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宿題
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1.
カキーンッ
湿気を多く含む憂鬱な空に、軽快な音が鳴り響いた。雨雲を突き刺すかのように、ボールが飛んでいく。このボールの軌道は、宮本だ。
一軍の野球グラウンドを横目にうかがうと、ピッチャーマウンドには不破(ふわ)キャプテンが振り返って空を見上げていた。
「宮本か。不破の球をあれだけ真芯で仕留められるのは、今じゃアイツだけだな」
隣を歩く瀬野尾(せのお)先輩が、ふと感想を述べる。そんな事実は聞きたくない。言われると、気分が落ち込む。天才には、生半可な努力じゃ勝てない。
「あんな高みにいける自信ないな…」
「珍しく弱気だな。大丈夫だよ。お前なら、2年には一軍になれる。まぁまずは、二軍に戻らなきゃならないんだが」
「…ですね」
オレは持っていたグローブを握りしめて、中途半端に笑った。
明日から中間試験週間。今は少し、野球から離れたい気分だったから、ちょうど良かったと溜め息をついた。
・・・・・
「すーみーざーきー!鷲見崎鷲見崎鷲見崎ー!」
ああ、うるさい。
「何回も言わなくても聞こえてる」
今日からテスト週間。朝練もなく、いつもより遅く登校してきたオレに、珍しくオレよりも早く登校していた宮本が話しかけてくる。正直今はあまり関わりたくない。自分の心がトゲついているのが浮き彫りになる。こんなの、宮本には関係ないのに。
肩にかけていたカバンを机に置き、椅子に腰かけると、宮本がオレの顔を覗き込んでくる。
「今日、お前ん家に用がある」
「どういうこと?オレはお前ん家に用事があったことなんて一回もない」
「理科の課題を写さして!マジで!お願い!」
「他あたって」
オレは冷たく言い放ち、宮本からフイと顔を逸らした。その行動に何かを感じ取ったらしく、不機嫌?と聞いてきた。
「生理中?」
「あ、るわけねぇだろ!バカ!」
「他のヤツなんて嫌だ。オレは鷲見崎がいいんだよね」
そう言って、お願いポーズをされる。こんなの反則だ。
歴代初の一年生にして4番バッター。これから3年間、宮本はウチの野球部を引っ張っていくのだろう。そんな凄いヤツが、今、目の前でオレにお願いポーズをしている。優越感めいたものを感じるけど、可愛くはない。
「可愛くはない」
「お前、今脳内で考えてたこと、そのまま言っただろ」
「ははっ、バレた」
「もういいや。とりあえず行くから」
「ダメだって」
「お前に拒否権はない」
「何故」
ウチの親は、単身赴任で週末しか帰ってこない父親と、遅くまでバリバリ働いて夜勤までしている母親で、親が帰ってくるのが遅いのをいいことに、最近宮本は我が家に入り浸っていた。背が高く、意外と男前な顔をしている上、野球界では有名な宮本を、母親は毎回大歓迎する。加えてどこで習ってきたのか、女性の攻略法を宮本はよく分かっている。休みの日に、ちょっといい紅茶やお菓子を持ってきたり。あまり会う機会もないのに、すぐに母親のお気に入りになっていた。
だからだろう。ウチに来る時、宮本は無駄に強気だ。ましてや言い出すと梃子でも動かない性格。言いくるめるのが段々面倒くさくなるオレの性格も知っている様子で、毎度オレが折れてしまう。
「あ、鷲見崎ー」
言い争いをしているオレと宮本に、マネージャーの奈良(なら)がのんびりと近づいてくる。ぽっちゃりとした体型で、いつも笑っているような顔をしている奈良は、何気にウチの野球部の癒やし系だ。
オレと宮本は奈良の方に顔を向ける。
「宮本も。キャプテンが、今日は機械の整備があるから、自主練もしちゃダメだって。特に鷲見崎には伝えとけって言ってたよ」
「は?オレ?」
「アイツは最初から飛ばしすぎだ!今日ぐらい休むよう伝えるように!てさ」
似てもないモノマネを奈良は披露して、にっこりと愛想よく微笑んだ。それを聞いた宮本が、ご自慢の八重歯をチラつかせて、悪魔のような笑みを浮かべる。
「これで逃げる理由なくなったな、鷲見崎くん」
ポンと、オレの肩に手を置く宮本を、奈良は首を傾げて見ていた。ほんと最悪だ。
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