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過去
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4.
「鷲見崎に聞きたいことがいくつかある」
ハンバーガーショップを出て、学校への道を歩いていると、宮本が飴を口の中で転がしながら話しかけてくる。まぁ、一応想定内の反応だ。
「なに?」
「尊敬できる先輩、目指すべき目標、頼りになるチームメイトって誰のことだよ」
「え、そこ?」
「オレが入ってなくない?」
「……あ。そうかも」
言われてみれば確かに、その中に宮本は入っていない。尊敬できる先輩は不破キャプテンと瀬野尾先輩のことだし、目指すべき目標は一軍ショートの八木先輩、頼りになるチームメイトは二軍メンバーのことだ。鋭いな、そういうところ。まぁ広く見れば、目指すべき目標に宮本が入っていないことはないけど、メインではない。
「いや、そうかも、じゃねぇよ!この宮本一磨をおいて高校野球が語れるか!」
「自分で言うなよ。お前が上手いことなんて、当然過ぎて例にあげるまでもねんだよ」
「田中大翼は頼りになるチームメイトなのに!?」
「ああ、妬いてんのね…」
「当たり前だろ」
半分冗談のつもりで言ったのに、まさかの返事。もともと感情を隠すヤツでもなかったけど、最近は特に遠慮がない。コイツのこういう、なんでも真っ正面からくる姿勢が、オレは苦手だ。どう返すのが正しいのか、分からなくなる。
オレは熱が上がる頭のクールダウンのため、咳払いを一つした。
「大翼先輩は、宮本がオレにとっての特別だって、気づいてるよ」
「え?」
「だからオレを頼むって言ってきたんだろ?まぁ、恋人とかそういう意味じゃなく、野球仲間としてだろうけど」
「オレって、鷲見崎にとって特別?」
振り向くと、宮本が驚きを通り過ぎたような、変な顔をしていた。それがおかしくて、つい笑ってしまう。
「不本意ながら。じゃなきゃオレの性格上、こんなに一緒にはいない」
「鷲見崎っ…!」
「はいストップ。道端だから」
水咲高に来てから、1番オレが影響を受けたのは、紛れもなく宮本だ。同じ1年で、バッティングは化物みたいに上手くて、だけどそれを鼻にかけずに、オレと目線を合わせてくれる。オレにも手が届くところにいてくれるんだと、そう思わせてくれる。
宮本には、オレにはない才能があって、これからも色んなことを吸収して、もっと上手くなっていくだろう。オレは、そんな宮本とこれ以上実力が離れないように、死に物狂いで練習するしかない。宮本と並んでも、おかしいと思われないために。それは目指すべき目標と言うには、少し違う。
なんてことは、宮本に言ったら調子に乗るだろうから、口が裂けても言わないけど。
『お前さぁ、なんでそんな一生懸命なんだよ』
初めて、まぁそれが初めての会話ではないんだけど、印象に残る初めての会話の切り出しは、宮本のそれだった。グラウンドで二の腕掴まれて睨まれた後、宮本は冷めた人間だと聞いていたから、もう絶対関わってこないだろうと思っていた。だから翌日の教室で、そう話しかけられたのには驚いた。同じくらい、腹も立ったけど。お前には才能ないんだって、バカにされている気になったからだ。練習しても無駄だと。
だけどそれから、何故か執拗にオレに絡んでくるようになった。最初はオレの自主練に、からかいや邪魔をしに来ているのかと思ったら、途中から助言をしてきたり、練習に付き合うようになった。練習も一人じゃ限界があるんだと、オレ自身の意識も変化したように思う。
自他ともに認める性格と口の悪さで、他人から嫌われていたオレに、こんなにも興味を示してきたヤツは、初めてだったかも知れない。
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