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校内戦
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1.
「鷲見崎」
三軍の部室兼ミーティングルームに、オレンジ色の光が射し込む頃。オレは瀬野尾先輩から名指しで呼ばれた。
野球部切ってのイケメンと評される瀬野尾先輩は、端正な男らしい顔をしていて、背が高く、筋肉のつき方も無駄がなく綺麗だ。サッパリとした分かりやすい性格で、男たちの間でも人気があり、我が学校のイケメンコンテストで2年連続表彰台に上がるほどの実績を誇る、らしい。加えて野球のセンスも高く、校外から度々女子が殺到する。この人にオレは、将来の宮本を皮肉にも見ている。
「なんですか、瀬野尾先輩」
「お願いがある。お前に受けてほしい」
オレに真剣な眼差しを向ける瀬野尾先輩。言いたいことをすぐに理解したオレは、戸惑いを隠せなかった。
「え…そんな、オレ…経験ないですよ?」
「お前がいいと俺は踏んだ。頼む」
これはむしろ、チャンスだと捉えるべきなのかもしれない。新しい自分に変わるための。
「オレでよければ。お願いします」
「よし。それなら今日から…」
「おいこら待て。何の話だ、お前ら」
瀬野尾先輩から一方的に話しかけられていたミーティングで、2年の阿久津(あくつ)先輩からツッコミを入れられた。それを見た周りの先輩たちの口元が、なんとなく弛んでいるように見える。
「毎度毎度2人の世界にしてんじゃねーよ。ここでやるな、他でやれ」
「何を言ってるんだ阿久津は。打倒現二軍のスタメンの話だろ。鷲見崎はコントロールも肩も良いし、洞察力もある。俺のバッテリーに推薦する」
「まごろっこしいんすよ!そういうのは事前に話してまとめといて下さいよ!マジもやつく!」
「貧乏ゆすりをやめろ、阿久津」
「アンタがそうさせてるんすよ!」
よく分からないけど、どうやら阿久津先輩は、何か勘違いをしているようだ。立ち上がろうとした阿久津先輩を、周りのチームメンバーたちが、落ち着け落ち着けと、笑いながら取り押さえている。一気に場が和みだした。
想像だけど、こんな光景は一軍にはなさそうだ。多分、今の二軍にもない。瀬野尾先輩が言っていたが、このチームは団結力重視で、コミュニケーションをとるために敢えて何でも言える環境にしているそうだ。とは言え、こんなアットホームな雰囲気にするのは簡単じゃなかっただろう。見たところ、とても個性豊かな面々だ。
その筆頭が一番バッターセンターの阿久津先輩。ツンツン髪の金髪で、いつも眉間にシワを寄せ、鋭い目つきをしている。口も悪く、耳にはピアスまでしていて、相手に対して敵対心を隠すことなくむき出しにする。まるで格闘技のアスリートのようだ。
だけどこの阿久津先輩も、グラウンドに出れば最高の働きをする。俊足で、ボールが前に転がりさえすれば、必ず塁に出ることが出来る。盗塁もお手の物だ。
「よし。まずは俺と鷲見崎のバッテリーで、阿久津を刺せる(アウトに出来る)ように訓練するとしよう」
「いや待てよ!それってイジメじゃねぇすか!?」
「まーまーまー」「どーどーどー」
同学年からは「あっくん」と呼ばれる阿久津先輩は、度々このように大声をあげて興奮しては、周りから穏やかに取り押さえられている。この光景はすでに見慣れたものになってきた。この人も最初は、尖りまくって手を焼いたんだろう。それが今やみんなから慕われて…なんて、変な妄想をしてしまった。
「冗談はさておき。現二軍とはいえ、実力は全員中学時代のキャプテンレベルに匹敵する。それから成長してきた者たちだ。油断していたら足元をすくわれるぞ。だが、負けてやるわけには絶対にいかない。お前たちを二軍に戻してやりたいからな」
「ヒューヒュー!瀬野尾先輩イケメンー!」
「一生ついていきまっす!!」
「ふっ、当たり前だろ」
「はははっ」
はたから見たら、ふざけているように思われるだろうこのミーティングも、オレたちの中では大きな意味を持つ。野球は楽しく、前向きに。最初は今までのオレの考えだとついていけなかった。だけど誰もが我が野球部の方針、完全勝利を常に掲げて努力していることを知り、オレ自身の思いと変わらない事を知った。この人たちと高みを目指したいと、思えるようになった。
だからだろう。何故かみんな、一軍になりたがらない。一番下っ端のオレくらいだ、一軍になりたい事を公言しているのは。二軍や三軍は監督の支配下から少し外れていて、自由度が高いのも理由の一つのようだ。これはあくまで噂だけど、それが原因で瀬野尾先輩はずっと二軍にいるのだと聞いた。過去に監督と揉め事があったと噂する人もいたけれど、本当の事は分からない。
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