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校内戦
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3.
二軍との校内戦は、延長戦までもつれ込む大接戦だった。大差をつけて勝つ気持ちでいた現三軍のオレたちも、相手の鬼気迫る勢いに圧され、ペースを乱されていた。
「すみません。やっぱりオレが足ひっぱってるかもです」
瀬野尾先輩がタイムをもらい、ピッチャーマウンドに集まってきたみんなに、オレは始めの方から感じていた申し訳なさを話した。
「いや。初キャッチャーで鷲見崎はよくやってるっしょ。いい意味で番狂わせだしよ」
「阿久津の言うとおりだ。ちゃんと出来てるから自信を持て」
「は、はいっ」
「向こうの攻撃が終わったら、次の打順はオレだ。ぜってぇ塁に出るから、ここも無失点で切り抜けようや」
11回表。二塁にランナーを置き、残るアウトは2つ。
「鷲見崎。次のバッター、オレは少しインコースを投げる。打たせて取るでいこう」
「はい」
「最後は4番の一宮だ。コイツは厄介だからな、ストライク2つ入ったら、スクリューを投げたい。何がなんでも、取ってくれ」
「わ、分かりました!」
「よっしゃ!行くぜ!!」
阿久津先輩の声かけに、みんなが「おう!」と気合を入れ直す。オレはキャッチャーボックスに戻って腰を下ろし、グラウンドを見渡した。
――ああ、いいな。
みんなが、こっちを向いている。真剣な顔つきで。
ショートのポジションに未練はあるし、初めてのキャッチャーで戸惑いもあるけど、思っていたよりも悪くない。
オレの心を熱くする。やっぱり野球が好きだと、改めて思った。
・・・・・
「瀬野尾先輩、頼みましたよー!」
「一発大きいのいっちゃって下さい!」
11回裏。表を作戦通りキッチリと仕留め、三軍の攻撃。一塁にオレと、三塁に阿久津先輩。アウトは1つ。そして迎えた4番バッターは、ここぞという時の瀬野尾先輩だ。
「まかせろ!お前らの意思を、オレが紡ぐ!」
相変わらずの熱い言葉に、三軍は大盛り上がり。いつの間にか集まっていた校外の生徒たち、主に女子が瀬野尾先輩に声援を送っていた。分かる。この人は、やっぱりかっこいい。
「二軍はおれたちだ」
「いや。その座は返してもらうぞ」
「あんたマジで…気に食わねー!!」
色んな思いを詰めた相手ピッチャーの初球。
カッキーン!
瀬野尾先輩は、見事にそれを、打ち崩した。阿久津先輩とオレは一気に駆け出す。打球はどこまでも遠くへ伸び、スタンドの壁に当たった。
「ちっ、入らんか」
ホームランとまではいかなかったが、伸びた打球は瞬足の阿久津先輩をホームに返すには充分すぎる時間があった。
「ゲームセット!!」
審判を務めた三年のマネージャーさんが、大きな声で締め括る。オレたちは一気に、ホームベースに集まった。
「よくやった!瀬野尾ー!」
「あっくんもお疲れー!」
手荒い歓迎を受け、阿久津先輩は「痛ぇ」と怒り、瀬野尾先輩は笑っていた。
「おめでとう。三軍メンバーを二軍昇格とする」
ふいに現れた監督が、拍手をしながら近づいてきて、瀬野尾先輩の手を取った。
「ありがとうございます」
「高校の野球人生は短い。これからも精一杯励むように。お前たちの高みは常に一軍であることは忘れるなよ」
そう言い、踵を返しグラウンドから去っていった。意外だった。三軍降格の時にあんな冷たく言い放った監督が、あんな風に声をかけてくれるなんて。そう感想をもらすと阿久津先輩が、
「いやいや!嫌味ばりばりだろ!3年の瀬野尾先輩に高校野球の短さを言った上、一軍よりも格下宣言されたようなもんだからよ!オレは監督嫌いだねー!」
と、正直すぎることを言った。それを聞いてオレは苦笑いを浮かべ、たしかに、と曖昧な返事をする。
だけどオレには、監督の言葉に少しの愛情があった気がした。
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