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校内戦
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2.
ここ最近、本気で鷲見崎がオレの相手をしてくれない。三軍の部室の前を通れば、毎日楽しそうなミーティングの声が聞こえてくる。あんなにワーワー言っていていいのかとキャプテンに聞いたら「どのチームにもそれぞれ特色があって…」と語り出したから耳を閉じた。
いつもひとりで黙々としていた自主練も、最近はずーっと瀬野尾先輩がセットになっている。しかも、いつの間にか2人でバッテリーを組んでいて、鷲見崎がショートからキャッチャーに大々的なコンバートをしていた。キャッチャーから内外野になる事はたまにあるけど、内野からキャッチャーへのコンバートなんて、リスクありすぎてこのタイミングでやるか?たしかに鷲見崎の勤勉さとセンスなら、出来なくもないだろうけど。
でも、これで決まりだ。瀬野尾先輩は鷲見崎を狙っている。オレの勘が2人を近づけるなと叫んでいる。
「今の三軍なんなん。朝から晩まで鷲見崎を独占しやがって」
話す機会は授業の間休憩の短い時間とめっきり減り、それすら時々現三軍の連中がやってきて、鷲見崎をかっさらう。昼休憩は当然のように、三軍連中のもとへと消えていく。お前らみんな敵だ。鷲見崎を返せ。
「二軍との校内戦が近いからな。これで二軍が正式に決まって、公式戦のメンバーに入れるかどうか決まるから、気合いが違うんだよ」
「お前だけ、もう一軍に来いよ」
「なに駄々こねてんだよ。ガキか」
「ぐうっ」
なんでコイツはオレに対してこんなにも辛辣なんだ。最近それに磨きがかかっている。三軍連中の前ではニコニコ笑ってるのに。オレは鷲見崎にあんな顔されたことない。
でもよく考えてみたら、これってオレには本音で話してくれてるってことだよな。愛想のいい鷲見崎も本当なんだろうけど、オレにだけ見せる鋭い感じは、本音だと思う。ちょっと悲しいけど、そう考えると嬉しい。オレに対してこんな態度とるのは、鷲見崎だけだ。
「え、なに笑ってんの?」
つい顔が弛んでしまって、鷲見崎に少し引き気味にそう言われた。たしかに今の流れからしたら、オレはちょっとおかしいかも知れない。
「いや。お前くらいだなーっと思って。オレにそうやってズケズケ言ってくるの」
「…え、そう?」
「そーそー」
オレは自分で、野球の上手さは天才的だと自負している。そのせいか、他人を見下したり、挑発したり、煽ったりして、他人から嫌われたり、怖がられたりして距離をおかれる。実力があるから、向かってくる奴や意見を言ってくる奴はほとんどいなくて、いつも上辺だけの対応をされる。さすがにオレも気付いているけど、本当に他人にどう思われようと興味がないから、自分を変える必要がなかった。
高校に入って、自分のレベルとさほど違いのないメンバーと野球が出来るようになって、少しその辺が改善されてきたけど、まだまだ名残りはある。他人はオレを見ているようで、見ていないように話しかける。オレに興味ないなら来ないでいい。オレも興味ないから。
「けど、鷲見崎は分かりやすく、オレにもちゃんと意見言ってくれるから嬉しいよ」
「…なるほどな、だからか」
「なにが?」
「お前に遠慮なく言える理由が、なんか今、少し分かった気がして」
そう言って、鷲見崎が頬を指で掻きながら、顔を歪めて笑った。
「お前だけじゃないから、そういうのは」
「え?鷲見崎も似たことあんの?」
「まぁね。だから友達って呼べるのは、宮本しかいないよ」
そう言って、オレは初めて鷲見崎に笑いかけられた。
ホントにこいつは、天然たらしだわ。
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