な姿じゃ、あの男にやられてしまう。
せめて、この個室の鍵だけでも。
座り込んでいた体をずるっと起こして、やっとの思いで扉を閉めようとする。
ガンッ!!!!!
が、あと少しと既のところで扉の隙間に手を入れられ、閉めることを阻止されてしまった。
咄嗟にあの男しか居ないと思った。
頭の中で分かっていても、力の入らなくなった体は扉を締め切ることが出来ない。
バクバクと心臓が鳴って、額や背中にじわっと冷や汗が滲む。
「…っ、や、やだ!!!! 」
「蒼李!蒼李、落ち着いて。僕だよ、」
「え…?」
ふと響く、優しくて全てを包み込んでくれるような声。
そっと扉を向こうを除くと、椎名さんが心配顔でこちらを見ていた。どうやら扉の隙間の手も椎名さんだったらしく、咄嗟に俺は扉を占める力を弱めた。
椎名さんの綺麗な指を、ドアに挟めるところだった。
「あ、ごめ…ヒュッ、、なさ「蒼李、落ち着いて。深呼吸しよう」
椎名さんはそう言って扉を開けて、俺の両手を優しく握ってきた。
「僕に合わせてね。ゆっくり吐いて」
「ヒグッ…ヒュッ、、はぁ…」
「そ、上手だね。じゃあゆっくり吸って」
「…すー、、」
椎名さんの聞き慣れた声に合わせて深呼吸を繰り返す。繋いだ手から椎名さんの脈や温もりが伝わってきて、荒れていた呼吸も、パニック状態の思考もゆっくりと落ち着いていく。
「上手に出来たね。口ゆすいじゃお」
呼吸がだいぶ落ち着くと、椎名さんは、謝んなくていいよ、と優しく微笑んで水の入った紙コップを渡してくれた。
どこまでも優しい椎名さんにじんわりと心があたためられてゆく。
俺は1口分だけ水を含んで、口の中に広がる胃酸と一緒に水を吐き出した。その間も椎名さんは優しく俺の背中をさすってくれていた。
「ゆっくりでいいからさ、何があったか話して?」
椎名さんは、いつもよりも少し険しい困り眉で俺を覗いてきた。
「…お客、さんに、へ、んな、目で…見られて」
「うん」
「や、ヤラせて、くれ…て、」
「うん」
「ぉれ、ヒグッ…そ、そな目で、グズッ、、みられ…てなんて、やだ、た…」
「そっかそっか。気づけなくてごめんね、」
「…ヒグッ、、グズッ…し、、なさ…」
頭をポンポンと撫でられて堰を切ったようにボロボロと涙が溢れた。もう19で尚且つ男なのに、人前でこんなにぼろぼろ泣いちゃうのが情けない。
「大丈夫、だから泣かないで」
そう言って椎名さんはそっと俺を抱きしめてくれた。
ほんのり香る柔軟剤の匂いと、甘いお酒の匂いが鼻をくすぐって、安心感が倍増する。
椎名さんになんでこんなにも安心するのかは分からない。
きっと、拾ってもらった時から変わらない香りとどんな時でも俺を邪険にしない椎名さんに、いつの間にか絶対的信頼と安心を持っていたのだろう。
さっきまでの気持ち悪さもぱっと消えて今はグンっと引っ張られるような眠気に襲われていた。
「…い?あ、、い?」
もうダメだ、堕ちる。
そう思った頃には遅くて。
ごめん椎名さん、また迷惑かけちゃうよ。
心の中で謝ると、途切れ途切れだった意識がぷっつりと切れた。
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