アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
兄弟
-
1.
カキーンッ!!
テレビの野球中継。まさしく今、さっきまで膠着状態だった試合が動き始めた。アナウンサーが興奮気味に実況をまくし立てる。セカンドを抜けた強い打球は、そのままバウンドをして、センターとライト間を突き抜けた。二塁にいたランナーが、ホームへと全力疾走。歓喜か嘆きか、観客の声が波のように押し寄せてきた。
そんなテレビの場面に一瞬意識が向きそうになるけど、それよりもオレは、母親から告げられた報告内容に、空いた口が塞がらなくなっていた。
それは、昨夜の家での話。
「赤ちゃん」
「そう。4ヶ月だって」
「マジか!オレと鷲見崎の子なら可愛いだろうなぁ!責任はとるから任せとけ!」
「アホなの?」
「夢ぐらい見させて」
一夜明けた朝。いつもより早い時間から宮本と約束し、一軍用の野球グラウンドでウォーミングアップを開始した。そのタイミングで、オレは昨夜の出来事を簡素に話した。まだグラウンドにはオレたちしか出てきておらず、閑散としたグラウンドは何となく声を響かせている気がする。
高校生にして初めての兄弟が出来る、という報告をしたつもりのオレに、宮本は意気揚々とそんな事を言い出した。説明が簡潔過ぎたか。まぁ冗談なのは分かってるけど。
「それはさておき。良かったな、いい話で」
「まぁ…な」
「歯切れ悪いな」
「…実感沸かねんだよ。15年間1人だったし」
「たしかに珍しい話だろうけど、ヤッてることヤッてりゃ出来なくもないだろ。お前の母ちゃんも父ちゃんもまだ若いし」
「やめて、想像もしなくない」
「おっと悪いな。もう想像出来るだけ、経験しちまってるもんな」
「お前な…っ」
「ごめんって」
全然悪びれる様子もなく、宮本はケタケタ笑っている。間違いなくこれはセクハラだろ。こんな早朝になに考えてんだか。
兄弟といえば、オレは見たことないけど、宮本には妹がいる。ここ数年会話らしい会話もなく、中学に入ってからは兄に対して反抗期を全力で体現してくるとか何とか。妹なのに怖いって言ってたから、コイツにも怖いって思うことあるんだなぁって漠然と思ってたっけ。
野球で注目浴びてる兄貴がいるって、嫌なもんなんかな。オレだったら誇らしく思うかもしれないけど、どこに行っても「宮本一磨の妹」って言われるのは、たしかにちょっと気分良くないかも。というか、宮本は高飛車とか女好きとかって悪名も高いから、それも反抗期を助長させた原因だろう。
『昔はかわいかったんだけどな。時の流れは時に残酷』
宮本がそんな名言を残してたな。
「オレんとこは下手に年が近いから上手くいってないけど」
すると急に、宮本がそんな話を切り出した。驚いた。オレの考えていることを、見透かしているようなタイミングだったから。
「15も離れてたら、喧嘩もしないだろうな。むしろ、兄弟ってーより子供?みたいな」
「ヤダよ。まだ親にはなりたくない」
「そのくらい年が離れてるよなって言いたいだけだって。オレだって鷲見崎に親になられたら困る」
「さすがにまだならないだろ」
「まだねー。そりゃそうだ」
そう言って宮本は笑っていたけど、その表情と言葉のニュアンスがオレは何となく引っかかった。丁度ランニングが終わったから話しかけようとしたけど、そのタイミングで阿久津先輩と佐藤先輩がグラウンドに出てくる。オレは宮本に話しかけ損ねたまま、2人の先輩に駆け寄った。
「おはようございます」
「鷲見崎おはよ。早いね。宮本も」
「おはよーっす。今日はたまたまっすね。鷲見崎がやる気だったんで」
「真面目だねぇ」
「昨日早目に上がったんで、身体疼いちゃって」
「なにその言い方、エロ」
「は!?何でだよ!」
「まぁまぁ鷲見崎。じゃ、俺たち走ってくるから。後で一緒に練習しよ」
「はい、お願いします!」
「あっくん、行くよ」
「あー…おう」
「動揺してるね…」
「は?してねーよ…!」
そんな事を言いながら、先輩たちは軽く準備運動を済ませて走り去って行く。
なんとなく阿久津先輩は叶先輩との縦線コンビでセット感あったけど、佐藤先輩とのコンビもしっくりくるな。そう思うほど、やっぱり2年生は仲がいい。あ、だけど阿久津先輩、花田先輩のことは嫌いな気がする…。
「あっくん先輩って、お前のこと好きなの?」
「なんでそうなるんだよ。てか、あっくん先輩言うな」
「サトー先輩はともかく、あっくん先輩は要注意だな」
「なにがだよ」
そう言うオレに、宮本が嫌そうな顔をした。
「お前ってホント…無自覚なんね」
「はぁ?」
「いやいい。オレが気をつけまくればいいだけだから」
そう言って、なにやら意思を固めた。
宮本は、オレと仲良い人、みんな排除でもしたいのかよ。ほんと心配性が過ぎる。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
39 / 40