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裏庭の薬草園で必要な薬草を採取して、テラスから作業室へと向かう。屋根と壁の一部をガラス張りにした作業室は、照明がなくても十分に明るい。
光を浴びて分解してしまう成分もあるから、全部が全部ここで調薬できる訳でもないけど、手元が明るい中での作業は気分が良い。
「セス殿、これから調薬か?」
屋敷の護衛に声を掛けられ、「ああ」とうなずく。
「この間の二日酔いの薬、よく効いたよ。ありがとう」
「もう飲み過ぎるなよ」
そんな軽口を交わしつつ、護衛とすれ違い廊下を歩く。
この町に流れ着いて以来、今の暮らしは充実してた。調薬の腕も認められ、周りからの扱いもいい。貴族お抱えの薬草師として働く上で、理想的な環境だった。
いつものように調薬をしてると、屋敷の使用人がノックと共に入って来た。
「セス殿、若様がお呼びです」
「待って。ビンに詰めたら終わりだから」
振り向きもせずに答えると「お急ぎを」とせかされる。
「今すぐ来いとの仰せです」
「今すぐ? ジョンが?」
不思議に思って訊き返すと、深々と頭を下げられた。
「瓶詰は私がしておきますので」
「いや……まあいいか」
瓶詰にもコツがあるのだが、どっちみちここで手を止めれば質が落ちるのには変わらない。
オレの調薬は何よりも優先されてたのに、どうしたんだろう。今調合してるのは、オレの故郷でしか製法の知られてない秘薬。女には媚薬、男には精力剤となる薬だが、これがまた高値でよく売れた。
この国でそれを作れる人間は今のところオレだけで、それが一層価値を高め、莫大な利益を生んでるらしい。
勿論この秘薬だけじゃなく、ただの回復薬や睡眠薬、毒薬の類も、オレが調合すれば数段効き目が上になる。それは、秘薬の製法を独自にアレンジして調合するからなのだが、その辺りは誰にも秘密だ。
つまり、オレの作る薬はことごとく高値で売れる訳で、この館の主ジョン……ジョンフェルド=ロン=オーガストにとって重要な資金源のハズだった。
彼の専属になって2年になるが、調合の邪魔されるなんて初めてだ。けどそれも命令なら仕方ない。
居間に向かうと、ジョンフェルドはソファにどっかりと座って、儚げな美貌の女を侍らせていた。
女の細腰を抱く手つきから、既にそういう関係だって何となく分かる。一瞬ハッとしたけど、動揺は見せずに済んだ。
元々、調薬の腕を買われての契約だ。愛人になったのだって、独り身同士が長く一緒にいればそういう事もあるというだけの話で、愛や恋などの甘酸っぱい事情じゃなかった。
体を重ねたって子供ができる訳でもなく。女のようにドレスや宝石をねだることもなかったから、彼にとって都合のいい相手だったんじゃないかと思う。
それに、特別何か約束があった訳でもない。彼は貴族の御曹司で、オレはただの愛人兼薬草師。身分の違いは承知してたし、それ以上の関係なんて望んでもなかった。
いつか彼はそれなりの身分の妻を娶り、本邸で過ごすことになるだろう。薬草園を含む郊外のこの屋敷から足が遠のくかも知れない。そうなったらオレは愛人ではなくお抱えの薬草師に戻り、彼の役に立てればいいと思ってた。
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