アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
プロローグー最悪な寝起きと総菜屋-
-
……何か香ばしい良い匂いがする。ジュウという涎が出る油の音に、俺は鼻を犬のようにピクピクと動かす。
クンクンと匂いを嗅いでみると、社会人になって何年も嗅ぐ事のなかった、焼きたてのパンの香りとベーコンの焼ける匂いに俺は頬を緩ませる。
トントンとまな板を叩く音も心地よく、幸せな気持ちに包まれる。どうやら、誰かがをご飯を作ってくれているらしい。
こんな心地の良いなんて……俺は夢でも見ているのか? それとも実家に帰ってたっけか……いや……それは無いな。
ご飯如きで大げさだと言われるかも知れないが、悲しい事に社会人になってから人にご飯を作って貰うなんて事、一度も経験していない。
彼女も生まれてから一度も出来た事が無いせいで、帰る度にしつこくお見合いを勧められ、それを一々断るのが億劫でもう何年も実家に帰っていないのだから当然なんだが。
これが、実家に帰省していたとか夢オチとかでは無く、……例えば、例えば女性がキッチンで料理を作ってくれてるなんて事があるのならば、俺は泣いて神様に感謝しよう。
どんな女性なのかと想像しながら鼻を伸ばし、サラサラと肌触りのいいシーツのような物に軽く頬を擦りつける。その触り心地が、出張で一度だけ泊まった高級ホテルのベッドシーツに良く似ていて心地が良い。
口角を上げ頬擦りをしながら離れ難くてシーツを手繰り寄せる。なんて快適なんだと多幸感に包まれながら、身動きを取ろうとした瞬間――腰と尻にビリビリと激痛が走り、俺は勢いよく飛び起きた。
「……いってぇ!!」
思い切り叫んだ後、目の前に飛び込んできた掛け布団であろう物に、顔を埋めながら腰に手を当てる。
当然襲ってきた腰痛と尻の痛みに、俺はハクハクと悶える。何故、腰と尻が痛いんだという疑問や考えは、痛みで全てぶっ飛び、俺は掛け布団を握りしめる事しか出来ない。
他人に絶対に見られたくない体勢で目尻に涙を浮かべていると、ガチャリとドアが開く音と共に誰かが入ってきた。
目の前で止まった気配に、腰に手を当てながらゆっくりと顔を上げると、其処に居たのは、俺がここ最近通っている“総菜屋の店主”だった。
「は……? な……んで……」
「おはようございます。叫び声が聞こえたんですけど大丈夫ですか?」
余りにも予想外の人物に思考が付いていかず、ただ間抜けな表情を晒しながら総菜屋を見つめる事しか出来ない。
人は余りにも予想外な事が起きると、動けなくなるって話を思い出し、本当なんだなと他人事のように思いながら、明るい茶髪を揺らし、花が周りに咲きそうな程に爽やかな微笑みを浮かべ総菜屋と見つめ合う。
奇妙な空間に、俺は唾を飲み込み目を逸らすよりも先に、総菜屋がベッドに腰かけ、俺を抱き寄せると耳元で「腰……痛みますか?」と、いい声で囁いてきた。
ゾクゾクという感覚が背筋に走り、体を震わせてしまう。知るはずの無い快感に俺は、総菜屋の胸を押して離れようとするが、腰の痛みのせいで手に力が入らなかった。
俺の抵抗は、総菜屋にとって痛くも痒くもないのか、フッと口に手を寄せて一笑すると、まるで愛しい者にでも触れるように優しく俺の髪をくしゃっと掻き撫でた。
なんだ、なんで、野郎の髪の毛に触れるんだ。一体何なんだ。この状況……と混乱しながら、総菜屋を突き飛ばそうと構えると、総菜屋がまた耳元で囁いた。
「そんなに警戒しないでください。……もしかして覚えていないんですか? 昨日、オレに抱かれた事」
ピタリと俺の動きが止まる。きっと何かの聞き間違いか冗談だろうと、俺はわなわなと震える唇で何とか声を出した。
「だ、抱かれ……冗談……だろ?」
「……昨日。オレに抱かれてあれだけ淫れていたのに、忘れるなんて酷いな」
総菜屋は、にっこりと微笑むと俺の体を舐めるように見た後、「はだか」と囁くと、俺が突き飛ばすよりも先に立ち上がり、楽しそうに部屋を出ていった。
まさかと思いながら自分の体を見下ろすと言われた通り全裸。そして、恐る恐る掛け布団を捲るとこんにちはと俺の息子が顔を出していた。
ギギギと錆びかけたロボットのように部屋を見渡すと其処は見知らぬ部屋。そして、サイドテーブルには俺のスーツと下着。
ゴミ箱に視線を向けると、其処には見たくもない使用済みのコンドームの数々。
誰が見たって、その光景は事後にしか見えない。
ひゅっと短く息を吸い込み、両手で顔を覆うと俺のやり場のない気持ちを吐き出した。
「あ゛あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛!!!!」
今までの人生で出した事がの無い、叫び声を上げたながら、俺は掛け布団を巻き込んでベッドから転げ落ちた。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
1 / 1