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雨の日
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3.
薄暗い家に帰り、まとわりつく湿気と、嫌な気を流したくてシャワーを浴びた。少しは爽快感を得られるけど、すべてがスッキリと流れるワケがなく、浴室を出た時には疲労感が増していた。髪の毛を拭くのも億劫だ。
キッチンに置かれた母親からの置き手紙に目を通し、そのままリビングのソファに身を投げた。窓に降り注ぐ雨は強さを増し、足音、電気、時計の針の音を奪っていく。わけも分からず、心臓が痛くなる。
――鬱陶しい。
この感じに、覚えがある。最近知った、好きじゃない感覚だ。だけど奈良が言ってたな。こういう時は、いったんどん底まで落ちてみた方がいいと。無責任なこと言いやがって。這い上がれなかったらどうするんだ。
ソファの背もたれの方に顔を埋めて、目を閉じると、自分は独りぼっちだという錯覚をおこす。こんな事は長くは続かない。分かっているけど、どんどん落ちていく。これは、寂しいという底なしの沼。
好きじゃない感覚なのに、不思議と居心地の悪くないそれは、どんどんオレを飲み込んでいく。こういう時はジタバタしない方がいい。落ちていく速度が上がるから。オレはとっぷりと、底へと向かっていく。
最近になってこの感覚を覚えたのには、理由がある。高校生になって、目まぐるしく日々は過ぎていき、誰かといる事が多くなった。人と一緒にいる事に馴れてしまって、それが良いものなんだって知ってしまったからだ。自分が本当は、誰かと一緒にいることを望んでいたんだって、気づいてしまったからだ。
ピロリンッ
傍に置いたスマホの音が、好きじゃない居心地のいい沼からオレをすくい上げる。向きを変えて操作すると、瀬野尾先輩から二軍メンバーへのメッセージが送られてきていた。
『監督より伝令。地区予選の初戦に、二軍数人を起用しようと考えているそうだ。今のところ誰かは伝えられていないが、皆がその気でいるように』
地区予選。断じて忘れていたワケではないけど、もうそんな時期なのか。出来れば1年生の内から経験しておきたいけど、オレの希望ポジションは競争率高い上、鉄壁の八木先輩がいるからな…。いやいや、最初から決めつけたらいけないか。これは一軍へ行くためのチャンスだ。
――精進します、と。
オレが返事をする間に、二軍のみんなから前向きなメッセージが次々と送られる。その中で阿久津先輩だけが「出来れば断りたい」と言っていた。本当にこの人は、監督が嫌いというか、二軍が好きというか。思わず声を出して笑うと、それをまた、雨の音がかき消した。
「…ほんと、鬱陶しい雨。朝まで続くのか?」
オレは立ち上がって窓辺に行き、空を見上げた。雨雲はどこまでも続いていて、隣の町では雷が光っている。まだ真っ暗になるには早いようで、灰色の町が泣いているように見えた。
こんな考えはバカらしい。オレはカーテンを閉め、再びソファに身を任せた。また、沼に落ちていきたい気分になる。
ピロリンッ
だけどそれは許されず、スマホの音にまた邪魔をされる。今度は何かと思って画面を見ると、宮本からのメッセージが届いていた。
『寒い』
いや。知らないから。
『なに、いきなり』
『鷲見崎なにしてる?』
『家にいる』
『じゃぁ開けて』
そこで不審に思った。開けてって何を?
だけどすぐにその言葉の意味は思いつく。宮本が、この家まで来てるってことだ。え、いつから?
オレは片足つっこみかけた沼から身を引くと、すぐに玄関に行き、勢いよく扉を開ける。ゴンッと何かに当たったかと思ったら、聞き覚えのある声が「いった!」と答えた。
「え?なんで?」
宮本だ。
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