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4.
辺りが暗くなった頃に、一軍とレギュラー陣の練習が終わり、鷲見崎が珍しく帰りの準備を急いでいた。
「あれ。鷲見崎帰んの?」
その姿を見た阿久津先輩が、鷲見崎に話しかける。それくらい、自主練をせずに帰ろうとしている鷲見崎は珍しい。
「今日はちょっと用事があって…」
「あそ。気をつけてな」
「はい。じゃぁお先です」
「鷲見崎、あと10秒待って」
オレすら置いていこうとする鷲見崎を呼び止めて、オレは荷物を鞄に詰め込んだ。
「宮本も今日は帰るのか」
「あっくん知らねーの?宮本は鷲見崎がいないと、誰よりも先に帰るヤツだから」
「お前に聞いてねぇんだよ」
「おー、こわー」
「宮本、早く」
「そう焦るなって。よし、帰ろ」
オレは先輩たちの目を盗んで、荷物と鷲見崎の腕を取ると、適当に挨拶をしながら部室の出入り口に向かった。鷲見崎がギョッとしてオレが掴んだ腕を見下ろしたけど、オレはそのまま部室を後にする。
「お前な…」
「なに」
「…いや、もういいや。帰ろう」
気が焦っている鷲見崎は、オレに文句を言いかけて止めると、逆にオレの腕を引いて先を急いだ。グイグイ引っ張る鷲見崎の態度は、恋人のそれじゃない。だからこそ、こんなに一緒にいてバレないわけだけど、ちょっと悲しい。
「キャプテンたちと何話してたんだ?」
部室を出て少し歩いた後、鷲見崎に腕を引かれながら、オレはレギュラー発表の時のことを思い出していた。細かく説明しなくても、鷲見崎はどの場面のことか予想がついたらしく、あぁ、と思い出したように声を漏らした。
「本当は、オレでいいのかって聞きに行くつもりだった」
「律儀だねぇ」
「キャッチャーとしての経験浅いし、他にもバッテリー組めそうな先輩いるだろ」
「それな。オレも思った。まぁオレが考えてたことは、鷲見崎ほど深刻じゃないけど」
「どういうこと?」
「ナイショ」
鷲見崎が怪訝そうに首を傾げる。可愛い。
「で?」
「あぁ、それで…。キャプテンから先に、頼んだぞって言われちゃって。もう、返事するしかないよな」
「たしかに」
「不安と嬉しさでごちゃごちゃしちゃって。戸惑ってたら木庭先輩と瀬野尾先輩が助言してくれた」
「出たー…」
「気づいたら3年生に囲まれてて恐縮しちゃったけど」
「それはウケる」
オレが嫌味も込めて笑うと、鷲見崎が楽しそうに笑った。
そろそろ頃合いかと判断して、オレは鷲見崎の手をとって指を絡める。一瞬驚いたような反応をしながらも、軽くオレの手を握り返してきた。鷲見崎の耳が少し紅くなってるのに気づいて、口元が緩んでしまう。
鷲見崎の家に着くと、母親の車は駐車場にはなく、どうやらまだ帰宅していないようだ。鷲見崎はどういう感情か ため息をついて、家の鍵とドアを開ける。
「もう帰ってるかと思ったけど…」
「…まぁいいじゃん。ゆっくり心の準備すれば」
「そうだな。また連絡する」
「ん」
オレはそう返事をして、真っ暗な玄関まで一緒に入ると、鷲見崎の腰を引き寄せてキスをした。オレからの愛情表現には少し慣れた様子で、鷲見崎がちゃんとオレに向き合う。オレは角度を変えて、何度か鷲見崎と口づけを交わした。
「…はぁ」
鷲見崎の艶のある吐息に感情が昂ぶる。ほぼ無意識に、オレは鷲見崎の服に腕を差し込んだ。しっとりとした滑らかな鷲見崎の肌に、このまま流れに身を任せたい気になる。胸板まで到着した腕を、鷲見崎が制した。
「宮本、もう帰ってくるから」
酔ったような顔でそんな事を言われると、もっと意地悪したくなるんだけど。前回の鷲見崎が頭を過ぎって、危うく暴走しそうになるのを堪え、オレは鷲見崎の横腹辺りを撫でてからもう一度だけキスをした。
「…また今度な」
そう言うと、鷲見崎が暗闇でも分かるくらい顔を赤くして、小さく頷いた。ホント、心配になるくらい可愛い。どうしよ。
オレが離れると、鷲見崎が玄関の電気をつけて、オレを見送った。全然離れたくないんだけど。そもそも今日はあまり一緒にいれなくて、物足りなすぎる。
そんな事を思いながらも鷲見崎の家を後にすると、そのタイミングで見覚えのある車が走ってくる。ライトで目が眩み、オレは壁と一体化するように車を避けた。細目でその車を追うと、鷲見崎の母親と、その横には男の人が乗っていた。高い鼻に、よく似合った高級そうなメガネをした、背の高い細身の男。色素が薄めのその髪質に、親近感がある。
(え、鷲見崎の父ちゃん…?)
たしか週末にしか帰ってこない単身赴任のはずだ。今日は金曜日…たしかに週末ではあるけど、帰ってくるのは毎週土曜日だって聞いている。
眺めていると、車は鷲見崎の家の駐車場に停まり、助手席から買い物袋を持った男が出てくる。運転席にまわってドアを男が開けると、鷲見崎の母親が出てきた。「ありがとう」と言う鷲見崎の母親の背を支えながら、2人は中へと入っていく。
間違いなく鷲見崎の父親だろう。スマートで優しそうだけど、鷲見崎は見た目、やっぱり母親似だな。
体調を崩していると聞いていた鷲見崎の母親。父親も気にしている様子はあったけど、その表情は穏やかに見えた。病気発覚の時に、あんな表情するだろうか。
鷲見崎は、母親がなんて言ってたって話してたっけ?
『病院にも行ってるし、病気じゃないから大丈夫って言うんだけど…』
「…あ。もしかして…」
オレはこれから鷲見崎に報告されるだろう内容を予想して、その場を後にした。
to be continued...
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